【連載】根津孝太さん、「いいデザイン」って何ですか?vol.3 アイデアを引き出すコミュニケーション

Nov 29,2017interview

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Nov29,2017

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【連載】根津孝太さん、「いいデザイン」って何ですか? vol.3 アイデアを引き出すコミュニケーション

文:
TD編集部

全3回でお送りする根津孝太さんインタビュー。最終回となる今回は、会議をクリエイティブにするコツについてお話を聞きました。「マーケティング担当からムリな要求がきた」というデザイナーとしては「あるある」な状況も、根津さんはクリエイションのヒントにしてしまうそうです。

(前回の記事)vol.2 「モビリティをデザインすること」

ぐうの音も出ない「いいデザイン」とは

いよいよ今回は最終回。単刀直入に連載タイトルの問いからスタートさせてください。根津さんが「いいデザインだな」と思うのはどんなモノですか。

根津:「やられた」みたいなやつですね。いい意味で。本当に「すごいな」「やられたな」と思うのは、自分でも漫然と不満に思ってたりだとか、納得できてないところに、答えをパッと出されたときですね。
「その問題点、俺も気づいてたのに!」って負け惜しみを言いたくなるような。だったらやれよ、みたいな(笑)。デザインって、やっぱり根本は課題解決だと思っているので、最も美しい答えを見せられたときの、ぐうの音も出ない感。あれはもうたまりません。
まず目の付け所が良くて、解決の方法も良くて、しかもプロフェッショナルな意味でのデザイン・形状としても、きれいにまとまってる。そこまでいくと、本当にぐうの音も出ないですよね。土下座して「ははーっ、購入させていただきます」みたいになります。そういうものを自分でも作っていきたいと思ってます。

もうひとつは、多くのお客さんが買ってくださるということ。これも大切です。買うという行為って、冗談ではやってくれないと思うんです。
たくさん売れるということは、ウソをつかないなと思ってます。だから「いいモノなんだけど売れないんだよね」というのは言い訳に聞こえてしまって。もちろん元からたくさん数が出るものじゃないモノもありますから、それはそれでいいんですけど。たくさん売りたいなと思って作って、売れなかったときには、素直に反省したいです。
「早過ぎたんだよねー」とかよく言うんですけど、じゃ、もうちょっと後で出せば良かったじゃん、今ちょうどいいの出せば良かったじゃんっていう話ですよね。つまり突っ走りすぎて、結局何かが置いてきぼりになっていたから売れなかったんだと思うんです。だからそこは言い訳しないで、売れるということは正義なんだと思っています。

会議こそ最もクリエイティブな場である

現在、独立して様々なプロジェクトを手がけていらっしゃいますが、トヨタ時代もご活躍されていましたよね。独立を決めた、一番の理由って何だったのでしょうか。

今思えば、結局は直感でした。辞めたほうが、よりいろんな人と自由につながって、自分のアウトプットを増やせるなと思ったんです。
……なんていうと、すごくカッコよく聞こえますけど(笑)、全然そんなことなくて、何となくそんな気がするぐらいの話でした。でも、結果的にそうだった、本当にトヨタの中の人と自由につながれたっていうのは、僕にとってすごく納得感がありました。

外に出ることで、より視野も広がったと。

これは、本当はインハウスでも外に出ても同じことだと思いますが、どうしても視野が狭くなってしまうこともありますよね。設計部署が敵みたいになってしまうんですけど、でも、本当はそうじゃないよねって話です。

僕はトヨタ時代、デザイン部を出て、企画のお仕事などをいろいろと経験させてもらいました。トヨタでは製品企画を「Z」と呼ぶんです。車種単位でチームがあって、チーフエンジニアがいて。そこに行って良かったのは、当たり前なんですが、「みんな大変なんだ」というのがよく分かったこと。もちろんデザイナーも大変です。だけど、これまで何を言っても「できない、できない」と首を横に振っていた設計の人とか、ただ面倒だっただけじゃなくて、実際すごく大変なんだな、と(笑)。この「Z」という職場の経験はとても貴重で、本当に感謝しています。

