【連載】「デザインに固執しないデザイナー」が見ている世界vol.2 造形力よりも大切なこと

Feb 23,2018interview

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Feb23,2018

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【連載】「デザインに固執しないデザイナー」が見ている世界 vol.2 造形力よりも大切なこと

文:
TD編集部

「デザイナー」「エンジニア」「ストラテジスト」という3つの肩書きを持ち、多くのスタートアップ事業に参画する久下玄氏へのインタビュー。vol.2では、前半では個人のスキルについて、そして後半では学生たちへのアドバイスを聞いてきました。

(前回の記事)vol.1 デザイナーを活かすチームづくり

「デザインするため」に習得したエンジニアリングスキル

今回は個人のスキルセット開発について聞いていきます。久下さんは美大を卒業後、インダストリアルデザイナーとして働いていましたよね。エンジニアリングスキルはいつどうやって学んだのでしょうか。

久下:新卒で入った家電メーカーのときですね。当時の家電製品って、全く新しいカテゴリの商品以外、ベースのレイアウトはほぼ全てエンジニアが作っていて、それに「ガワを被せる」のがデザイナーの主な仕事だったんです。
たまに「表示器をどうしようか」とか相談されても、結局エンジニア側の意見が強くて、機構を提示できないデザイナーの意見はあまり通らない。これがちょっと不満で、インターネットや本の情報を読みながら自分で指示書を作れるよう機構を勉強しました。

そのあと、リーマンショックの頃ぐらいに会社の業績がガクンと落ちて、新規プロジェクトをデザイナーがやることになって。でも自分たちだけではモノを作れないし、動作プロトタイプも作れない。新製品のアイデアを持ってエンジニアに相談に行っても、みんな日々のルーティンの仕事があるのであまり手伝ってくれない。このままだとプロジェクトが進まないと思って、自力でエンジニアリングも学んでやってみたら、それなりにできたんです。

そこから少しずつ状況が変わり始めました。
内部のレイアウトについての話し合いの時にも「ここのボードをここに動かせばいいでしょう」とか意見を言えるようになって、事業部の人から拒否されても、事業部長に自分で手組みのボードを見せて説得していました。
ソフトウェアへのチャレンジはこういったハードウェアを動かすためのものを作ったのが最初です。アプリケーション開発のスキルなどは、その後必要に応じて身に付けていきました。

経営戦略についての知識も同じように開拓したんですか。

同じです。独立して仕事をするようになったら、ハードウェアのプロダクトデザインとエンジニアリングをわかっていても、どうお金をつくるか、の話にぶつかってしまう。じゃあビジネスの知識をつけなきゃいけない、と。そうやってどんどん手がける範囲が広がっていきました。

久下氏がデザインとエンジニアリングを担当した、盲導犬の代替となる通信機能を備えた高機能電子白杖。
コンセプトはコンセプターの坂井直樹氏。 現在、幾度かの実証実験を経て製品化を検討中。

自分で自分のスキルセットを開発できる時代

久下さんは独学でスキルを身につけてきたんですね。やはりスキルセットは自分で身につけるべき、という思いが強いのでしょうか。

今は「身につけるべき」というより、動機があればスキルセットは勝手に身についていく時代だと思います

ちょうど僕以降の世代って、ネットで情報がいくらでも手に入るのが普通になっている。
例えば僕は新卒で家電メーカーに入って、新人研修で3次元CADを1ヵ月間くらい習ったのですが、僕らは研修前にすでに3次元CADを使えたんです。大学時代を振り返ってみても教授よりトレンドには詳しかったし、3次元CADだって自分でお金を出して買って使いこなしていました。
教授が「じゃあスタイロフォームで削って……」って課題を出している横で、「いや、すでに3Dデータを業者に送ってあるので、そろそろできる頃です」って(笑)。

これは決して僕が特別だからできた、ということではありません。僕は2010年から13年まで慶応のSFCで教えていたのですが、最初からデザインできる学生なんていない。情報関係の学科であっても、最初からみんながコードやプログラムを書けるわけではなく、興味がない学生だっています。
それでも「自分でつくってごらん」と背中を押すと、勉強して人生が変わってくる学生とかも出てくる。動機があって中学レベルの数学と英語がわかれば、プログラミングに関する知識はインターネットで探して学べるし、コードも書けるようになりますからね。

2016年に発表された鳥型コンピューター「COTOREES」。スマートスピーカーを先取りした世界観。

デザイナーは造形力よりもコミュニケーション能力

やる気さえあればスキルを次々に開拓していける今、デザイナーにはどんな力が必要とされると思いますか。

極端ですが、造形力よりもコミュニケーション能力の方がデザイナーには大事だと思います。デザインは「ふわふわしたもの」。その意図を端的に人に伝えられるかどうかは、やっぱり経験によって圧倒的に差が出るんですよね。
前回お伝えした「ヤンキーとオタクのチーム論」にも関係しますが、様々なタイプの人とチームを組むことを考えると、コミュニケーション能力の高い人はやっぱりビジネスでも高い成果を出す確率が高いですし、粒度の大きな問題に対して「本当に解決すべきことは何か」を理解する能力も高いんですよ。

コミュニケーション能力を鍛える方法は。

本を読むのが良いと思います。みんなデザインの作品集とか絵とか写真ばっかり見ていて、あんまり日本語の本は読んでいないですよね。デザインとは関係なくてもいいから、いろんなジャンルの本を読んだほうが良い。

日本人のうち、3割ぐらいしか日本語を「正しく」理解していない、という話をご存知ですか。
「ロボットは東大に入れるか(東ロボ)」のプロジェクトチームの調査で、AIは文章を理解せずに、過去のパターンで回答を導き出すしかできないのですが、子どもたちも同じではないかという疑問を持った研究者がいました。実際にそれを測るために「リーディングスキルテスト」というのをやったそうですが、予備調査の結果は「約5割が、教科書の内容を読み取れておらず、約2割は、基礎的な読解もできていない」ことが明らかになったんです。ほとんどの子が日本語を正しく理解していないという事実が判明したそうです(※)。

みんなが当たり前にできると思っていることだけど「物事を因数分解して理解し、文章をきちんと構造化して伝えることができる人」というのは、実はレア人材なんです。デザインをする上で大事なコミュニケーション能力、もっといえば「論理構造能力」と「メッセージを伝えることができる力」っていうのは意外なことに、みんなが思っているよりもずっと習得が大変だということですよね。

 
学生たちへのメッセージ
「Youtubeで学べないことを大学で学ぼう」

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