グッドパッチが手がける、UI/UXデザインとは
「グッドパッチ」という企業がある。アプリをはじめとするUI/UXデザインを手がけるだけでなく、プロトタイピングツール「Prott」、フィードバックツール「Balto」という自社プロダクトも展開している。
同社は今年4月に3回目の資金調達を実施し、Fintech領域を中心にIoTやヘルスケアなどの分野のクライアントワークに力を入れていくという。
特にFinTech領域に特化したUX/UIデザインチームを発足させ、資金調達後のファーストプロジェクトとして、SBI証券とのプロジェクトを進めている。同社のネット証券事業におけるUI/UXデザインの改善から組織へのデザイン文化の浸透に取り組んでいるという。
ここで簡単に、UIとUX、そしてそれぞれを「デザインするということ」についてまとめておこう。
UIとは「ユーザーインターフェイス」の略で、パソコンやスマートフォンなどの機械とユーザー間の情報をやりとりするためのインターフェイスを指す。このUIの使いやすさを測る尺度は「ユーザビリティ」と呼ばれ、ユーザビリティ向上のためにインターフェイスをデザインすることをUIデザインという。
UXとは「ユーザーエクスペリエンス」の略で、ユーザーがサービスを使った時に得られる経験、満足度などを指す。UXデザインは、ユーザーがそのサービスにポジティブな感情を得られるように、ユーザー視点でポジティブな感情や行動を得られるようにサービス全体をデザインしていくことを指す。
日本にUI/UXデザインという概念を持ち帰ってきた男
グッドパッチの採用広報Blogでは、同社の創業ストーリーが語られている。
27歳、妻子持ち、海外経験ナシ、起業を諦めかけたサラリーマン。
2010年のある日、そんな土屋の元に定期預金が満期になったという通知が届きます。それは、亡くなった祖母が土屋の名義で作ってくれていたものでした。祖母が背中を押してくれている、と思った土屋は会社を辞め、「いつかできれば」と先延ばしにしていた起業に挑戦することを決意します。
いざ、シリコンバレーへ!当時大阪に住んでいた土屋は、カンファレンスがあると聞けば東京へ上京していました。
ある時、DeNA 代表の南場さんが講演で語った言葉に感銘を受け、シリコンバレーに行くことを決めます。「最初から世界展開を見据えているシリコンバレーのような会社に、スピードでかなうはずがない。これから起業するのであれば、多国籍軍をつくりなさい」
土屋氏とグッドパッチの歩みはここから始まる。
妻子と共に渡米し、シリコンバレーカンファレンス2011に参加した土屋氏。その後、グローバルイノベーションをデザインするコンサルティング会社「btrax」でインターンとして過ごした3ヶ月間で、サンフランシスコのスタートアップのビジネスの特長を肌で感じたという。特に「デザイン」中心の考え方――「UXを第一に考え、β版からUI設計し、機能やビジュアルを考える」ことを基本としたサービスの開発手法に大きく触発された。
今でこそ日本にも「UI/UX」という概念が浸透してきているが、当時はまだまだデザインと言えば「キレイに整えてあればいい」という時代。特に日本のモノづくり特有の「多機能搭載こそが最良」という考え方は、シリコンバレーのそれとは真逆に見えたという。
帰国後、土屋氏はグッドパッチを創業。シリコンバレーカンファレンス2011での出会いをもとに、当時創業間もなかったグノシーのUIを全面的に引き受け、成長に寄与した。評判が評判を呼び、UIデザイン専門のデザイナー集団として現在も多くのクライアントワークを抱えている。
2015年にはベルリンに進出し、自社プロダクトのProttはグッドデザイン賞を受賞。2016年には渋谷オフィスを5フロアまで増床し、当時β版だったフィードバックツール「Balto」もグッドデザイン賞を受賞、第二の海外拠点である台北へも進出した。
その他、土屋氏は経済産業省の第4次産業革命クリエイティブ研究会の委員にも選出されたり、教育分野でも様々な大学で寄附講座を開催したりと多方面に活躍の幅を広げ、製品やプロダクトの「UI/UX」、もっといえば社会的な「デザイン」に対する価値を改めて再定義しているように見える。
デザイナーではなかった土屋氏が語る「デザインとの出会い」
そんなグッドパッチを今回インタビューで取り上げる理由。それは、「もともとデザイナーではなかった土屋氏から見える『デザイン』の世界を覗いてみたい」と思ったからである。
デザイナーを志すきっかけは人それぞれだが、「絵を描くのが好きだった」「モノをつくるのが好きだった」という理由であることが多い。
しかし彼に「デザインとの出会い」を聞いてみると、意外な答えが返ってきた。
「iPhoneです」と。
彼が心惹かれたのは、iPhoneが持つ圧倒的なユーザーインターフェイスの力だった。
ユーザーが直感的に利用することができ、アプリを通じて得られる体験の「気持ちよさ」がダイレクトにビジネスの成長に響いてくる。ユーザーからのフィードバックが企業成長に繋がる「UIデザイン」という領域に、彼はのめり込んでいったのだ。
以前から「人間工学」という領域は国内外に研究している人々がおり、それを活用して商品やサービスの使いやすさを向上させるという取り組みは多くの企業が行ってきた。しかし、ウェブサービスやアプリケーションの開発においては、それらの既存の取り組みの何倍も、UI/UXデザインが重要視されるようになっている。
UX設計からUIデザイン、開発実装まで同社がトータルで手がけている。
同じようなサービスが溢れている現代において、「多少使いにくくても我慢して使う」という選択肢をユーザーは選ばない。ビジネスを成長させるためには質の高いUXが不可欠であり、そのためにはUIを適切にデザインすることが必要なのだ。
次回より、3回に渡って土屋氏にインタビューをしていく。デザイナーのみならず、全てのビジネスに関わる方に読んでいただきたい本連載。乞うご期待!
※『【連載】グッドパッチが挑む、デザインの社会的価値の向上 – vol.1 デザインが経営に与える4つの力』は7月14日(金)更新予定です。