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vol.4 Takramのデザイナー、河原香奈子さんに聞いてみた
サービスを作る側の意思や思想の「伝え方」を考える
大杉健太氏(以下wataame):はい、いろんなところで「wataame」と呼ばれているので、そう呼んでください。
wataame:UI/UXって「サービスとユーザーをつなぐ架け橋」みたいなものなんじゃないかなと。そうとらえると、UI/UXデザイナーの仕事は「サービスを作る側(サービサー)の意思や思想をどのように伝えていくか」を考えることだと思います。
事業の目的やゴールを見据えながら、その中でユーザーにとってどういう形でサービスが届けられることが最適なのかを考えて実装していく人、という認識です。
wataame:はい。プロダクトがデジタルでも、裏側には必ずつくり手の人間がいます。意思や思想、もっと言えばそのあたたかさや体温が画面を通じてユーザーに届くように、画面上のデザインや体験そのものを設計していく、というのが僕たちの仕事ですね。
前提として、UIの振る舞いとしての正しさやわかりやすさ、OSごとのガイドライン、プラットフォームごとのルールみたいなものを理解することはとても大事です。
その上で、サービスを作る側の意思や思想が細部まで表現されているのか、行き届いているのかを、しっかりと考えてユーザーに届けることが一番大事かなと思っています。
wataame:例えばUIの話だと、iOS標準のUIに準拠する場合もあれば、オリジナルなUIを作る場合もある。どんな選択肢を取るにしても「自分たちのサービスはこうだから、これを選んだ」と言えるようにすべきだと思ってます。
たまに、斬新なUIのプロダクトに出会うことがあるんですよ。一瞬、ユーザーにとっては使いづらいんじゃないかと思ってしまうような見慣れないUIが。例えば昔のSnapchatのUIとか。何をすればどうなるか、最初はわからない。でも使い慣れてくると、その方が使い勝手がよいとわかったり、ちょっと苦労して使い方を覚えた分、プロダクトに対する愛着も湧いてきたりすることもあるんじゃないかと。
細かいところだと、確認のダイアログ(表示)を出すかどうか一つ取り上げてみても、そこにサービスをつくる側の意思は反映されると思っています。例えば大事な情報を削除するときには「本当に削除しますか?」と確認のダイアログ(表示)を出すことがありますよね。でも狭い範囲の特定のユーザー向けだったり、若者向けのすごく軽い使い心地のアプリを目指している場合だったりするときには、その確認も省略しちゃうとか。デザイナーのエゴとしてただ奇抜なことをやりたい、ということではなく、「こういうコンセプトだからここではこうする」という意思があることが大切だと思っています。
wataame:まさにそうですね。
wataame:はい、もちろん1人で全部考えているわけではないです。アプリの画面が何もない頃、代表ともう1名のデザイナーと僕の3名で、コンセプトについて密にディスカッションを重ねました。
いまも追加機能を作るときなどは、コンセプトに立ち返るようにしています。他社のデリバリーサービスがすでにいくつもある中で、自分たちの優位性や差別化できるポイント、打ち出したいコンセプトをひたすら考えて……Chompyでは人のぬくもりを一番大事にするサービスを提供しよう、と。
wataame:そうしたコンセプトがUIに現れている箇所として、例えばタイムラインに、店長さんの顔写真と一言コメントが入っています。これはない方が1店舗当たりの面積が狭くなるので、一度に表示できる店舗数が増え、お店を探しやすくなるというメリットもある。でも、サービスとして人のぬくもりが画面ごしにも伝わるようにすることが重要なので、そこはロジカルじゃなく、感覚的に表現していこうとこの表現に落ち着きました。
wataame:商品に対するコメントには店長さんの写真と吹き出しを使い、店長さんが話しているようなイメージで伝えていたり、販促用のパンフレットでも店長さんの写真を表紙に起用するなどChompyらしい表現にしています。
wataame:また、「人のぬくもり」を大事にする上で、配達員さんとお客さまの関係性もとても重要だと考えています。Chompyの配達員さんだとひと目でわかるように専用のウェアをつくったり、お正月に注文すると配達員さんから直接お年玉がもらえるキャンペーンを開催したりしていました。
