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vol.12 FANTASIAの毛利慶吾さんに聞いてみた
大切なのは作り手の想いと受け手の体験
パラレル宇宙子さん(以下:宇宙子さん):私は、かつて広告業界で10年以上、様々なプロジェクトに取り組みました。その経験から、サイトや映像や広告は「包装紙」にすぎないと思っています。「宇宙子」というコンテンツから広がるプロダクトやサービスを通じて、お客さまが自分の感性を研ぎ澄ましていく。そのリアルな体験こそが、パラレル宇宙子の提供するUXなんです。
だから私にとってUI/UXを考えることは、私が自分の内側で創造したコンテンツをどう表現したら受け手に伝わり、体験してもらえるか考えること。そこまでの動線すべてがUIであり、同時にUXでもあるといえます。
宇宙子さん:はい。プロダクトとしては「alt-現代に生きる魔女たちのための戦闘服-」というアパレルブランドと、セルフリトリートをコンセプトとしたバスソルトを展開しています。また、サービスとしては本質と共に在りたいと願い闘う女性たちのエンパワメントを行う「魔女セッション」を提供しています。
洋服やバスソルトは、一人一人の背中をそっと押すためのプロダクトです。セッションでは、他者の目や集団の声を気にせず、もっと深い領域に一人で潜っていく勇気を持てるようサポートしています。
プロダクトやセッションは表現の一つであり、媒体にすぎません。ゴールは、実際にそれを受け取った方たちが、日常の中で服を着たり、精神世界に触れる体験をすることで、感性を磨いていくこと。そこで得た気づきや変化・変容を「体験」として自分自身に落とし込んでいくこと。それが、私が提供しているものです。
世の中のほとんどの集合意識ーー「みんな」というものには主体性がありません。でもその中で生きていると、本当の自分は見えてきません。だからこそ、いつの間にか着てしまった鎧を脱いで「在りのままの私で良いんだ」という気持ちになってもらえるためのものづくりをしています。
宇宙子さん:私は魔女だから、見えちゃうんですよね。あぁ、この人は(自分のコアと)繋がれていないな、まだ思考で考えているな、とか。シンプルに言ってしまうとエネルギー、量子力学を視覚的に捉えた話になります。
宇宙子さん:魔女にも色々いますが、私はちょっと高い解像度の視界を持っているClair Voyant(サイキック)のウィッチなので、ユーザーの粒子が変化していくのが見えているんです。化学反応があったな、ということがわかるので、そこで判断していますね。もう、それ以外に説明しようがありません(笑)。
魔女・パラレル宇宙子を通して現実と精神世界の分離を一つにしたい
宇宙子さん:プロダクトを作るときの創造は「魔女」の視界の中で行われています。なぜなら自分自身のコアと繋がることで初めて本当の想いが見え、自分の作りたいものがわかるから。0から1を生み出しているのが魔女としての自分です。
一方、それをみんなにも分かりやすい形で表現するのは「アートディレクター」の自分。そんなバランスでやっています。
宇宙子さん:かつては大手ブランドの案件もいくつも手がけました。でも流れていく世の中のトレンドや、自分を凄く見せるための実績を追いかけてしまう商業デザイナーとしての在り方に、一番大切なことを見落としているような気がして。
大切なことは、どんな想いからプロダクトやサービスが生まれたのかだと今ならわかります。その頃の私は、広告が「包装紙」だと受け入れることができなかったんですよね。いかにすごい包装紙をつくったかを主張することに夢中でした。
そのことに気づいた時、「このままでは自分を見失う。自分の表現をしたければ自分の庭を創らねば!」と感じ、広告業界を離れたんです。
そしてデザインを学び直すためにイギリスに渡りました。ロンドンの美大、セントラル・セイント・マーチンズでファッションとテキスタイルを学びながら、自分自身に向き合い続けた日々でした。そうした学びを通じて精神世界への理解が深まっていく中で、ある日出会ったのが魔女という生き方です。
魔女、というと日本では不思議な顔をされますが、海外では、魔女たちはお洒落で時代の最先端をいく存在です。ロンドンでもスピリチュアリティはとても身近で、「自分の本質と繋がる生き方」が共感を呼び、数年前からミレニアル・Z世代を中心に新しい時代のムーブメントがはじまっています。私の場合は、本屋の奥で働いていた魔女との出会いが転機でしたが、海外、とくにヨーロッパではとりわけ珍しいものでもないのです。
世界観を崩さない
宇宙子さん:世界観を崩さないことですね。
