前回の記事:Sneak Preview「アクシスと考えるこれからのデザイン」
編集の仕事で一番大切なこと
上條:もともとはファッションを勉強していました。卒業後フランスに遊学していた際に、現地の書店で『AXIS』を知り、
編集長は2017年から務めているんですが、僕は今48歳。10年くらい前に言ってほしかったというのが本音です(笑)。というのも、編集の仕事で一番大切なのは体力だからです。雑誌づくりと言うと、デスクワークのイメージがあるかもしれませんが、ぼくはできるだけ外に出るようにしています。「リサーチ」のためではなく、街を歩いているといろんな状況が見えてくるからです。自然に良い情報が入ってくるようになるためです。
ちょうどさっきも『AXIS』の増刊号として発売する、フォトアートマガジン『hinism』(ヒニスム)の営業のために書店に行って、店員さんと話をしたりお客さんの様子を見て刺激を受けたところです。そんな風に、ぼくにとって編集は脳だけでなく、身体のいろいろな筋肉を使う仕事で、本当は若い人に向いているんです(笑)。
はい。『AXIS』が一番売れているのは書店です。新聞や電車の中吊りでは広告を出さない代わりに、店頭での出会いを大切にしています。棚に入れると背しか見えなくなるので、できるだけ書店で平積みにしてもらって、表紙を見て一瞬で興味を持ってもらえるよう心がけています。
副編集長の谷口真佐子、さらに編集者2人の4人体制ですね。
いまの世の中、「役に立つ」ことばかりが取り沙汰されるけど、それが今すぐでなくてもよくて、たとえば3年後に「役に立つ」でもいいと思うんです。だから「こういうデザインにすると売れる」みたいな即興的な基準だけでは動かないようにしていて、社会や人の心の機微をデザインの力で丁寧に動かしていきたいと考えています。
よくデザインは「社会の写し鏡」みたいに言われることがありますが、ぼくたちはむしろ「次の一手」を出していきたいと思っています。だから基準があるとすると「社会を動かすこと」。そしてその可能性をデザインに見ています。(雑誌づくりは)そのための鉱脈を掘っていくような作業ですね。
これは前編集長の石橋のときからかもしれないし、もしかすると雑誌の創刊からあったコンセプトかもしれません。狭いデザイン業界に対してではなく、社会全体を向いてつくってきたという自負のようなものはあります。
『AXIS』の新たな挑戦
『AXIS』は基本的に「特集」「連載」「トピックス」の3つのコンテンツで構成していて、その中でも「特集」に最もメッセージを込めいます。読者の方にもそこに興味を持ってほしい。ですが、以前のフォーマットでは表紙の「人」と「特集」の内容がリンクしていない状況があったりしたのでそこを整理したいと思いました。
ある意味で雑誌にとって表紙は一番のアピールの場です。そこは最も発信したいことを簡潔に伝えるところでもあります。
20年続いたカバーシリーズをやめる際にヒアリングしたところ、やめることを肯定的に捉える人もいました。
かつてのデザイン事務所は一人の偉大なデザイナーがいて、あとは匿名の事務所スタッフが実務を行うようなイメージでした。
でも、いまはチームビルディングやコクリエイションによる手法が主流になっていて、いろいろな人の集合知によって、新たなクリエイションが生まれている。これまでの『AXIS』の表紙は「一人の偉大なデザイナー=マエストロ」を推し出すものでしたが、いまの時代のそれだけではないとの思いもあってリニューアルの際にフォーマットを変えたというわけです。