あとは会議の方法も学びました。以前は、会議って本当にクリエイションの敵、くらいに思っていたんです。時間を取られるだけで何も決まらないし、絵を描いている方がよっぽどいいじゃん、と。でもその考えが変わりました。
会議こそ、本来一番クリエイティブな場なんです。絵を描くのなんて自分で勝手にできる作業。会議をどのくらい実りあるものにできるかが、モノのクリエイティビティ、プロジェクト自体のクリエイティビティに大きく関わるんです。「Z」でやっとそこに気がつきました。自分ひとりで考えたものなんて仮説にすぎないし、大したことないな、と痛感したんです。それ以来、会議をどれだけクリエイティブにできるか、ということをすごく意識するようになりました。

こちらは根津さんの最新刊、『カーデザインは未来を描く』。2017年10月21日に発刊したばかりのこの本は、自動車の歴史を辿りながらデザインの遷変を解説し、未来のクルマ、そして未来の社会を提案する、とても熱く濃い本です。
具体的に、会議をクリエイティブにするポイントは何でしょうか。

細かく挙げるといろいろありますが、基本はシンプル。「仮説は絶対に持っていくこと」。そして「仮説通りに終わったら意味がないということ」だと思っています。
絵を描いたっていいいし、言葉を持っていってもいいんですけど、自分の仮説はコミュニケーションのきっかけを作るために必要です。それに対して、みんながやんややんや言い出したらこっちのものです。
コミュニケーションが足りないと、裸の王様になっちゃう可能性だってあるわけですよね。「実は違うと思ってたんですけど」とか後で言われて愕然としたり。そうじゃなくて、その場でこうじゃない、ああじゃないと意見が出る状態。コミュニケーションを刺激するために、僕はその場でどんどん絵を描くんです。そのスケッチが、プロジェクトの未来を決めるんです。

その絵を持って帰ってきれいな絵にするとか、3D化するといった部分は、プロとしてちゃんとやらなくてはいけない部分です。でも会議の場で描いたラフスケッチみたいなものに、一番価値がある。
言葉だけだと、みんな「うん、うん」とうなずいていても、頭の中でイメージしたことは全然違ったりする。でもそこに何か具体的なものがあれば、コミュニケーションも具体的になり、階段を上れるんです。

言葉だけでは表現しきれない何かがあるんですね。

言葉は、いい意味で「含みを持つ」んですよね。それが、いいときもあります。僕なんかはダイレクトにモノを見るより、言葉で説明してもらったほうが自分の想像の幅を広げられることもあります。ただ、モノを作っていく段階では、それが甘さにつながってしまうこともあります。
絵に描くことで、例えラフであっても言葉よりも明確に規定されてしまう。明確になることで「いやいや、そうじゃなくて」っていうツッコミも生まれるし「このほうがいいんじゃない」というアイデアも出る。そこでまた次の絵を描いていくと、どんどん良くなっていって、みんなが「うんうん」となる。仮説が、みんなのアイデアになっていくわけですよね。

自分が出したオリジナル案を最後まで守り通してプロダクト化するっていうプライドの持ち方も、もちろんあると思います。そうやって成功しているデザイナーさんもいらっしゃるので、それは否定しません。でも僕には、みんなからコミュニケーションを引き出して、最終的に自分の中になかったモノまでたどり着きたいという気持ちがすごくあるんです。だから、会議では最初から100パーセントのものを持ってくんですよ。自分としては100パーセントの案を持っていって、でも、そのまま終わったら嫌だなと思っている。それで終わったら、ウソだって思ってます。

根津さんのオフィスには自らの作品に加えて、おもちゃが所狭しと並べられている。LEGOで作ったこれはオリジナルデザインの装甲消防車1号機、2号機 。
ラジコン雑誌「RC WORLD」の企画で製作したオリジナルラジコン。3Dプリンターで作った根津さん自身が乗っている。特注ホイールは実車用よりも高価だとか(笑)。
「ダサい」デザインに着地しそうになったら?

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