【sneak preview】「デザインに固執しないデザイナー」が見ている世界

Feb 09,2018interview

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Feb09,2018

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【sneak preview】 「デザインに固執しないデザイナー」が見ている世界

文:
TD編集部

2月18日より連載開始する「tsug,LLC(合同会社ツグ)」の代表 久下玄(くげ・はじめ)氏のインタビュー。スタートアップ事業やイノベーションプロジェクトを多く手がける久下さんとは一体どんなデザイナーなのか、本編に入る前にsneak previewにて少しご紹介。なぜデザイナー以外の肩書きを持つようになったのか、デザイン以外のスキルはどのように身につけたのか、デザイナーに固執せずに仕事と向き合う姿勢とは…。インタビューの内容も一部絡めてお届けします。

TOP画像:久下氏の名刺を編集部にて撮影

「デザインに固執しない」。
技術開発や事業戦略も手がけるデザイナーって?

今回、TD編集部が久下氏のお話を聞きたいと思ったのは、彼がデザイナーとしての顔だけでなく、「経営」「プログラミング」という複数の得意領域を持っていたからである。彼は実際に、「デザイナー」「エンジニア」「ストラテジスト」という肩書きを持っている。久下氏はきっと、一般的なデザイナーと違った視点でデザインを捉え、新たなモノやサービスを生み出しているに違いない。そんな期待を胸に私たちは久下氏のオフィスに訪れ、彼だからこそ語ることができる「チームづくり」と「個人のスキルセット」について聞いてきた。

ここで久下氏のこれまでの取り組みについて少し紹介しておこう。
美大卒業後、家電メーカーで家電製品のデザインを手がけたのち、独立。これまで、簡単にスマホ決済ができるサービスCoiney(コイニー)や脳波ヘッドフォンmico(ミコ)、単機能で簡単に使える音声アシストロボットCOTOREES(コトリーズ)など、多数のプロジェクトに携わってきた。

しかし、それらのプロジェクトで久下氏が手がけてきたのは前述の通り、デザインの領域だけではない。エンジニアとして技術開発をすることもあれば、事業戦略を考えるストラテジストとして参画することもある。
スマホ決済ができるサービスCoiney(コイニー)のプロジェクトでは、久下氏は立ち上げから関わっており、デザイン以外にもプログラミングをしたり、自ら営業に出かけることもあったそうだ。

久下氏がデザイン制作・開発を担当した、カードリーダーを挿すだけでスマートフォン決済ができるサービス、コイニー(Coiney)。

3つの肩書きを使っている理由を尋ねると「シンプルに、求められる役割に徹するため」だという。
クライアントが「何をしたいか」を深掘りし、そのゴールに向かって道を作るのが久下氏の基本スタンス。そのためにデザイナーが必要であればデザイナーとしての役割を全うし、エンジニアとして参加してほしいと言われたらエンジニアリングを行う。
「デザイナーという肩書きに固執せず、必要な力を身につけ、仕事の幅を広げていっても良いのではないか」というのが、久下氏の考えだ。

しかし、どのようにして、デザイナー/エンジニア/ストラテジスト、という3つのスキルを身につけたのだろうか。
聞いてみると「デザイン以外は独学です。今は、やる気があれば何でも身に付けられちゃう時代ですから」という回答が返ってきた。

そもそも、久下氏のルーツはインダストリアルデザイナー。面白くて良い製品を世に送り出すべく、色々とアイディアを出したが「最初の頃は開発側のエンジニアたちに受け入れてもらえなかった」と久下氏は言う。

「家電製品は、ベースとなる設計図をエンジニアが最初に作り、それを元にして形のディテールを詰めたり、色や素材などを考えたりするのがデザイナーの仕事。そのためエンジニア側の主張が重視されがちで、デザイナーの意見は通りづらい傾向でした」。
そんな状況に不満を感じた久下氏は、インターネットや本を見ながら独学でエンジニアリングを学び、設計に関しての指示書を作った。エンジニアリングの知識を身につけることで、エンジニアとのコミュニケーションは円滑になり、手がけるデザインの幅をどんどん広げていった。

社内の新規プロジェクトを手がけることになった際も、自力でエンジニアリングを学びつつ新製品のアイディアを生み出し、プロトタイプも自らの手で制作するようになった。経営についての知識や戦略づくりのためのフレームワークなどの知識も、同じように独立後に身につけたそうだ。

スキルは掛け算。
専門スキルがないまま他に手を出すな!

これまでのTDのインタビューでも多くのデザイナーが語っているとおり、デザイナーに求められるスキルの幅は広がりつつある。久下氏のような越境型のデザイナーは、これからますます求められると感じられるのだ。

しかし、久下氏のような多彩なスキルとキャリアはどのようにすれば身につけられるのだろうか。
彼の答えの中で印象的だったのは「デザイナーに限らず、最初は専門的なスキルを1つ身に付けるべき」という言葉。1つ極めたスキルがあると、それが自分のよりどころになり、その後の広がりも大きくなるという。
続けて、スキルとは掛け算であって、1つのスキルを深める前に他のスキルを寄せ集めるのは良くないと指摘する。
「例えば、10まで極められた専門スキルが1つあると、その他のスキルが2なら掛け合わせて合計20になる。しかし、専門のスキルが途上中で3しかなければ、同じように2を掛けても6にしかならない。だから、1つ目をきちんと深めてから、他のジャンルのスキルを身につける方が良い」。

インダストリアルデザインの分野で極めたスキルがあるからこそ、久下氏はエンジニアやストラテジストのスキルを活かし、様々なイノベーションを生み出すことができるのだ。

tsug,LLC(合同会社ツグ)代表 久下玄(くげ・はじめ)氏

デザイナーにとって造形力よりも大事なのは、
ヤンキーとオタクを混ぜたチームで活躍できる「コミュ力」

デザイン以外の領域も手がける久下氏だが、デザイナーとして仕事をする際に最も大事だと感じる力は「コミュニケーション能力」だという。「極端だが、造形力よりも大事な力だと感じている」というほど、コミュニケーションを大切にしている。

その背景として、「勢いでグイグイ引っ張って行くヤンキー的な存在と、細かく緻密にプロダクトを作り込んでいくオタク的な存在が、バランス良くいるチーム」が良いチームだという久下氏ならではの考え方がある。

また、コミュニケーション能力を発揮できないと「かっこよくて見映えが良いだけものを作ることに終始してしまう」とも危惧する。クライアントやその先のユーザー、チーム内のメンバーとのコミュニケーションを通して、「本物のニーズ」を探りながらデザインすることがデザイナーに求められる最も重要なスキルだ、というのだ。

デザイナーだけではなく、彼らと一緒に仕事をするビジネスマン・エンジニアの方にも是非読んでいただきたい本連載。お楽しみに!

 

※「【連載】『デザインに固執しないデザイナー』が見ている世界」vol.1は2月16日(金)の公開予定です。

 

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