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TOP写真:Wind Moblity 代表取締役の及川克己氏(左)、シニアオペレーションマネージャーの上原健氏(右)
2020年2月取材
世界約30都市でサービスを展開
及川:Wind Mobilityはドイツ・ベルリン発のスタートアップ企業です。2017年からベルリン周辺で自転車のシェアリングサービスを手がけてきました。2018年ごろからアメリカ発で電動キックスクーターのシェアリングが一気に加速してきたため、我々も電動キックスクーターに変更しました。メインはヨーロッパで、世界約30都市で展開実績があります。
日本においては、2019年3月29日に埼玉高速鉄道と組んで浦和美園駅にて実証実験をスタートしました。我々は公道で走らせることに意味があると考えていますので、ドイツの車両をカスタマイズして、原付登録をして展開しています。
及川:電動キックスクーター自体がまだ出てきたばかりですので、ヨーロッパの国々でも日々規制が変わっている状況です。例えば元々ドイツでは禁止だったのですが、新たに国として規制を作って始まりました。ドイツはヨーロッパの中では厳しいほうですが、それでも日本に比べれば自由度はずっと高いです。
上原:都市によって規制も大きく違うので一概に「この国が進んでいる」とは言えません。
例えばフランスのパリなどは、一気に電動キックスクーターが普及した街です。ところがパリは観光客が多く、ルールを知らずに乗る人が続出したため、歩道走行が禁止となり、自転車レーンか車道のみという規制ができました。
またイスラエルのテルアビブは、もともと個人所有の多い地域でした。そのためシェアリングとの相性もよく、我々も含め、各社がかなり力を入れています。しかし現在では電動キックスクーターが増えすぎてしまい、管理のために小さなナンバープレートを付けることが規定されるようになりました。当社はテルアビブではシェアリングやサブスクリプションを提供しています。
上原:イスラエルのほか韓国や、スペインのバルセロナなどでも準備をしています。
サブスクリプションに関しては、どういう形が一番いいのか、提供しながら探っている状態です。どういう車体でどういう内容がいいのか、グローバル全体でサービスを作りあげていきたいと考えています。
公道にこだわる理由
及川:ヨーロッパでも、普及し始めて1年ほど経った2019年には死亡事故を含めた事故が増え始めました。そうした事態を受け、国によっては規制が強くなってきています。ヨーロッパは自由からスタートして、様子を見ながら規制が生まれているんです。
一方、日本では規制があるところからスタートし、どれだけ緩和していくかを探っています。結果として、状況はだんだんと似てくるのではないでしょうか。
現状、日本において電動キックスクーターは2002年ごろにできた警察庁の通達により「原動機付自転車扱い」とされています。そのため、ナンバープレートやサイドミラーを装着し、自賠責保険に入る必要があります。利用する側も運転免許が必要で、ヘルメットもかぶらなくてはならないので、規制としてはかなり厳しいですね。
日本の法規に合わせてナンバープレートやサイドミラーなどが装着されている
及川:もちろん公道だけではなく、公園のサイクリングコースや観光地での利用、大企業の敷地内での移動など、短距離の移動を必要とする幅広いシーンで普及させていきたいと考えています。
ただ、私たちは公道も含めて広く使われるモビリティを作ることを目指しています。それならばはじめから公道で実証実験をして経験を積んでいこうと考えました。現在でも公道でサービスを提供しているのは我々だけだと思います。
2020年1月31日に出したプレスリリースでデータを発表したのですが、利用者のアンケート結果を見ると、私有地での試乗と公道での試乗では、利用者の意見がまったく異なります。例えばスピードについて、私有地では「ちょうどいい(59.1%)」の次に「少し早い(24.5%)」が続くのに対して、公道では「ちょうどいい(63.3%)」に続くのは「少し遅い(24.3%)」でした。
もちろん利用者の安心・安全を担保するのは当然のこととして、われわれは公道での実証実験にフォーカスしていこうと考えています。保安基準の緩和を検討する上でも必要なデータではないでしょうか。
及川:確かに、私も最初に私有地で乗ったときは、時速17〜18kmくらいで「結構早いかも」と思いましたが、公道に出てみると「冗談じゃない」と(笑)。これは、われわれの大きな学びのひとつでした。
上原:現在は最高時速20km未満になるよう制御しています。実は1台ずつ管理アプリを使って設定可能で、技術的には時速25kmを出すことはできるんです。ところが今の法律では、時速20km以上の乗りものには追加の装備が必要で。
時速20km未満なら、サイドミラー、前照灯、ナンバープレートの番号灯などの装着だけで良い。でもこのラインを超えると、ブレーキライトやウインカーが必要になります。もちろん装着すること自体は可能ですが、電動キックスクーターにそこまでいろいろ付けるのか、と(笑)。もちろん時間もコストもかかりますので、まずはできるところからやろう、ということで今の形になりました。
ちなみに海外を見ると、ドイツでは最高時速は20kmですが、他の国は大体25km程度に設定していることが多いようです。
及川:これも、まさに(実証実験を)やってみて分かったポイントでした。サービスを開始するときに警察にも相談したのですが、聞いてみると左折、右折時の手信号は、曲がりきるまでずっと出していないといけないんだそうです。その間は片手運転になるのですが、電動キックボードはアクセルもブレーキもレバーですから、操作ができなくなってしまいます。
そこで千葉のシェアリングサービスは、千葉県警との相談の結果、右左折のときは一度降りてもらうというルールにしています。
ただ、われわれとしてはウインカーをつけてでも、より速い最高時速25kmでの実証実験をやってみたいと考えています。実際にやってみてどうかが分かれば、「ウインカーは不要では」「ウインカーはいるけどナンバープレートは不要では」など、保安基準の緩和を議論する材料になりますから。
機会はあります。例えば千葉県市川市での試乗会では国土交通省のご協力をいただいたり、警察庁に公道走行のデータをご提供したり、内閣府の規制改革推進室の方々に話をしたり。国としてもいろいろ知見を集めて、ルールを検討しているのではないでしょうか。
パワーアップした新型WIND 3.0
上原:現在サブスクリプションでご提供している機種は「WIND 2.0」。最新機種として、すべて自社設計で開発した「WIND 3.0」というモデルを先日発表しました。2月15日に千葉市に配備をはじめたばかりなのですが、前の機種と比べて馬力が強化されています。おそらくこのモデルに乗っていただくと、かなり違いを感じていただけると思います。
※次回、「電動キックスクーター『WIND』インタビュー 後編」は2020年5月8日公開予定です。
筆者追記:
インタビュー後の2020年4月、新型コロナウイルス感染拡大により、Wind Mobility Japanは千葉市および浦和美園でのシェアリングサービスの提供を2020年4月30日で終了すると発表した。
米国や欧州各国では厳しい外出禁止令が出されており、多くの電動キックスクーターのシェアリングサービスがサービス提供の一時停止を余儀なくされるなど、苦境に立たされている。Wind Moility Japanの実証実験も、その影響を受けた格好だ。
国内でのシェアリングサービス再開について、代表取締役の及川氏は「現在のところ未定」としている。