工芸専攻陶磁器領域・大西珠江さんインタビュー日本最古で最新の芸術大学 vol.4

NEW Oct 11,2024interview

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工芸専攻陶磁器領域・大西珠江さんインタビュー 日本最古で最新の芸術大学 vol.4

文:
TD編集部 藤生 新

日本最古の芸術大学・京都市立芸術大学が2023年10月にキャンパス全面移転を果たした。「美大教育の最前線」をめぐるシリーズの最新回として、同大の新キャンパスを取材。シリーズの第四弾として、京都市立芸術大学(以下、京都芸大)大学院の工芸専攻陶磁器領域に在籍する大西珠江さんのインタビューをお届けする。

前回の記事:若手修復家インタビュー:《玄武洞図屏風》修復から見えてきたこと 日本最古で最新の芸術大学 vol.3

以前にTDでは、秋田公立美術大学(以下、秋美)ものづくりデザイン専攻の学部生だった大西さんにインタビューをしている。大学院に進学するために秋田から京都に拠点を移した大西さん。環境が変わった彼女の作品や考え方にも、変化が見られるようだ。

生命というテーマと、インスタレーションへの挑戦

1年前にお会いした時は、ガラスと土という異なる素材を融合させた制作を行われていましたが、現在はどんな作品を作っていますか?

大西珠江氏(以下敬称略):今もガラスと土を使いながら制作しています。また京都芸大の大学院に進学してからの一年間、前期と後期で制作の視点を変えることに挑戦しました。

前期は秋田にいた時のように、土とガラスを一緒に焼成(しょうせい)して作品を作っていきました。土を成形したあとにガラスのパーツを埋め込んだり、なじませたりして接続させ、一緒に焼くという技法です。秋田でやっていたことを引き継ぎつつ、前期ではテーマに沿った造形ができないかと考えていました。

大西珠江「朽ちていく先」2023年(提供:大西珠江氏)

元々、生命感というか、身近な日常で見えるものよりも大きな枠組み、たとえば「生きること」「自然の中にいること」などを表現したいと思っていました。作品を通して、鑑賞者が少しでも立ち止まって考える時間を持つことができたらいいな、と思っていたんです。それで生命について調べていく中で「生命の始まりや形作られる過程」に興味をもつようになっていきました。

後期に入ると、元々空間を使った作品に憧れがあったので、インスタレーション作品に挑戦したいという気持ちが強くなっていきました。

前期/後期の心境の変化の背景には何があったのでしょうか?

大西:元々自分が好きな作品には、鑑賞者が作品の中に入って世界観を体感できるものが多いんです。ですが、陶磁器でそれをやるのはどうなんだろう?という疑問もあって、自分がやるべきかどうか迷っていました。

そんな時に先生から「やりたいならやってみなよ」と背中を押してもらえて、ちょうど学内展示の準備中だったこともあり、「どうせ学校で展示するなら、思いっきり空間を使ってみよう!」という気持ちで、空間を使った作品に挑戦しました。まわりの評価は気にせず、まずは自分がやりたいことをやってみよう、と。

大西珠江「恵雨」2024年(提供:大西珠江氏)

他大学との違い、新旧キャンパスの違い

秋田から京都に移って感じる違いはありますか?

大西:まず感じたこととして、秋美では他専攻の学生と気軽に関われたんですが、京都芸大ではそうはいかないんだなということです。私が京都に来たときは旧キャンパス(沓掛キャンパス)の最後の年だったんですが、そこでは陶磁器は陶磁器という感じで、素材・専攻ごとに建物が分かれていました。

もちろん、他専攻の建物にも行こうと思えば行けたんですが、他大学からきた私にとっては陶磁器以外の専攻の学生と関わる接点があまりありませんでした。陶磁器の棟に通うか、図書館や講義室に行くかという感じで、他専攻との行き来はほとんどなかったんです。大学によってずいぶん環境が違うんだなということを実感しました。

あとは、メンバー構成ですね。陶磁器専攻は2回生から院生まで、大体1学年あたり7、8人くらいいるので、全30〜40人で制作をしています。陶磁器だけで30〜40人という環境が、ものづくり専攻全体で20〜30人しかいなかった秋美との違いでしたね。

制作する大西さん(提供:大西珠江氏)
旧キャンパスは自然豊かな環境だったそうですが、京都駅近くの都会的な新キャンパスに移り、その後の変化はどうですか?

