妹尾河童の『河童が覗いたインド』
小学生のころ家の本棚で見つけて以来、ことあるごとに眺めている。
精密なイラストにも十分驚くのだが、なんと本文がすべて手書きという狂気すら感じる本だ。
ホテルで泊まった部屋はすべてサイズを測って俯瞰図を描き、ドローンも無い時代にタージマハールを上から眺めた想像図までつくってしまうあたりは、さすが舞台美術家といったところ。
何にでも興味を持つ、好奇心の塊のような著者の視点も面白い。
壮大な遺跡から街の屋台まで、鉄道の一等寝台車から庶民がカレーを入れる弁当箱まで、インドのさまざまな景色が、興味の赴くままギュッと押し込められている。
この雑多な視点こそが、旅の魅力だ。
ハイライトだけを効率よく見て回るのではなく、美しい風景も汚い路地も、楽しいことも面倒なトラブルも、全部ひっくるめて体験することに意味がある。
こればっかりはZoomでは体験できない。
何週間も外出できない今、僕は毎日のようにこの本を眺めては、移動することの価値を噛みしめている。
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河童が覗いたインド(新潮社, 妹尾河童)
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