それは例えば、プロダクトのデザイン、スチール写真や映像、サイトデザイン、フォント、そして実際のイベントの服の展示会やリトリートなどのリアルな場、紙媒体のグラフィックデザイン、メディアで発信するメッセージや動画のトンマナまで。ひとつひとつが世界観に沿ったものになっていれば、どのレイヤーから受け取った人もスムーズに入り込むことができ、より深く体験できると思います。
宇宙子さん:自分がどんな想いで何を表現したいのかを意識しておくことでしょうか。私はいつもインスピレーション先行で、直感や感覚を活かしてビジネスを考えるんですが、だいたい数年遅れて世の中が追いついてくる感覚があります。たとえその瞬間には世間に叩かれたり批判されたとしても、集合意識は変わるもの。だからこそ主体性の無い外野の声に翻弄されないこと。トレンドを追うのではなく、新しいトレンドを生み出す側の視点で捉えること。
周りの目を気にせず、自分が良いと信じる世界観を貫くためには自分のコアと繋がっていることが必要です。
例えばUIというと、Webサイトのデザインや導線の話になると思うんですが、そこは重要ではないというか、末端の話になってしまうので……。作り手の「想い」を受け取りたい人たちのワクワクする気持ちを、邪魔しない・遮断しない世界観を演出できているか。もっとワクワクさせる表現ができているか、などを考えています。
宇宙子さん:私はムードボードを作ることが多いです。むしろそこに一番時間をかけます。最初にお話しした0→1の部分ですね。そして、それを作りながら、なぜこういう世界観にしたいのか、どんなものを作りたいのかをひたすら内観し、熟考するんです。このプロセスが大切。
これは自分の内側に入っていく作業なので、痛みや苦しみを伴うこともあります。自分が受け入れることのできていない弱さや愚かさ、自分の闇や影とも向き合っていくことになります。ただ、そこに時間をかけた分だけ世界観がはっきりし、同時にコンテンツも強くなります。表面的なデザインばかり見つめていても世界観は生まれません。
宇宙子さん:素晴らしいというか、参考にしているものでもいいですか? 古代人の生き方でしょうか。
古代エジプトや縄文時代って、普通に考えれば「古いもの」だと思いがち。でも実はあちらの方が文明が発達していて、未来なんです。UX的に考えても優れている点が多い。
例えば現代は「お金」に翻弄され過ぎていますが、200〜300年後にはただの紙切れになっていて、「え、お金? 何それ? それで物を買ってたの? ウケる!」という世界があるかもしれない。お金も承認も、無いと思うから欲しがるわけですよ。
UXを考える上でも、豊かさやシェアという概念を考えるときには、古代人を参考にしています。「サステナブル」という言葉が流行ったり、ファストファッションはもう違うよねと言われたり、今までの資本主義が崩壊しつつあったり。
より自由に、やりたいことを表現する世界に変わってきているので、自分は今なんのためにこれをやっているのかを考えないと。そのためには、やはり自分らしく生きないともったいないですね。
魔術と芸術はイコール
宇宙子さん:私はデザイナーとしてはデジタル育ち。Webやグラフィックから入り、その分野ではたくさんの経験があります。イギリスに行ってからはマテリアルにも意識が向きました。モニターから飛び出して、実際に触れられるもの、体験できるものに。
ファッションデザインで物理的な商品を生み出しつつ、同時にそれをデジタル媒体で表現することもできるので、リアルとデジタルの両方を使って総合的にデザインしているのが私らしさでしょうか。
宇宙子さん:はい。魔法って全然ファンタジーじゃなくって、魔術と芸術はイコールなんですよ。もっといえば、私たちよりも高い次元には、魔法と科学が等しい世界がある。魔女というとファンシーなものをイメージする人が多いのかもしれませんが、量子力学的、あるいは物理学的なものを感覚的に理解して使っているのが現代の魔女です。
アートや芸術は精神世界と繋がっています。魔術も精神世界の話なので、突き詰めると同じことなんですよ。実際に世界中の魔女たちの中にはものづくりにかかわる人もたくさんいます。魔術は英語ではウィッチクラフトといいます。魔女たちはチャネリングやリーディングをして、その人に足りないものを見つけて、補うためのものを作ります。魔女のキキのお母さんみたいに。プロダクトに落とし込むときに、三次元以上の高い解像度の視界を使って、よりパーソナライズしたものをプロダクトとして生み出している人たちもいます。
宇宙子さん:「alt」の洋服のデザインも、高い解像度で自分をチャネルし自分のコアとリンクした時にインスピレーションが降りてきて、何かに突き動かされるように作りました。物質世界よりも高い次元の視界で受け取ったものを表現しています。
