【連載】心を動かすgoen°のデザインvol.2 正しく受け取り、次の人に渡す

Apr 06,2018interview

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Apr06,2018

interview

【連載】心を動かすgoen°のデザイン vol.2 正しく受け取り、次の人に渡す

文:
TD編集部

アートディレクター・森本千絵さんへのインタビュー第二回。念願叶って広告代理店に入社した彼女の最初の配属先は、グラフィックデザインではなくなんとCMの部署だったという。しかし、その時の経験がなければ「今の自分はない」と語る森本さん。その真意とは。

(前回の記事)vol.1「森本千絵」をつくった美大生時代

「早くグラフィックデザインをやりたい」と思っていた研修中。
最初に配属されたのはCMの部署だった

前回は森本さんが美大生だった頃について伺いました。今回は博報堂時代について聞いていきたいと思います。ずっと目標であり、憧れだった広告代理店に新卒で入社されて……どうでしたか?

森本:入社後、本配属の前に研修がありました。現在は1ヶ月くらいのようですけど、私たちの代はクリエイティブ部署の元ADと元コピーライターが人事になった年で、実験的に1年間の研修が行われました。ストプラやキャスティング、営業職まで……1週間から2週間おきに全職を体験しました。それぞれ課題が出されて、それらの課題に向き合い、実践まで落とし込むという1年でした。
いろいろな部署の上司が講師になり、私たちは博報堂の中のあらゆる部署の仕事を勉強させていただきました。とても良い勉強になりましたが、当時は純粋に早くグラフィックデザインをやりたい、ポスターのデザインをやりたいなと思っていました。研修中は、なんとなく遠回りをしている感覚でしたね。

本当はグラフィックデザインを中心に行う制作部に行きたかったのですが、研修中、プレゼンテーションの時に芝居など演出に力を入れていたら「こいつは映像だな」と思われてしまって(笑)。研修後はなんとCMのチームに配属されてしまったんです。ここでまた、思っていたのとは違う方向に流れてしまったんですよ。
最初は、黒須美彦さんのチームに所属しました。黒須さんは美大卒の子に関心があって、そういった子が描くCMの絵コンテも好きっていう人でした。
彼は最初に私に小津安二郎さんの全集を渡して「小津さんを勉強しろ」とおっしゃいました。女の子の日々をどうつむぎあげるかなどを細かく教わりました。「大きな事件」のない日常のなかの、ささやかな演出の仕方を学びましたね。

そんなかんじで、新人時代の3、4年くらいはCMに携わっていました。
CMの「雰囲気」を提案するというポジションを自分で作って、のめり込むように仕事していました。

私にとって転機となったのが、その頃手がけさせていただいたMr.Childrenのベスト盤の告知のために作った防波堤のポスターでした。
これは多くの出会いがあったお仕事で、ADCという賞を頂くこともできました。
この受賞を機に、「森本はグラフィックデザイナーだ」と周囲に認知されて、肩書きが変わったんです。この仕事後にチームも変わり、デザインを手がけることが増えていきました。

森本氏が手がけたMr.Childrenのベスト盤のポスター。
新聞広告に加え、この案も採用され電車の中吊り広告になったという。

世の中に知られていない「天才」たちとの仕事

やはり広告代理店のイメージどおりに、多忙な日々だったのでしょうか。

そうですね。五月雨式にどんどん案件が舞い込んでくる日々だったので、「こっちの撮影に立ち会わなきゃいけないけど、あっちの企画を完成させなきゃいけない。こっちの打ち合わせを進めなきゃいけないけど、あっちのデザインも仕上げないといけない」ということが常に20個ぐらい重なっている状態でした。

そんな数を同時に、どうやってやりきってきたのですか?

会議室とかに大きな机を用意して、白い紙を広げて案件別に箱を置いて、思いついたものから描いて仕分けていくんです。
「この仕事だけやろう」という考え方じゃなくて、一つの仕事をやりながらフッと思いついたことを別の企画の方に使ってみる。脳が同時に動くというか……そういう感覚です。今でも仕事がいくつか重なったら、それぞれを区切らず、境をなくして考えています。

発泡酒「8月のキリン」(サントリー)では、パッケージ・CMデザイン以外にもポスター、ショートムービー、展示会も企画。本やCDも制作をすることになった。

当時は仕事もたくさん舞い込んできましたが、それに加えて、人との出会いにもすごく恵まれていたと感じます。博報堂の中で、あらゆるクリエイティブディレクターと仕事したデザイナーは私ぐらいだと思いますよ。決まって少し変な上司ばかりでした(笑)。ただ、変だけど「天才」でした。

「天才」ですか。

そう。社内では有名だけど、外部の人は知らない、「天才」。私はそういった方とばかりと縁がありました。
その人たちと比べたら、私なんて割と普通な人間ですよ。ADC会員になったり、メディアの取材を受けさせていただいたりして、名前がちょっと前に出ただけです。
本当に才能のある人は世の中に知られていません。学生にも知られてないだろうし、雑誌にも載ってない。本当の天才たちは、そういうのが嫌いで広告賞にもエントリーしない。第一、そういったことを面倒くさいと思っている人たちなんです。

音、映像、1枚の絵とグラフィックデザインを融合させる世界
 

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