【連載】雑誌『CAR STYLING』の軌跡と奇跡 vol.1

Nov 30,2016interview

#Car_Design

Nov30,2016

interview

【連載】雑誌『CAR STYLING』の 軌跡と奇跡 vol.1

文:
TD編集部

日本のカーデザインを世界に。カーデザインの魅力を日本の読者に。
そんな想いで1973年、一人の熱意ある編集者が生み出した雑誌『CAR STYLING』。単なる業界誌、専門誌という枠組みを越えてデザイナーの育成という機能まで果たした同誌だが、藤本彰・初代編集長は自動車デザインの将来をどのように見据えているのだろうか。CAR STYLINGの発刊秘話、編集裏話と併せて3回連載でじっくりお伝えしよう。

Vol.1 40年以上、国内外のカーデザインを見つめ続けた男。
彼の瞳に映るカーデザインの過去、現在、そして未来。

時は高度成長期真っ只中。自動車が庶民の生活にようやくなじみ始めた頃、一冊のカーデザインの専門誌が日本に誕生した。そのきっかけは、ある一人の編集者がトリノに出張したことだった。カーデザインの聖地と呼ばれるトリノで、数多くのカロッツェリア作品を目にした彼はそのレベルの高さに強い感動を覚え、一方ではヨーロッパの人々が語る日本車のデザインの貧しさを知り、日本が海外のカーデザインのレベルに追いつくには優れた情報誌が必要だと悟る。
解説をバイリンガル(和英両文)で掲載すれば、欧米の自動車会社やデザイン開発会社からも情報を入手しやすいのではないか――。
こうして発刊されたのが雑誌『CAR STYLING』であり、その初代編集長こそ、今回インタビューする藤本彰氏である。

CAR STYLING初代編集長 藤本彰氏
CAR STYLING初代編集長 藤本彰氏

「インターネットが普及する以前、世界とつながり新鮮な情報を得るには雑誌の発行が最も適切な手段だった」と藤本氏は語る。デトロイトやトリノの最新デザイン情報は日本の自動車メーカーのデザイナーたちを大いに刺激し、カーデザイナーをめざす若者たちにとって絶好の参考書となった。学生時代にCAR STYLINGを手にして進路を決め、デザイナーになった若者や、自らの作品が誌面で紹介されたことで名だたる企業から採用された、という人たちも世界のあちこちにいる。
そんな藤本氏は今、自動車デザインの「今」と「これから」をどのように見つめているのだろうか。

将来の市場を見据え、2つのマーケットに向けて違う車を創るということ

藤本さんは、最近も多くのモーターショーを取材されているとか。どういった地域のモーターショーに注目していらっしゃいますか?

藤本対象は世界中ですが、視点としては自動車先進国そして自動車発展途上国というカテゴリーで見ています。自動車先進国は主にアメリカ、ヨーロッパ、韓国、中国、そして日本です。自動車発展途上国は主に東南アジア、ロシア、インド、南米、アフリカなどでしょうか。それぞれマーケットも文化も異なります。中国はすでに生産も販売も世界トップといえますから、途上国ではありません。お断りしておきますが、私は世界のすべてのモーターショーを取材しているわけではありません。行けるとよいのですが。

世界各国のモーターショーを取材
カーデザインは地域ごとに違うのでしょうか?

藤本マーケットで求められているものが違えば必然的にデザインも変わってくると思います。例えば自動車先進国がこれまで求めてきたのは、省資源、省燃費、低公害など地球環境にやさしい車であり、利用者にも歩行者にも安全な車で、美学的にも満足できる車です。
そのニーズに対応する技術を先進諸国の自動車メーカーは備えているということです。
これからは、自動運転システムやカーシェアリングなど、先進技術や使われ方への対応が大きな課題です。その一方でタイヤが4個ついていて走れればいいというニーズも、自動車発展途上国においては大きい。まずは、安くて使いやすい、そして壊れにくい車を供給することが必要でしょう。業界のトップを走っている自動車メーカーは、まさにこの両方のマーケットに対応しようとしています。

マーケットのニーズに合わせたカーデザインが求められる
両方のマーケットに対応するのは、苦労も多そうですが……

藤本もちろんそうです。しかしトップグループのメーカーは先進技術の開発ではライバルとしのぎを削りながら、一方で途上国の大きなマーケット・シェアを維持するしかないのです。だから最近は財務負担を軽減するために、トップ・メーカー同志で開発技術の提携を結んだりしています。中には中国の一部のメーカーのように、先端技術よりも現状のマーケットに合わせて、途上国向けの輸出に力を入れているところもあります。日本企業にとっては非常に怖い存在です。

「ぶつからない」なら、車が今と同じ形である必要はない

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