【連載】根津孝太さん、「いいデザイン」って何ですか?vol.2 モビリティをデザインすること

Nov 24,2017interview

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Nov24,2017

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【連載】根津孝太さん、「いいデザイン」って何ですか? vol.2 モビリティをデザインすること

文:
TD編集部

根津孝太氏へのインタビュー、第2回は「モビリティのデザイン」について伺います。カーデザイナーになったことで見えたという「移動することの価値」からクルマの本質を考えていきます。超小型モビリティrimOnOの外装を布で作った背景についても丁寧に語ってくださいました。

(前回の記事)vol.1 「いいモノを作るために必要な『覚悟』」

ユーザーを「誘う」デザインをしたい

 今回は、根津さんの出発点である「クルマ」にフォーカスして伺っていきたいと思います。まず伺いたいのですが、今では様々なプロダクトのデザインに携わっていらっしゃいますが、根津さんにとってやはりクルマは特別な存在ですか。

根津:クルマや乗り物は、いろんな意味で特別ですね。 ひとつは、単純に小さい頃から好きだったから。それこそクルマの絵ばっかり描いていました。 もうひとつクルマの仕事をするようになって気付いたのは「移動することの価値」。クルマや乗り物というよりは、人間が移動して誰かに本当に会うとか、どこかに本当に行ってみる、みたいなこと、そこの価値を信じてるのかもしれません。 だから移動を実現する箱である乗り物を作っていくことには、勝手にものすごく使命感を感じてるんです。

着せ替えができるクルマなど、根津さんのデザインにはあえてユーザーが手を加える余地を残すようなところがあるように感じました。最終的にユーザーが作り上げてほしいという。

そうですね。

一方で、例えばiPhoneみたいに、これ以上何もしようがないプロダクトというのもありますよね。シール貼っても、ケースに入れてもダサくなっちゃう。デザインするときに意識されていることはありますか。

そこはモノによって変えています。どうしても完成度を求められるプロダクトがある一方で、モノができることのひとつの到達点として、「コミュニティをどれだけ醸成できるか」という部分もあると思っているんです。

ミニ四駆なんて、すごい分かりやすい例なんですけど、本当にコミュニティがしっかりできていますよね。毎週末どこかで何かイベントをやっています。タミヤさんの中でもミニ四駆担当になると土日がなくなるって言われているくらい。あれだけのコミュニティを醸成できるっていうのは、ものすごいことだと思うんですね。

そこから一番遠くなってしまったのがクルマじゃないでしょうか。一部の人はとことん熱くて、熱すぎて逆になんか近寄り難くなっちゃって。僕はコペンの企画をお手伝いさせていただいたとき、チーフエンジニアの藤下さんを最初にタミヤさんのお店に連れていったんです。

新橋に「タミヤ プラモデルファクトリー 新橋店」というところがあって、サラリーマンの聖地とか言われているんですけど(笑)。そこで藤下さんに「クルマのディーラーの未来像ってこれだと思います」という話をしたんです。クルマのディーラーって全国規模で展開していて、整備工場があってクルマを担ぎ入れるスペースまで確保しているのに「できれば行きたくない所」になってるんですよね。行くと余計にオイル交換させられそうとか、点検とか言ってお金取られそう、みたいなイメージがあるようで。そうじゃなくて「あんなにいい場所があるなら用がなくても行っちゃお」みたいなイメージになって欲しいですよね。バイク屋さんには、そういうところがありますよね。

根津さんが企画に参加したダイハツのコペンは、樹脂製のボディパネルを着せ替えられる斬新なコンセプトを採用。
確かにバイクは、クルマ以上にカスタマイズしている人が多いですね。それは足りない部分が多いからなんでしょうか。

モノを自分好みにしたくなるっていうのは、それがまだ完成していないからっていう考え方もあるし、あるいは「モノがそれを誘っている」という考え方もあるんですよね。

モノが人の動きを誘えるか、コミュニティを誘発できるかというのは僕にとって勝負どころなんです。そもそもモノに魅力がなかったら、ただの不完全なものだったら、コミュニケーションって始まりようがない。捨て置かれて終わってしまいます。でも自分なりにいじってみたいと思わせる原石的な魅力みたいなのって、すごく大事だなと思ってるんです。

アーキタイプの魅力を創出できるデザイナーになりたい

「原石的な魅力」ですか。

尊敬しているデザイナーにガンダムなどをデザインした大河原邦男さんという方がいるんですが、あの人はその部分がすごいなと思っているんです。ガンダムって、結局大河原さんが作ったフォーマットがもう何十年も続いていますよね。

