(前回の記事)vol.2 色気を出すと、文字にも色気が出てしまう
「縦組みの明朝体って怖い!」と言われる時代に
鳥海:印刷物がメインだったころと比較して、私たちが良いと思う文字を良いと思ってくれる人が少なくなってきたと感じます。本文用書体の価値が分かる人も少なくなってきたな、と。
印刷を前提とした縦組み用の本文用書体。普通に読めて情報がスッと入ってくる、そんな特徴のない本文用書体。これらが最も大切だと私は考えてきました。なぜならそれらが明治時代以降、人々の知識や知恵を支えてきたと思うからです。それを大事にしないと書体全体が駄目になってしまうというのが、私の持論です。
しかし、今って文字を見る機会は増えたけど、ほとんどの人はLINEやTwitter、Facebookで表示される横組みの短い文章を読んでいますよね。さらに、それが当たり前になってきているような気がします。
このような背景が影響しているのかどうかわかりませんが、たまに学生から「縦組みの明朝体って怖い!」とか言われることもあります。そんなこと言われてしまうと時代が変わったなって思っちゃうね(笑)。
今まで本文用書体は明朝体にこだわってきたはずなんだけど、最近の人からは良い反応もないし、今後は求められなくなるかもしれませんね。
販売サイト内の記事でも「明朝体はいらない子?」という記事が。
どれがヒラギノ明朝か、游明朝か答えを知りたい人はTDのFacebookページをチェック!
個人だけの問題ではなく、企業も似た傾向にあると思います。パソコンではゴシック体ばかり使うでしょう。
まあ昔はパソコンの解像度が低くて、明朝体がきれいに表示されなかったこともあり、ゴシック体が活躍していたという背景があるのですが、その流れのまま今も使われています。
Retinaディスプレイなどが登場して解像度の高いディスプレイが広がっているけれど、あえて明朝体を使うビジネスマンは少ないでしょう。時代と共に書体への考え方が変わってきたなと、最近はとくに感じますね。
ウェブ用書体にも「基準」が必要
はい。実は既に作っているんです。試作段階なので、仮名と、ある程度の文章が組めるくらいの量の漢字しか制作していないのですが……。個人的にとても良い書体だと思うんですよね。
それが、これ以上進めてよいか迷っているんです。書体自体のコンセプトは良いと思いますが、本当にその書体を望む人がいるのかが分からなくて……(笑)。お金を出してまで買おうとする人がいるのか少し怪しくて二の足を踏んでいます。
通常使用するサイズ用、小さいサイズ用、見出し用など、ブラウザ上で表示されるフォントの大きさに合わせて書体のデザインを変えてあります。
昔、活版印刷用に鉛で一文字ずつ作っていた時代の「活字」は、ある大きさで作ったら、その大きさでしか印刷できなかったわけですよ。ということはその大きさに最適なデザインをしていたと考えられるわけです。
しかし写植の時代になってからは文字をレンズで拡大・縮小できるようになり、DTPでもモニター上でいくらでも大きさを変えられるようになりました。小さい文字から大きい文字まで、すべて同じ書体で組むことができるようになったんです。
今、ウェブデザイナーは和文フォントだけでも1000種以上を使える環境にいるといわれています。しかし彼らは果たして自分たちのデザインに最適な書体を選べるのだろうかと疑問に思ったんです。
印刷を前提としたグラフィックデザインやエディトリアルデザインの現場においてもそうした状況は同じですが、歴史が長い分、今までのノウハウを先輩から教えてもらえる可能性も高いじゃないですか。しかしウェブデザインってまだまだ発展途上ですし、ウェブデザイナーたちには書体選びのノウハウも伝わっていないだろうなと考えたんです。
実際にウェブデザインを手がける人たちに聞いてみると「本当に分からない」と。特に若い人たちが言うんです。
だったらウェブフォントの「基準」となる書体を作ったほうがいいなと考えたんです。
本文部分に使っても潰れない程度にデザインした一番太いものから、一番細いのまで何種類か用意してあります。用途にあった太さを選んで使ってほしいなと思ってね。