ロボットが暮らしの中にやってくる
ロボットと聞いて何をイメージするだろうか。漫画ならドラえもん、映画ならR2-D2(スターウォーズ)、小説ならボッコちゃん(星新一著)、最近街中でよく見かけるようになったPepper、そして家庭に普及したロボット掃除機ルンバなど、思い浮かべるものは人によってさまざまだ。
これまで産業用用途を中心に開発・活用されてきたロボットだが、「暮らしの中にロボットがいる未来」はすぐそこまで近づいている。
それが一体どんな姿であるべきなのか、そもそもロボットデザインとは何なのか。そんな純粋な疑問を投げかけたいと思い、今回は、暮らしにとけ込むロボット開発を手がける「ロボットデザイナー」、フラワー・ロボティクス社の松井龍哉氏を訪ねた。
建築家からロボットデザイナーへ
現在ロボットデザイナーとして活躍する松井氏。意外なことに彼のキャリアは建築設計事務所からスタートした。彼が師事していたのは建築家の丹下健三氏である。
丹下氏は“東京計画1960”の中で、50年後の東京のイメージを描いている。彼はパソコンもインターネットもない時代に「21世紀には小型の端末機が様々な情報を取り出し社会のうねりになり、生活の中で情報の価値が物質を超える」と予測していた。
そんな丹下氏の下で松井氏は「情報やネットワークの本質」を学ぶよう背中を押された。設計事務所を飛び出し、丹下氏の紹介状を持ってフランスへ渡り、コンピュータ芸術について学んだ。その後、IBM・ロータスフランス社のインハウスデザイナーなどを経て、科学技術振興事業団ERATO 北野共生システムプロジェクトに研究員として参画。この時ヒューマノイドロボットのSIG、PINOのデザインを手がけ、2000年度のグッドデザイン賞を受賞した。
2001年、フラワー・ロボティクス社を設立。フラワーガールをコンセプトとしたロボットPosy(ポージー)、マネキン型ロボットPalette(パレット)、KDDIと開発したスマホロボットPolaris(ポラリス)、AIを搭載し、自律移動する台車型ロボットPatin(パタン)などを発表し話題となっている。
(フラワー・ロボティクス社HPより)
機械によって豊かになってきた社会
ロボットについて語る前に一度、機械の歴史を振り返ろう。
19世紀イギリスで起こった第一次産業革命では、蒸気機関の発明により、それまで手作業でおこなってきたものづくりが機械化された。20世紀に入り電気、石油、化学、鉄鋼の分野で技術革新が進むと重工業での大量生産が可能になり、20世紀の後半にはコンピューターと産業用ロボットの普及により生産の自動化が進められた。自動車や飛行機は私たちが遠くへ行くことを可能にし、ラジオ・テレビ、そしてインターネットによって情報が私たちの生活にリアルタイムに飛び込んでくるようになった。
機械によって豊かになった社会は今後、自動化・自律化技術の躍進により、増々便利になっていくと言われている。
今起きているテクノロジーの発展を牽引する新しい技術がAI(人工知能)である。
身近なところでは、Amazonのレコメンド機能、AIアシスタント機能をもつスマートスピーカー、Facebookの顔認証、各社の掃除用ロボットなどに活用されている。
さまざまな企業がAIの研究開発に多額の資金を投じており、つい最近ではトヨタが自動運転技術の開発を手がける新会社設立を発表したことも話題となった。
AIは私たちの社会を大きく変えると期待できる一方で、人間の雇用を奪う可能性を懸念する声もある。
「コンピューターの技術革新がすさまじい勢いで進む中で、これまで人間にしかできないと思われていた仕事がロボットなどの機械に代わられようとしています。」
2014年秋、英オックスフォード大学のマイケル・A・オズボーン准教授らの論文「THE FUTURE OF EM-PLOYMENT:HOW SUSCEPTIBLE ARE JOBS TO COMPUTERISATION? 」が世界に衝撃を与えた。ここには「10~20年以内に米国の労働人口の47%が機械に代替されるリスクがある」と書かれている。
ここで整理しておきたいのだが、AI=ロボットではない。AIはいわば人間で例えると「脳みそ」部分であり、それ単体ではロボットとは呼ばない。ではロボットとは何を指すのか。その定義を見てみよう。
(フラワー・ロボティクス社HPより)