固定概念を軽やかに打ち壊す、根津氏のデザイン
外装が布でできたキュートな小型EV。アニメの世界から飛び出したような電動バイク。拡大すればそのままサーキットを走れそうなリアルなミニ四駆。デザイナーの根津孝太氏は、見るものをワクワクさせるような製品を数多くデザインしている。
トヨタ自動車でデザイナーとしてキャリアをスタートさせた根津氏。トヨタでは愛・地球博でトヨタグループ館に出展された未来の乗り物「i-unit」のコンセプト開発リーダーを務めるなど輝かしい実績を残した。2005年に独立してznug design(ツナグデザイン)を設立後は、カーデザインにとどまらず、幅広いジャンルを手がけるプロダクトデザイナーとして活躍中である。
独立後の彼の仕事は多彩だ。ベストセラー水筒やランチボックスといったライフスタイル用品から、ミニ四駆、ラジコンなどのホビーグッズ、そして自動車や電動バイクをはじめとするモビリティ。デザイン対象を本質から捉え直すことで「こうあるべき」という固定観念を軽やかに打ち壊して見せる。そんなデザインが根津さんの仕事の真骨頂だ。
例えば、ダイハツのオープンカー「コペン」は、車体の外装が着せ替えられるという斬新なコンセプトで注目を集めた。この着せ替えのコンセプトには、ユーザーとの関係性に関する根津さんの考え方が反映されている。このプロジェクトをはじめるにあたり、根津さんはチーフエンジニアの藤下氏をある場所へ連れて行ったことをインタビューで明かしてくれた。
また、未来の超小型モビリティ「rimOnO(リモノ)」は、なんと外装が布でできている。これも奇をてらったわけではない。超小型モビリティがどうあるべきかを考え抜いた結果、ぬいぐるみのようなキュートなルックスにたどり着いた。
コミュニケーションを活性化することでより良いモノを生み出せる
根津さんのモノ作りのキーワードとなるのが「コミュニケーション」。自らの肩書きを「クリエイティブコミュニケーター」とするくらい、制作過程でのコミュニケーションを大切にしている。2016年10月には、モノ作りとコミュニケーションを主題にした本も出版している(『アイデアは敵の中にある 「結果」を出す人は、どんなコミュニケーションを心がけているのか』中央公論新社)。
コミュニケーションを活性化することで、チームの能力を最大限に発揮でき、よりよいモノを生み出せるというのが根津さんの信条だ。インタビューの中で「はじめに自分が描いたスケッチの通りのモノができあがってしまったらヤバイと思った方がいい」とおっしゃっていたのが印象的だった。
チームの能力がフルに発揮できれば、当初の予想を上回るモノができあがる。そのために根津氏は、会議にあえて荒削りなアイデアを放り込んだり極端な案を出したりと、議論を活性化させるために手を尽くす。
そんな「根津流のモノづくり」とは、いったいどんなものなのか。未来のモビリティに対してどんなビジョンを持っているのか。インタビューを通じて解き明かしていく。
現役デザイナーも、デザイナーを志す学生も、現在モノづくりに携わるすべての人にとって刺激になる言葉が満載の本連載。お楽しみに!
※「【連載】根津孝太さん、『いいデザイン』って何ですか? vol.1 いいモノを作るために必要な「覚悟」 」は11月22日(水)公開予定です。