第一弾のシャーマニックコレクションは、ウクライナの民族衣装やリトアニア神道の服飾紋様の意味を込めてデザインしましたが、世界がまさか、こんなことになるとは。
既に別の、パラレル軸の世界での既視感があったのかもしれません。
宇宙子さん:朝起きてまずハーブティーを淹れます。ハーブの種類はいっぱいあるのですが、その日の感覚でブレンドをしたものを飲んで、その日にすることを整理します。あとは日によって変わるのですが、クライアントさんのセッション対応をしたり、服のデザインや制作を並行しながら今後のブランディングを考えたり、ムードボードを作ったり。で、夕方ぐらいに気が向いたら、魔女畑に行って草むしりをしています。
宇宙子さん:今は夏野菜とハーブですね。
宇宙子さん:『アミ、小さな宇宙人(徳間文庫, 2005年)』という本はいいですよ。三次元の固定概念が外れます。「インスピレーションが降りてきた」ってよく言うじゃないですか。その「降りてきたってどこから?」という話です。目に見えない、高い解像度の視界ってこういうことなのね、というのがわかりやすく書かれています。
おそらく遠くない未来に、従来のUI/UXデザインの作業はAIに淘汰されると思います。最近では「Midjourney」や、Stable Diffusion
しかし、ツールが進化するからこそ、大事になってくるのは作家性や唯一無二の世界観なんです。そのためには、繰り返しになりますが、自分の内側に入っていってどれだけ葛藤するかだと思うんですよ。美しいところも醜いところも全部体験して自分のものにした時に、本当の自分の世界観みたいなものがわかってくると思います。
宇宙子さん:人と触れ合う時間や場を増やしたいですね。
私、魔女になると言い始めた時に、一度クリエイティブ業界から干されているんです。その時期は発言するのが怖くなって、発信はインスタグラムだけ、写真を載せるだけでした。でも、綺麗な面だけを発信しても全然伝わらず、プロダクトを制作して販売するための情報も広告としか思われなかった。
ついつい職業病で、写真や映像ひとつにしてもどこまでもクオリティを追求したくなるのですが、美しいものだけが受け入れられるとは限りません。ドラマを見たいのにCMしか流れて来なかったらチャンネルを変えてしまいますよね。広告デザインも、サイトもUI/UXも、ユーザーを置き去りにして内輪で盛り上がってしまったら、凄く狭い世界にしかなりません。
それよりも、プロダクトを必要としている人が知りたいのは私の思想やアイデンティティ、これまでの経験。それらを通じた「私の在り方」を知りたいと思ってくれているんだと分かったので、今はもっと自分を出していってもいいかな、と思っています。なので最近は、パラレル宇宙子さんだけに飽き足らず、サバイバル地球子さんなる新キャラでも活動を始めています。主な生息地はYoutubeですが。
それから、アパレルブランドの新ラインを制作中です。次は漆黒のコレクションを作ろうと思って今動いています。撮影の裏側やメイキングの過程も、今後Youtubeにあげていければと思っています。
宇宙子さん:この人、という人が思いつきませんでした。ごめんなさい。
今回のまとめ
「自分の深い部分とつながり、表現すること」。これを魔女として体現し、自身が提供するプロダクトやサービスの核にもすえているパラレル宇宙子さん。表面的なデザインよりもそちらのほうが大切だと繰り返しおっしゃっていたのが印象的でした。
・プロダクトをどう表現したら受け手に伝わり、体験してもらえるかを考え抜く
・ユーザーが求めている世界観を崩さない
・一時的な流行や周囲の意見に惑わされずに自分と向き合う
魔女という響きからは当初、神秘的で日常から遠い存在をイメージしましたが、お話を伺う中で、自分の直感やインスピレーションをものづくりに落とし込むという点でデザインやアートととても近い領域にある生き方なのではと感じました。
ものづくりをする人の生き方や在り方。それがUIやUXに滲み出てくる、というのはある種必然的なことかもしれません。
パラレル宇宙子
魔女,Psychic Witch, Creative & Art Director, Fashion Designer / 広告業界でアートディレクター/デザイナーを経て、渡英。Central Saint Martins -University of the Arts Londonでテキスタイル&ファッションデザインを学んだ後、現代に生きる本物の魔女となり、自身のアパレルブランド「alt」を立ち上げる。