(インダストリアルデザインの巨匠)シド・ミードもガンダムを作りましたね。

そうですね、シド・ミードも大河原さんの作ったフォーマットを尊重しつつ、ちゃんと自分の土俵に持っていってるんですよね。彼が自分の土俵に持っていっても揺るがないくらいのフォーマットを作ったというのが大河原さんのすごいところです。

アーキタイプ、つまり原型を作る力ですよね。アーキタイプの力強さがあればこそバリエーションを生めると思っているので、アーキタイプとしての魅力っていうのを創出できるようなデザイナーになりたいと思っています。僕の好きな言葉で言うと「たたずまい」。たたずまいがいいと、ディテールがどっちに振れても、ああそうだねってなりますから。

移動の本質的な価値とは

クルマで新しいフォーマットを作るというのは難易度が高そうです。

クルマって、フォーマットがリジット過ぎて大きく変わりにくいですよね。新型が出ても、前のやつより燃費がちょっといいです、とか室内が10ミリ広いです、というくらい。前のモデルより間違いなくいいし、間違いなくいろんなところが高級になってたりとかするんだけど、単純進化というか。それはそれでいいんですけどこの辺で1回ゼロから考えてみてもいいんじゃないのって思っているんです。

我々は今ものすごくモータリゼーションの恩恵を受けてますよね。例えばAmazonで注文すると、今朝頼んだものが夜には届いたりします。宅配便業界の大変な状況を聞きながらも、思わず便利で頼んでしまう。ちょっと怖いくらいすごいことです。
一方で、モータリゼーションの光の部分の裏にはどうしても影の部分があって。分かりやすい言葉でいうと「買い物難民」みたいな話です。
「買い物難民」なんて言葉を30年前の人は想像していたでしょうか。これはコミュニティが結果として壊れてしまったから生じている問題です。シャッター街の話もそうですよね。郊外に大駐車場完備の大きなショッピングセンターができて、みんなそっちに行く。すると元々あった街の商店街はシャッター街化する。そして、そこにしか買い物に行けないおじいちゃん、おばあちゃんが難民化してしまう。

そして買い物を頼む娘や息子もそばにいない。

そうなんです。移動することって人間の生活にとって非常に本質的なものですよね。今日もこうやって取材にお越しいただいて同じ空気を吸って話をしている、その価値って、すごく高いと思っています。電話で話をして、僕が適当に写真を送って済ますこともできるけど、同じ空気を共有することって人間にとってすごく大事なことだと思う。だからモビリティの価値っていうのは、人間が生きることに対して非常に根源的なものを提供しているということだと思うんですね。

そうなると今のクルマのフォーマットの範疇では厳しい部分がある。今、現実としてモビリティが助けられていない人がいますよね、と。そこに対して、つまり今本当に困ってる人に移動を提供できるっていう、その部分をしっかりやりたいなと思っているんです。

クルマのフォーマットから自由になって、移動の本質的な価値からモビリティを見直すというお話……面白いですね。

クルマって、どうしても家に見立てちゃうんですよ。家と同じことができるのが一番いいとか、できれば運転したくないって話になったり。自動運転にはいいところもたくさんあるので、全く否定する気はないんですが。でも、家がいいなら家にいればいいじゃないって話です(笑)。

確かに(笑)。

なぜクルマに乗るのか、という話ですよね。

家のベッドには勝てない。

そう、絶対に勝てない。家のリビングにも勝てない。寝っ転がってポテトチップ食べながら映画を見るなら、家のほうが絶対いいんですよね。それがクルマでできちゃう、みたいな楽しさはもちろんあるんですけど。でも冒頭でお話したとおり、クルマには移動するという価値があります。だからクルマの中でやれることの価値には常に「×(かける)移動」がついているんです。「移動しているからこそ」というところがないと意味がなくなってしまう。

寝台列車に乗ったときに「これは楽しいな」って思ったんですよ。ベッドは家より全然狭いし、揺れるからちょっと気持ち悪くなったりもするんですけど、なんか楽しい。
そういうことってすごく大事で。クルマってそもそも小さいもので、ケンカが起きるくらい狭いんですけど、ポジティブに考えればあんなに小さい空間で人と膝すり合わせて、肩すり合わせて一緒にいるなんて空間は、そうそうないわけです。

そうですね。

しかも、どんどん風景が移り変わっていって、狭くてやることもそんなにないから同じものを見てそれをネタにするしかなかったり。「あの山、きれいじゃない」みたいな。普段なら言わないよね(笑)。

「モビリティ」を超えて「コミュニケーションプラットフォーム」へ。超小型モビリティ「rimOnO」を布で作ったワケ

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