【連載】 根津孝太さん、「いいデザイン」って何ですか?vol.1 いいモノを作るために必要な「覚悟」

Nov 22,2017interview

#znug_design

Nov22,2017

interview

【連載】 根津孝太さん、「いいデザイン」って何ですか? vol.1 いいモノを作るために必要な「覚悟」

文:
TD編集部

トヨタでカーデザイナーとして活躍し、独立後は水筒から電動バイクまで、幅広い製品のデザインを手がける根津孝太さん。全3回の連載、第1回は「いいプロダクトを作り上げるためにはコミュニケーションが最重要」と言い切る根津さんに、モノ作りのプロセスと大切にしていることを伺いました。デザイナーの役割、プロジェクトの進め方、そして発注側に必要な心構えまで、モノ作りに関わる方々必読のお話です。デザイナーを志す学生へのアドバイスもいただきました。

(前回の記事)【Sneak preview】根津孝太さん、「いいデザイン」って何ですか?

デザイナーは意外と自信がない!?

根津さん、はじめまして。今日はよろしくお願いします。

根津:はい、よろしくお願いします。TDさんの記事、読みました。かっこいいですよね! 今回の取材、とても楽しみにしていたんです。

おお……! そう言っていただけるとすごく嬉しいです。

自分が作ったモノの価値って、意外と自分が一番分かっていなかったりするんですよね。僕も展示会に出して、お客さんにコメントをいただいて、そこではじめて「そうだったのか」と価値に気付くこともよくあります。いい意味で「自分が意図していなかったこと」に出会い「そこに価値があるんだな」と気付くことができる。だから記事で紹介していただく、書いていただくと、作った本人が一番そこから得るものが大きいのではないかと思っています。実は、デザイナーはわりと自信が無かったりするものなんです。もちろん作るときは自信を持って作るんだけど、世の中に出した後は「どうなのかな !?」とドキドキしたり(笑)。

秋葉原のコワーキングスペースDMM.make AKIBA内にある根津さんのオフィスでお話を伺ってきました。
これだけたくさんのプロジェクトで成果を出していても、ドキドキするものなんですね。

うーん、もちろん、コミュニケーションの中で生まれてきたものであれば、自信はあるんですけど。それでも最後売れなかったら、僕が悪いんじゃないかって思ってしまうところはありますね。どうしてもデザインは何か買ってもらうときの入り口になりますよね。

電動バイクのzecOO(ゼクー)なんかは、結構ドキドキしましたね。だから反応を知りたいというか、何かご意見をいただけるのは本当にありがたいと思っています。それが例え厳しい意見だったとしても。まあ2ちゃんねるとかだと、厳しいだけで愛がないな、みたいな意見も多いですけどね(笑)。でも想いを持って書いてくださるのであれば、厳しいご意見にも愛があると思うんです。そういうのはすごく励みになりますね。

根津さんが「ドキドキした」と語る電動バイクの「zecOO(ゼクウ)」。
Photo_by_masato_yokoyama
コミュニケーションの中で生まれてきたものを大切にするとなると、クライアントの姿勢によっても成果に大きな違いが生まれそうですね。最低限、依頼する側に持っていてほしいものはありますか。

失礼な言い方になるかもしれませんが、最初に相手の覚悟は確かめます。モノを作るというのは大変なことだし、道のりも長いものです。もちろん僕は依頼を受ける以上覚悟を固めるんですが「あなたも(覚悟を)固めてくれるんだよね」というところは確かめます。それは例えば、本当に包み隠さず言えば、お金のこともそうです。予算感ってどのくらいでしょう、とか。もちろん僕は、全然投資は構わないです。最初は1円ももらえないでもいいですけれど、でも最終的にどうやって回収していこうと考えているんですか、とか。