ちょっとした驚きや嬉しさにつなげられるポイントを
wataame:ありますね。昔から人をワクワクさせることが大好きなんです。サプライズを企画したり、誰かを喜ばせたりすることで自分もすごく幸せを感じます。周りからも「なんでそこまでするの」って呆れられるくらい。デザインを考える上でも、いつもちょっとした驚きや嬉しさにつなげられるポイントがないかを考えています。
wataame:ああいうのいいですよね、とっても好きです。つくり手もきっと見つけた人のことを想像して楽しんでると思うんですよね。「こんなとこにも!」って喜ぶだろうなあとか。例えば、Chompyでは何を食べたいか決められない時のために、楽しみながらごはんと出会える「ラッキーメニュー」機能をつくったりしていました。
あと、最近気付いたんですが、僕、人が熱狂する姿に興奮するみたいなんです。今ハマってることの一つにeスポーツ観戦があるんですが、Twitchなどでライブ配信を見ながらコメント欄をみるのがもう、とにかく楽しい(笑)。映像よりもコメント欄を見てる時間のほうがもしかしたら長いぐらい(笑)。みんなが盛り上がってコメントしてるのを見るとたまらない気持ちになります。だから自分もそんな熱狂を起こしたい、という気持ちがずっとあります。
wataame:違います。実は僕、服飾の専門学校に通っていたんです。それがある日、中村勇吾さんが手掛けた「ECOTONOHA」という作品にとても感動してしまって。ビジュアルや動きの気持ち良さはもちろんなのですが、ユーザーが投稿したメッセージの分だけ植林されていくという、オンラインとオフラインがつながる仕組みが最高に好きでした。
それで「服作ってる場合じゃない!」と思ってWeb制作会社に入ったのが19歳のとき。そこから僕のキャリアが始まりました。7年くらい働いたあと、面白法人カヤックに。UI/UXデザインとの出会いは、その次にジョインしたサマリーでの経験ですね。「サマリーポケット」をゼロから立ち上げ、そのときに初めてアプリのUIやサービスのUX設計を考えるようになりました。
wataame:本やスクールで学んだというよりは、それまで自分が興味を持って触っていたアプリなどに対する知識や考え方を総動員して臨んだというかんじでしたね。
僕の伯父がすごいガジェットオタクで、初期のころからマッキントッシュが出るたびに買うような人なんです。小学生の頃からお下がりをもらったり触らせてもらったりして、その度に「これ、やべぇ!」と(笑)。そんなこともあって、昔からガジェットや新しい物が大好きでした。iPhoneもリリースされた当初から夢中になっていて、アプリも手当たりしだいダウンロードしてひたすら触っていたんです。
当時好きだったアプリを触っているうちに、デザイン視点で「ここ、どうしてこうなってるのかな」とか「こうしてみたら良さそう」みたいなアイデアが自分なりにたまってきて。それで、勝手に自分で改善案のデザインをつくってみたりしてました。振り返ると、そうした経験がその後、UI/UXを考える上ですごく役に立ちました。
wataame:はい。サマリーポケットをローンチ後しばらくして、プロダクトの立ち上げがやりたくなって。入社当時は「メルカリアッテ」(※1)というサービスのローンチ前で、8割ほど出来上がっている状態で入ったので、そのUIデザインを行いました。その後、「メルカリカウル」(※2)の立ち上げをゼロから。そのあたりからUXにも関わりはじめて、役割の幅が広がり、最終的にプロダクトオーナーを担当しました。
プロダクトをゼロから立ち上げる経験を2回してみたら、次は会社自体をほぼゼロから成長させる、という挑戦をしてみたくなったんです。ソウゾウも新しい会社でしたけど、やっぱりメルカリという母体があって「スタートアップ」という感覚はあまりなかったので。
フードデリバリー市場はもともと競合他社が多いので、Chompyではデリバリー事業を主軸として続けつつ、飲食店ブランドをエンパワーメントする新しい取り組みもスタートします。今、まさに第二創業期といったかんじで、社内も活気があってみんな燃えています。
wataame:時間の使い方としては、考えている時間と手を動かしている時間が7:3くらいの割合ですね。プロジェクトにおける施策や細かい要件、仕様について考えていることもあります。あとは立場上、最先端の技術を追いかけていきたいと思っているので、情報収集したり、調べ物をしていることもあります。CXOという肩書きになったのはここ数週間のことで、今まさに会社や個人として、「どうあろうか」を考えているところです。
