進化する日常生活支援ロボット
国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)では、ロボットの役割を次の3つに大別している。無人システムのような「危機環境下での作業代行」、産業用ロボットのような「生産環境における人の作業の代替」、それに日常生活の中での家事支援や介護支援等の「日常生活支援」である。
一方で、「日常生活支援」に大別されるロボットの定義ははっきりしておらず、技術の進歩により今後も変化すると言われている。
ロボットそのものよりも、「ロボットが関わる生活」が大事
生活家電と同じように、ロボットはこれから私たちの生活に欠かせないものになっていくだろう。では、松井氏は「ロボットをデザインする」ということをどのようにとらえているのだろうか。
ロボットそのものよりも、ロボットが関わってくる生活が大事だと考えているので、なるべくその場に溶け込んで、主張しない、ということを一番大事にしています。生活の中にロボットが入っていっても、「もともとココにあったね」くらい存在感がない、たとえば環境音楽のようなポジショニングを目指しています。
珍しいものって、珍しければ珍しいほど、すぐ飽きちゃう。みんながびっくりしないように、いかにも最初からあったみたいなところを目指してつくっていくことが結構重要なんじゃないかなって思います。
暮らしに溶け込むロボットをつくるために、エンジニアとともに実験を繰り返す。一つ一つ、仮説検証を積み重ね、余計なものは全て削ぎ落としていく。本編では、この「削ぎ落とすプロセス」についても語ってもらった。
「デザイナー」の領域を軽々と飛び越えて
家庭用サービスロボットのマーケットはまだまだ小さく、発展途上にある。マーケットを生み出すところから始まる松井氏の仕事は「カタチのデザイン」にとどまらない。ロボットの機能設計、社会的意義のプレゼン、資金調達、製造プロセスの検討まで全て自分たちでおこなう必要がある。
インタビューでは、投資家たちとのやりとりを苦笑いしながら振り返る松井氏が印象的だった。
苦労も多い中、なぜ松井氏はロボットをデザインし続けるのだろうか。
私たちの疑問に対し「実はロボットじゃなくても良いんです」と松井氏は語る。
やりたいことは、22世紀に必要とされるもの・未来に評価される仕事をすること。100年前なら車づくりを選んだ、30年前ならPCづくりだった。「歴史をつくれたら面白いですよね」と笑顔を見せる。
ビジネスの仕方もお金の作り方もどんどん変わって、デザイナーの仕事の仕方もどんどん変わっているのが現状ですよね。日本もものづくりの部分だけがデザインでホットなわけではなくて、いろんなものをどう繋げるか、ということもデザイナーに求められています。
来週より連載を開始する本編では、松井氏が考える「ロボットのいる暮らし」や「デザインのプロセス」などを3回に分けて深くお伝えしていく。ロボット以外にも、未来の私たちの暮らしに関する話の数々を聞くことができた。
デザイナー以外でも、ゼロから市場をつくっていくマーケター、起業家、エンジニア、ビジネスマン、学生など、新しいモノやコトを生み出す全ての方にぜひ読んでいただきたい。お楽しみに!
※「【連載】『ロボットのいる日常』をデザインする vol.1 」は、7/14(金)更新予定です。