このあたりの内容は、将来独立してやっていくつもりの、学生さんに向けての話になるのかもしれないんですけど。

お願いします。

僕は最初から絶対プロジェクトを成功させようと、要はガチで入るわけですが、向こうも同じだけの覚悟を持っていてくれないとうまくいきません。ちょっとお金が余ったからとか、助成金が出たから「デザイナーとやらを呼んで適当にやってみよう」みたいなプロジェクトもあるんですね。そういうところにガチで入っていって、こっちばっかり空回りしちゃう、みたいなこともありました。

あとは僕らが時間単価で動いているという認識が薄いケースも多いですね。「ちょっとお話を聞かせてください」っていうパターンがすごく多くて。それがあまりに増えたので、「ちょっとってどのくらいですか」って時間を聞いて、見積もりを出してみたら「お金取るんですか!?」と驚かれたり(笑)。
日本人って、昔からデザインやクリエーションに対する値段付けが上手じゃないのかもしれません。気前がいいというか。江戸時代に、フランスに売るお茶碗の包み紙に浮世絵を使ったりしたそうで、向こうで包み紙を広げてみたらすごい浮世絵が出てきて、驚いて美術館に飾ったみたいなエピソードもあります。

僕も、金額を誰かに言うときってドキドキするんです。でも自分のプライシングってすごく大事なこと。ドキドキしている僕が言うのも何ですけど、きちんと意識していかないとダメですよね。

膠着状態になっている会議は大好物

根津さんが考える「プロジェクトを成功させる条件」はありますか。

とにかく「それをやりたい」「成功させたい」と思ってくれていれば、それで全然OKです。意見なんて統一されていなくていい。むしろいろんなことを、いろんな方向から言ってくれる人がいるほうが、チームのためになります。本当にやる気がある人が集まれば、絶対にいいものができます。もしうまくいかないとしたら、それは結局コミュニケーションが足りないからだと思っているんです。僕はそのコミュニケーションを引き出す部分には自信があります。

だから膠着状態になっちゃっているような会議は大好物(笑)。そういうときって、メンバーのやる気が無いんじゃなくて、むしろみんな思いが強すぎるがゆえに前に進めなくなったりしているわけです。だから「じゃ、こういうことですか」とスケッチを描いたり、ときにはツッコミどころ満載の仮説をあえて投げかけてみたりして。そうするとみんなが突っつきはじめるので、そうなったらもうこっちのものです。

デザインに詳しくない人からすると、「デザイナーってシンプルにかっこいいカタチを描けばいいんでしょ」と考える人も多いと思うんです。でも根津さんのお話を伺っていると、全然違うところにデザイナーの役割があるようですね。

結局、目的は何かって話なんですね。僕の場合は、プロダクトデザインなので、いいモノを作るのが目的ですよね。そこは絶対ブレません。そしてプロダクトを作るときって、当たり前ですが1人では作れないので、チーム作業になります。

そうすると、ひとりでかっこいい絵を描くだけでは実現できない、と。

もちろん、デザイナーがかっこいい形を提示するというのは絶対必要です。最初にチームが納得し、やる気が出るところまでモチベーションを上げるようなかっこいい絵を描くのはデザイナーの仕事。その絵があることで次のステップに進める。「こうした方がいい」「これはダメだ」と議論できるわけです。絵がなくても何となくモノはできていたかもしれないけど、絵があることによって1段か2段、高いところまで行ける。

悪い予定調和って、いっぱいあるんですよね。「こうなるよね」というモノができあがってしまうような。でもちょっとがんばって、1段、2段階段を上って商品化すると、今度はお客さまが反応してくれるんです。だから一緒に階段を上っていくために、例えば最初にかっこいい絵を描いたり、最近はそのモノが使われているシーンの絵を描くことも多いんですが、そうやってモノが一種のコミュニティを作っていくというのが、最終的なゴールなんだと思っています。

デザイナーがコミュニケーションの中心的な役割に。根津氏が提示する「きっかけ」とは

続きは会員(無料)の方のみご覧いただけます。

※読者ニーズを適切に理解するために読者登録のお願いをしております。

この記事を読んだ方にオススメ