Chompyではデザイナーがプロダクトマネージャー的な役割を担うことが多くて。なので、基本的な「なぜやるか」を言語化するところから、要件定義なども自分たちでやって、エンジニアと密にコミュニケーションをとりながら進めていきます。大規模な組織だとプロダクトマネージャーとデザイナーは分業することが多いのですが、今はかなり広い範囲を担っていますね。必要に応じて、飲食店ブランドさんやお客さまなど、ユーザーにヒアリングしたり、そこから課題を抽出したり。
wataame:そうですね。開発以外の部分を全部デザイナーがやることは多いですね。
代表と連携しながら、代表と同じくらいの解像度でビジネスのことを理解できるように心がけながら動いているつもりです。自社のビジネスを理解していく過程はすごく大切にしていますね。
触ったり、体験したりして気づきを蓄積していこう
wataame:引き続き、人をワクワクさせるプロダクトを作っていきたいです。これは本当に心からそう思ってます。自分の人生の目標ですね。
それができるなら役割や手段は何でもいいかなと思っています。デザイナーでも、プロダクトマネージャーでも、もしくは起業して社長をするかもしれません。人が楽しんだり熱狂している姿を見て、僕もずっとワクワクしていたいです。
wataame:まずは、UI/UXに対する解像度を高めていくことが必要かなと思います。そのためにはとにかくいろんなものを触ったり、体験したりして自分の中に気づきを蓄積していくことでしょうか。
たくさん引き出しを持っているデザイナーさんって、アプリやプロダクトはもちろんいろんなものを解像度高く見ているんですよね。でも「たくさん触りましょう」ってあまり教えてもらえないから、意識しないとそういう経験は増えていかない。
そして、ただやみくもにボーッと触ってみるんじゃなくて、そのプロダクトの裏側にあるサービス提供側の意思や思想を感じ取れるか、考えながら触ってみるのが大事かなと思います。
「なんでこの画面ではこんなところにこのボタンがあるんだろう?」
「どういう意図でこれをここに置いたんだろう?」
とか。
あとはそのUIをビジネス的な視点でも見れるようになると尚、良いですね。会員登録のフローや、購入のフローの中で、どういう目的でここはこうなってるんだろう、とか考えながら触ってみると新しい発見があると思います。
wataame:今、NOT A HOTELでCXOをされている井上雅意(いのうえ・がい)さんはどうでしょうか。メルカリ・ソウゾウ時代の同僚で、ビジネス視点とデザイン視点の両方をバランス良く併せ持っている方なので、面白い話をしてくれると思います。
今日のまとめ
「人をワクワクさせること」が大好きだというwataameさん。私たちが投げかける問いに対する答えを、終始楽しそうに真剣に考えてくださる姿に、「サービスやユーザーに対してもこんなふうに向き合っているのだろうな」と感じました。
・「サービスを作る側の意思や思想をどのように伝えていくか」を考えるのがUI/UXデザイナーの仕事
・代表と同じくらいの解像度でビジネスを理解できるように心がけながら動く
・とにかくいろんなものを触ったり、体験したりして自分の中に気づきを蓄積していく
この連載が始まる前は、UI/UXというと使い心地や操作性といった部分に焦点が当たるように感じていました。しかしそれだけではなく、ビジネスのゴールからデザインを見つめることこそがUI/UXデザインの本質であるようにも思えます。今回のwataameさんのインタビューではそれらの行動が「サービスを作る側の意思や思想をどのように伝えていくか」という表現で一言で表されていて、思わず膝を打ちました。
大杉健太(おおすぎ・けんた)/ wataame(わたあめ)
デザイン制作会社で7年働いたのち、Sumallyで新規事業の立ち上げを経験。その後メルカリ/ソウゾウに入社。ソウゾウではデザイナーとして「メルカリ カウル」の立ち上げに参画後、プロダクトオーナーを務める。メルカリでは新規事業検討やカテゴリーグロースチームでPdM、UX Leadを務めたのち、2019年にChompyに入社。プロダクト開発に携わる業務全般を担当。わたあめとワクワクすることが大好き。