ブランディングデザインに不可欠な、整理とリサーチ
服部:ブランディングを漢字にすると何だと思いますか?
実は「物語」なんです。物を、きちんと語ること、それがブランディングです。
ものごとの整理能力や、リサーチといったところが、一番能力を使うところかなと思います。デザイナーって翻訳家に近いと思うことがよくありますね。難しいことや、理解しにくいことを、いかに分かりやすく伝えていくか。絡まった糸を解くような作業が大切だと思います。
そうですね。リサーチはデザインの80%を占めていると思っています。リサーチの中からコンセプトを見つけ出さないと絶対に形にならないので、重要なポイントですね。我々が手がけている地域ブランディングのプロジェクトでは、まず現地に行ってリサーチをして、テーマを3つくらいに絞って、それをどのように発信するかを考えていくことで進めていきます。
僕は民俗学が大好きで、中でも「考現学」の中にあるモノを見る力、感じる力はデザイナーに大事な要素だと常日頃から思っています。
それから今日お話しする地域ブランディングに関しては特にそうですが、「よそ者と中の人」という関係も大切ですね。よそ者だからこそ、その地域では日常的な事が神秘的に見えたり、そのもの自体の形や変化に興味が持てると思うんです。それに、中の人が中の問題を理解しているわけではないので、オーダーも間違っていることがあります。なので、リサーチの中で、クライアントの本来の要望というものをきちんと探さなければいけないんです。
それぞれのプロジェクトによって、リサーチの内容などは変えているんですか?
全部違います。その土地ごとに、オリジナルなリサーチの手法を考えています。リサーチ内容が1冊の書籍にもできるくらいそれぞれの調査内容を緻密に構築しているので、リサーチ結果そのものが意味を持ちます。リサーチにこそオリジナルが必要です。
非効率なことをしているなと自分でも思いますが、効率よりも「どれだけ力を傾けられたか」が大事だと感じています。数をこなしていると、なんとなくパターンを読めたりする時もありますけどね。
地元の人の「普通」の中にある「特別」を伝える
僕らのブランディングの活動を見てくれた滋賀県さんが、県のブランディングのお仕事の相談をしてくださいました。滋賀県で培われていた魅力を県外や海外へ発信し、ブランド力を高めたい、ということでした。プロジェクト名は「湖と、陸と、人々と。MUSUBU SHIGA 」。ものを作らず、商業的なことをしないデザインをおこなったプロジェクトになりました。
ここでは「歴史・ツーリズム・ランドスケープ・クラフト・産業・食」という6つの切り口を用意し、それぞれの専門家と共に調査しました。それぞれのリサーチから滋賀に眠っていた魅力を発見して、映像や記事にしてWebで発信。東京では報告展示も実施しました。
例えば「ツーリズム」のテーマではPAPERSKY編集長のルーカスさんにリサーチしてもらったんです。彼に滋賀で行きたい所を尋ねると、鯖街道を歩きたいと提案してくれました。
鯖街道は、ほぼ大半が滋賀県にあるルート。「街道沿いで人々をもてなしたのは、滋賀県民のはず。だから、歩いている途中で出会った人々に昔の話を聞くことで、滋賀県のもてなしの心が映し出されるのではないか」という仮説を立ててリサーチをしました。
ルーカスさんがリサーチで語ってくれた言葉がすごく印象に残っています。
「歩くという行為でこの道を見ると、過去、先人がこの道を残そうとした理由が見えてくる」。
「二本足で歩くことは、昔から変わらない。この風景が残った理由は、この道にあるんだと感じられる」。
僕らはそのルーカスさんの言葉を滋賀のツーリズムの魅力として発信していきました。
地域ブランディングのお仕事をしていると気づくのですが、今まで“普通”だと思っていた自分たちの暮らしが“特別”だと気づかされると地元の人々が元気になるんですね。そして、”特別”なことをきちんとピックアップして教えてあげると、他の都道府県の人たちも興味を持ってくれるんです。