【連載】「ロボットがいる日常」をデザインするvol.2 未来で評価される仕事

Jul 20,2018interview

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Jul20,2018

interview

【連載】「ロボットがいる日常」をデザインする vol.2 未来で評価される仕事

文:
TD編集部 成木

ロボットデザイナー・松井龍哉(まつい・たつや)氏へのインタビュー。第2回では新しい産業であるロボットデザインの現実について聞いてきた。未来を切り拓いていくための仕事の取り組み方、苦悩、その中での楽しさはどのようなものなのだろうか。

(前回の記事)vol.1 暮らしになじむ、環境音楽のようなロボット

ロボットをつくってほしいという依頼は一度もなかった

前回はロボット開発のプロセスについて伺いました。「モノづくり」って、クライアントワークとそうでないものに分かれると思うのですが、松井さんたちの「ロボットデザインの仕事」はどちらですか。

松井:どこかの会社からロボットデザインの依頼を受けたことは一度もなくて、全部自分たちで企画しています。あと何十年かして、いろんな企業が家庭用ロボットとかをつくり始めればまた話は変わってくると思うのですが……、少なくともこの20年はロボットをつくってほしいという依頼は全然なかったですね(笑)。

厳密にいうと、 姿カタチだけをなんとかしてくれっていう話はあったんですけど、そういうことには興味がなくて。
ただ、そもそもロボットってなんだ? というところから、ロボットの存在はどうあるべきか、人工知能は社会にどう活かせるのか、そういうところを深く考え、企業や投資家と議論するところから始まるケースはあります。

フラワー・ロボティクス社で最初に手がけた『Posy』(ポージー)はまさにそんなケースでした。アメリカのスーパーコンピュータメーカーの老舗であるシリコングラフィックス社から「ロボットを作りませんか?」というメッセージをいただいて。 予算だけが決められて、あとはこちらに任せてもらうという珍しいプロジェクトでした。
『Posy』の制作時に意図したのは、機械の印象を和らげること。「3歳のフラワーガール」というコンセプトで、無垢な存在感を表現することによって”ロボットの穏やかさ”という新たな価値観を打ち出したいと思ってつくりました。
シリコングラフィックス社は私の考え方を全て受け入れてくださり、開発時には様々なバックアップも頂きました。作り手を信じて重要なコンセプトワークをまかせてくれるシリコンバレー的な文化は素晴らしいと思ったものです。
『Posy』。ハリウッド映画『Lost in Translation』、ルイ・ヴィトンのショー等出演多数。
(松井デザインスタジオHPより)

しかしこれまで開発してきたロボットとそのクライアントとの関係作りにおいては、まず自分の考えるロボットのプロトタイプを作り、世に発表し、このロボットと一緒に何かをやりたいという企業などが集まって来るという方法が圧倒的に多いです。私達にとってはこの方法が効率的です。

念のためお伝えしておくと、私が一人のデザイナーとしてお受けしているロボット以外のプロダクトや建築の仕事は、クライアントからの依頼をお引き受けする形で仕事をしています。これは松井デザインスタジオという私のデザイン会社で受けています。フラワー・ロボティクスはロボットの開発と販売をする会社です。会社の定款もビジネスの流れも2つの会社は根本的に違います。

前回お話ししましたが、ロボットデザインの場合は、カタチのデザインだけでなく、機能設計や社会的意義もつくる必要があります。
家庭用とか一般コンシューマー向けのロボットのマーケットって、世の中にまだほとんどないんです。流通しているのはルンバくらいですよね。マーケットをつくり、資金調達を含めた製造プロセスもデザインしてしていきます。実は、マーケットそのものをデザインしていくのって、ものすごくクリエイティブな仕事だと思います。

世の中にないものを売っていく

マーケットをデザインするというのは具体的にどういうことなのでしょうか。

ソニー創業者の盛田昭夫さんの本に「無いものを売っていくことで会社の価値が上がる」とあります。
むしろ無いものを作っていく会社しか残っていかない。
真似して作ったものを使いやすく改良していくという方法もあるんですけど、それはやっぱり二番にしかなれないんですよね。
「無いものを売る」ということを考える上では、創造的なマーケティングが必要になってくる。事実やデータを集めただけのマーケティングは何の役にも立ちません。確証を見つけていくために、いろんな実験をすることがマーケティングになっていきます。

「確証を見つけていくためにいろんな実験をする」、ですか。問いを立てる力が問われそうです。

例えば最近だと「買う」という行為の概念が大きく変わってきています。ひとつひとつのモノに対してお金を払っていたところから、定額制モデルが普及してきている。音楽の分野では顕著ですよね。
かつては絶対に儲からないと言われていましたが、もうみんな当たり前に使っている。マーケットがないところから、未来を見抜いていた人がいて、何人かが投資をしてくれて、事業を続けて、やりきったから今の結果につながっていると思うんです。

ロボットは「今やっていること」が歴史になる
 

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