『デカローグ』Blu-ray BOXモノローグ|語りかけてくるモノを見つめて vol.6

Jun 03,2020column

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Jun03,2020

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『デカローグ』Blu-ray BOX モノローグ|語りかけてくるモノを見つめて vol.6

文:
TD編集部 有泉 伸一

ふとした瞬間に語りかけてくる「モノ」たちがある。つい触れたくなる、誰かに伝えたくなる ー そんなモノたちと、それにまつわるエピソードを一口サイズでお届けしよう。

『デカローグ』Blu-ray BOX

2020年3月19日。自分の誕生日に届くよう配達指定をして『デカローグ』のBlu-ray BOXを買った。

新型コロナウイルス感染拡大により、世界中で多くの人が命を落とした。マドリッドではスケートリンクが遺体安置所に転用され、ニューヨークにある病院の駐車場には何台も冷凍車が並び、人々は隔離から生じる孤独に怯えていた。

ニュースを見ているとひどくやるせない気持ちになり、テレビを消した。
そしてぼんやりと『デカローグ』をもう一度観たいなと思った。
人間の孤独、憂鬱、苦悩、不条理、死、神、そして愛や希望を、全10話の映像や台詞から掬い取り、噛みしめたくなった。

しかし、部屋にあるビデオ版はレンタル落ちで画質が酷いし、友達を呼んで部屋で上映会をひらいたアップリンクのDVD版は、誰かに貸したままディスクが2枚戻ってきてない。
こんな辛い時代だからこそ、再び『デカローグ』を取り戻さなくては! と、2月末に発売されたHDマスター版を買うことにした。

なにより54歳は監督のキェシロフスキが亡くなった年齢だ。同じ歳になる自分へのバースデープレゼントにぴったりだと思った。

段ボールを開けてパッケージが視界に飛び込んできた瞬間、様々な記憶が呼び覚まされた。1996年の初詣の帰りに2人で前売5回券を買ったこと、1月末から「銀座テアトル西友」に毎週通ったこと、作品について語り合った東京駅までの道のり、冬の曇天、マフラーを巻いた彼女の横顔。

たとえ本編を再生しなくても、そばに置いてパッケージを眺めるだけで、当時の感覚が蘇る。自分の人格形成に影響を及ぼした大切な時間や核となるルーツに対峙することができる。そういう映画作品を、モノとして手元に残しておきたい。
時としてそれらは、弱ったり、怯えたり、戸惑ったりした時の大きな救いやお守りにもなる。繰り返し観た映像や台詞が手元にあり、それらが心の奥底で自分を支えてくれるという絶対的な信頼感や安心感は何にも代えがたい。
同じ作品でも、観るときの自分の在りようによって心に刺さるシーンは異なり、そこから今大切にしたいものや、軸にしているものが浮かんでくる。

もしあなたが『デカローグ』ファンならいつか語り合いたい。みんなと少し違って僕は第8話が好きなんだ。(おしまい)

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『デカローグ』Blu-ray BOX

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