暗黙知の領域だと思われがちなデザインを「形式知」にする
太刀川:デザイナーというのは、すごく抽象的なものを扱うのが仕事です。ある種、言葉にならないものを扱います。 その場の空気や雰囲気、状況、関係性といった見えない部分、構造が浮き彫りになりにくい部分を感性的に扱うのがデザイナーという仕事です。
だから、デザインの良し悪しは感覚の問題と捉えられがちなんです。才能のある人だけがいいデザインができて、自分には才能が無いからできない、とか。でも僕にしてみると、これは極めて残念な誤解なんです。
というのも、僕自身もやっぱり最初はデザインが分からなかったので。
デザインの本かと思いきや、内容は仕事術から縁の育て方まで多岐にわたる
僕は、基本的にデザインを独学してきた人間で、建築のデザインは大学院まで学びましたが、グラフィックやプロダクトに関しては完全に独学だったんです。そうすると自分で自分を教育するわけですが、そのとき何がよくて何がよくないかの構造が分からないと何から自分に教えればいいか分からない。
感性として扱われがちな抽象的で目に見えない暗黙知を、形式知にしなきゃいけないという自覚があって。そこで、大学院の卒業論文を「デザインを言語学と捉えて分析する」というテーマで書いたんです。優れたデザインの背景にはどういう文法が流れているのか、といったことを無理やりテーマにしたわけです。
はい。はじめは建築を志していましたが、在学中からデザインの方に興味が出てきて。隅さんに「すみませんが、僕はデザインの研究がしたいので、卒論はこういうテーマでやっていいですか」と相談しまして。隅さんには「すごくいいテーマだと思うけど、結論はぼかせよ」と言われました。まだ経験も少ない学生がこんな大きなテーマに結論を出すもんじゃないよ、と。いいアドバイスだと思いました(笑)。
卒論の内容はすごくざっくりいうと、言語とデザインがどう似ているのかを言語学的アプローチから探ってみようという内容です。例えば、類推はデザインでは使えるか、たとえ話や誇張は使えるか、と調べていくと、実際使えるんですよ。この経験を経て、言語が形成されていくところとアイデアが形成されていくところは、極めて隣接していると確信しました。
今、よく言われている「デザイン思考」が解き明かしたいことって、まさにこれなのかなと僕は思います。紺野登さんというデザイン思考の第一人者がいらっしゃいますが、彼はこのデザインの文法という考え方を「デザイン思考の真髄だね」と言ってくれまして。実は今、一緒に本をつくっています。