大西:旧キャンパスの方が敷地としては広かったと思います。緑が多くて、森と一体化している感じが結構気に入っていましたし、秋美に近いものを感じていたので、環境としては嬉しかったです。新キャンパスは駅に近いので、水平方向に広い敷地が取れない分、縦に高く建物を積み上げて面積を取っていて、都会な印象を受けます。

新キャンパスに移ってからの1ヶ月は、窯の調子が悪かったり急に動かなくなったりと、トラブルが続きました。仕方ない部分もありますが……。それに夏休みはキャンパス内に入れなかったので、全体的に制作のスケジュールがタイトになりました。

ですが先生方にはしっかりサポートしていただきましたし、環境としては、前のキャンパスより制作しやすいと思います。道具も取りに行きやすいですし。

陶磁器の工房は、窯と制作室が一直線に繋がっていて、制作プロセスに沿って部屋が並んでいるんです。釉薬を塗る部屋、絵付け室と、窯に向かって作品を仕上げていくように部屋が配置されていますね。より良い制作環境になるようにと、先生が希望を出してくださっていたおかげで、とても制作しやすい環境になりました。

1階には誰でも使える工房があって、大型の機械も置いてあります。彫刻専攻の方がよく利用している印象です。2階は陶磁器と漆芸のエリアに分かれていて、私は2階の陶磁器エリアの中で制作をしています。

旧キャンパスに比べると、他専攻の人たちとの距離感は近くなりましたか?

大西:はい、近くなったと思います。ひとつの建物内にいろんな工房があるので、他専攻の人がどんな作品を作っているのかが自然と見えるようになりました。前のキャンパスでは、他専攻の人は作業場に入れない雰囲気があったので。

キャンパス移転は夏休み期間中に行われましたが、学生の視点からは「移転のサポートをしなければ」という思いが強かったのか、「移転準備で制作時間が削られるのが嫌だな」という思いが強かったのか、一当事者としてはどのように感じていましたか?

大西:私としては、「秋田から京都に来る」という引越しと「大学が移転する」という引越しの2回を半年で経験する状況だったので、正直、気持ち的には大変だな……という思いが強かったです。実際、自分の作業用の荷物を何回にも分けて運び、慣れない場所で制作できたと思ったら、全体の片付けをして、自分の荷物もまた持って帰らないといけないという苦労があったので、なかなか大変でした。ただどちらのキャンパスもそれぞれの良さがあったので、それを外部生で体験できたのは貴重だったと感じています。

移転をサポートしたいという思いは、そもそも当たり前だったというか、当然だと思っていましたし、陶磁器領域内は全体が移転に向けて頑張っていくという雰囲気でしたので、大変さを思いつつ、新しい環境への期待も持ちつつ、というのが個人的な思いとしてはありました。

交流を生み出す新キャンパス

秋美や旧キャンパスでは自分自身と向き合うのに最適な環境だったと思いますが、京都の新キャンパスでは、より周囲の環境や社会に対して意識を向けやすい環境なのかなとも思います。そうした意識は高まったと感じますか?

大西:そうですね。旧キャンパスでは陶磁器専攻はいくつかの部屋に分かれていて、一部屋あたり3、4人が制作してましたし、秋美の時は一部屋あたり7、8人で制作していました。それに対して今は、ひとつの大きな部屋で全員が制作しています。他の人が何を作っているのか見えますし、自分が何を作っているのかも見られるので、私的にはそれが良かったと思っています。

作品展でも、たくさんの方に興味を持って見ていただけて嬉しかったです。一緒に制作している他学年との交流も新キャンパスになって増えました。

ですので、全体的には自分以外の人の目を意識するようになったと思います。話しかけたかった先輩や後輩にも「何作ってるの?」と声をかけやすくなりましたし。京都に来てからは、関係性を一から築いていかなければいけなかったので、周りの人と切磋琢磨できる環境ができて良かったです。

またキャンパスが移転して駅が近くなったおかげで、学内展にもたくさんの方が来場してくださって、いろんな意見をいただけたのでありがたかったです。

大西珠江「生の通り道」2024年(提供:大西珠江氏)
逆に「もっとこうなればいいのに」と思うことはありますか?

