20%の「余白」がユーザーとモノとの間に対話を仕掛ける
服部:今の時代、ユーザーが馬鹿になってしまっているという意見があります。一概にそうとは言えないけれど、全体的にみて、そうだなと感じています。
理由の一つとして、ワンクリックでモノを購入できる時代になったことが原因だと感じますね。昔に比べてモノが人に近づいてきているんです。
昔はモノを買うために、少しおしゃれをして百貨店まで行っていたけれど、すぐ近くにショッピングモールができた。さらに、近所にコンビニがいくつも建って24時間いつでも買い物ができる。そして近年ではwebを使って家から出ずに買い物を済ませられてしまう……。
そうなると、人はお店に行って見るという経験をせずに、ラクをしてモノを消費するようになるんですね。また、値段という側面でしかものを見ていない人も少なくありません。検索キーワードも「椅子_最安値」「椅子_人気」とか……そうなると、モノを見る目が育つ訳がないんです。
こういった消費の現状を見て、「だからダメだ」という人がいますが、それは違います。メーカーや作り手がそういった現象にさせてしまった面もあるのだから、これからはユーザーが賢くなるよう、デザイナーが仕掛けるべきだと思います。
このインタビューの最初の回でお話ししたことですが、「余白を考えたデザインをすること」です。僕らは100%の完成品ではなく、ユーザーがオリジナルな使い方をできる隙間のある、80%くらいの完成度のものをうまくデザインしていくべきです。
20%くらいの余白を仕掛けて、ユーザーがモノと対話できるようにするんです。使った分だけ味が出るようなものを作るべきだと思いますね。
モノ自体の完成度を低くするという意味ではなく、レスポンスが生まれるようなデザインですね。ユーザーは、もしかしたらデザイナーの想像を超えるような使い方をして、ものの完成度が100%じゃなく120%になっていく可能性も十分ありえます。僕らも、そうなったら嬉しいです。消費するだけではなく、モノから学ぶことのできるようにデザインする必要があると思いますね。
それこそ、僕らが頑張らなければいけないですよね。今は、ネット自体が広報の場になっているので、その中でモノの成り立ちや、使い方、関わっている人をいかにうまく伝えるかです。
伝え方や見せ方に関しては、多くのメディアが研究していますよね。たまに通知が来て、読んでみると興味が湧いて、自然と先に進みたくなります。でも、その先に進むにはお金を払わなければいけない。よくできてますよね。
ユーザーを、その先に至りたいと思わせる、そんなテクニックをデザイナーも使っていくべきだと思います。
刺激を求めるユーザーに対し、デザイナー自身がきちんと発信を
人々は、暮らしに対して少なからず、刺激を求めていると思います。暮らしに更新性がないと飽きてしまうので。新しいものを取り入れて生活を楽しくしたいという気持ちがあると思います。
また、併せて非日常的なことを感じたいとも思っていると思うんです。今って体験型のサービスに飛びつく人が増えていて、例えばワークショップで自分でバックを作ったり、お茶の教室に行ってみたり、何人限定のレストランに行ってみたり……暮らしの中に刺激を求めているんですね。
なので、今、僕ら作り手・デザイナーがきちんと、モノの良さや地域の良さを、彼らに向けて発信しなければいけないと思います。
壁のない、大きいワンルームに実験的に暮らしています。大きなダイニングテーブルを半分に分けて、仕事とご飯の場所をシェアしています。広さは30畳くらい。約56平米です。
アンチLDKを立証したいと思っているんです。求めているスタイル感もデザイナーが説得力をもって伝えるべきだと思っているので、こんな部屋に住んでいます。家族それぞれの物音が聞こえたり感じたりする、それが良いと思うんです。物音を遮断するLDKという概念が嫌いなんです。憧れは、建築家の清家清氏の「私の家」という作品です。昔の部屋に見られたような、ワンルームの中に子どもの空間もつくっちゃうようなレイアウトこそ、必要なのではないかと感じますね。