大西:自然の中にあった旧キャンパスと比べて、新キャンパスは要塞っぽい感じがするといいますか。駅に近い分、良くも悪くも社会そのもの、現実そのものを感じてしまいます。他者について考える良い機会ではありますが……。

あと秋美と比べた時に、大学のシステムの違いに驚いたことがありました。たとえば、窯の使用ルールは京都芸大の方が厳しいです。カリキュラムとしても展示機会が多くある反面、忙しいなとも思いますね。

今後の展望

今後はどんな活動を続けていきたいですか?

大西:まだ、今後どうやって制作を続けていこうか考えている途中ですが……陶磁器は設備がないと制作できない難しさがあります。先輩方を見ると、窯のある産地に行ったり、共同で使えるスペースのある工房に行ったりしているようです。

大学で助手として働きながら、大学の設備を使わせてもらって制作している先輩もいます。制作活動を続けるには、そういう方法が主流な印象です。

私はというと、学部生の頃は「大学院に行かないと制作を続けられない」という気持ちが強くて、まずは院に進もうと考えていました。ですが今は、ずっと陶芸だけを続けたいというよりは、人生をかけて制作を続けていけたらいいなと思っています。

いろんな経験をしていく中で、これからの私が、その経験を通じて何を感じ、どんな作品を作っていくのか、自分自身で見てみたいんです。あと、地元に帰って制作ができたらいいなとも思っています。

「生の通り道」の展示作業風景(提供:大西珠江氏)

だから今は「必死に作り続けなければ」というよりは、色々な経験をしながら、緩やかにでも制作を続けていきたいと思っています。それと、今は語学にも興味があります。

そもそも人と話すのが好きで、違う文化で育った人がどんな考え方をもっているのか、どうしてそういう考えに至ったのか、生い立ちなども含めて話を聞くのが好きなんです。ですが、日本ではどうしても日本語でしかコミュニケーションが取れないですよね。もっと異なる背景をもった人と話すためには、英語はもちろん他の言語も操れたらと感じています。

そしてゆくゆくは海外にも進出したいと思っています。私の作品は器や日用品ではありませんし、売るためだけに作っているわけでもありません。マーケットのことを考えると、私の作品は海外に進出した方が可能性が広がるだろうとも思っています。

将来のことを考えると、言語を勉強したり、もっと社会を知ったり、色々な経験をしながら制作を続けていくことは、私自身の視野を広げるのに良い方法なんだろうなと。だから、卒業後すぐに制作できる環境が必要なわけでもないと思っています。

長く陶磁器は続けていきたいのですが、環境を整えるのに時間がかかる分野なので焦ってはいません。もし陶磁器ができなければ、インスタレーションにも興味があるので、土、ガラスを使わない作品を作ればいいですし、陶磁器ができる環境が整ったら陶磁器もやるというように、環境に合わせて表現方法を変えていくのもありかなと思っています。

良い意味で肩の力が抜けたような、軽やかでありつつ、地に足のついたような印象もします。今日は貴重なお話をありがとうございました!

編集後記

秋田から京都に環境を移し、京都の中でもキャンパス移転を経験した大西さん。自身も学部生から院生へと変化する中で、変わる部分と変わらない部分の両方の側面を感じ取ることができるインタビューだった。

軽やかでありながらも、しっかりとした芯も感じさせる大西さんの考え方は魅力的だ。その都度その都度、状況に真摯に向き合いながら創作活動を続けている大西さんが今後どんな風に変化していくのか、これからも彼女の活動に期待していきたい。

 

大西珠江(おおにし・たまえ)

2000年生まれ。2023年に秋田公立美術大学を卒業後、現在は京都市立芸術大学大学院美術研究科工芸専攻陶磁器領域に在籍。生命の起源や動植物の造形をモチーフとして、主にガラス・土素材を用いて制作している。素材と触れ合い、「対話」を行う中で見出した「素材の魅力」や「素材間の境界にある曖昧な表現」を捉え、形にすることを目指す。

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