電動キックスクーター「WIND」インタビュー【後編】新型「WIND 3.0」に乗ってみた

May 08,2020interview

#WIND

May08,2020

interview

電動キックスクーター「WIND」インタビュー 【後編】新型「WIND 3.0」に乗ってみた

文:
TD編集部 出雲井 亨

2020年1月に国内で電動キックスクーターのサブスクリプションサービスをスタートしたWind Mobility。実際にサブスクに申し込んで使ってみたTD編集部の出雲井(いずもい)が、同社日本法人 代表取締役の及川克己氏、シニアオペレーションマネージャーの上原健氏にインタビュー。後編では、新型となるWIND 3.0について聞き、実際に乗ってみた。

前の記事電動キックスクーター「WIND」インタビュー 
【前編】いち早く公道で試験を始めた強みと理由

2020年2月取材

大幅な機能改良となった新型WIND 3.0

今回は「WIND 3.0」について教えてください。

上原:WIND 3.0はタイヤサイズを拡大し、サスペンションも強化したので乗り心地が大きく改善されました。ほかにも後輪ブレーキが足踏み式から一般的な自転車と同じようなレバー式になったり、バッテリーが取り外し式になるなど、使い勝手はかなり向上しています。

及川:新型はIP67相当の防水・防塵性も備えているため、耐久性にも優れています。シェアリングサービスに使う電動キックスクーターは基本的に野ざらしでユーザーの使い方も荒いので、非常に寿命が短いんです。
LimeLyftなどはセグウェイで有名な中国のNinebot製の機体を使用していますが、その多くが3カ月以内に壊れてしまいます。これに対して自社開発したWIND 3.0は、1年以上持つ設計になっています。

すべて自社開発したWIND 3.0。取り外し式バッテリーはフットボードに内蔵する
バッテリーが取り外し式になったのは嬉しいですね。これで充電のために室内に駐輪しなくてすみます。現在、国内のサブスクリプションの登録者はどのくらいですか。

及川:現在(2019年2月時点)ご登録いただいているのは50名強で、順次配達しているところです。サブスクリプションでご提供している機種はWIND 2.0なのですが、新機種への交換も今後検討していきます。

電動キックスクーターのシェアリングサービスは国内にも何社かありますが、競合と比べたときの優位性はどこにあるのでしょうか。

及川:公道でサービスを展開しているため、オペレーションに強い部分です。利用者の走行データを保有していることももちろんですが、事業としてやっていく上では日々の運用が何よりも重要です。その大変さをいち早く体験し、たくさんのノウハウを蓄積しているのは大きいですね。

例えば電動キックスクーターに必要な「充電」。浦和美園駅のような駅のステーションであれば、夜間に充電する際、近くのコンセントを利用することもできます。でも稲毛海浜公園のようなステーションではこれができませんから、営業時間の終了後にすべての機体をトラックに積んで倉庫まで運び、充電とメンテナンスをした上で、翌朝配置するという作業が毎日必要になります。「IoTを活用した先進的なビジネス」などと言われることもありますが、実はこんな風にアナログで泥臭い部分もあるんです。
WIND 3.0には業界初の取り外し式バッテリーを搭載したので、ある程度負担を減らすことができます。さらに将来に向けて、ワイヤレス充電などのテクノロジーも研究中です。

稲毛海浜公園のステーション。海風や砂にさらされる、なかなか過酷な環境だ
最後に、Wind mobilityが将来的に目指すものを教えてください。

及川:電動キックスクーターだけに特化した会社ではなく、マイクロモビリティを通じて豊かなライフスタイルを作っていく企業として成長していきたいと考えています。
その範囲に入るものであれば、例えばe-bikeや電動シニアカーなど、幅広いモビリティを手がけていきたいと思っています。

ありがとうございました。それでは明日、WIND 3.0に乗ってみたいと思います。

千葉でWIND 3.0に乗ってみた

WIND 3.0。サブスクリプションで筆者が乗っているWIND 2.0と比べて、パワーも乗り心地も大幅に向上しているという。
ということでインタビュー翌日に千葉市に出向き、試してみた。

しかし……、海浜幕張駅近くや稲毛海浜公園のステーションを探しても、先代モデルのWIND2.0ばかりで黄色いWIND 3.0が見つからない。美浜区役所前のステーションで、やっと置いてあるのを発見した。まだ配備され始めてから数日ということで、数は少ないようだ。

美浜区役所前でWIND 3.0を発見! ステップボードが厚いためゴツい印象だ

見た目は以前のモデルより少し重厚になった。バッテリーをステップボード(足を置く部分)の下に収納したため厚みが増しており、タイヤサイズが拡大したことも相まってゴツくなった印象だ。重量は29kgと、先代モデルの14kgから倍増している

早速ハンドルにぶら下がったヘルメットをかぶり、ロックを解除して走ってみる。1,2歩ほど地面を蹴ってスタートする感覚はサブスクで乗ったWIND2.0と変わらない。だが走ってみると明らかに路面からの衝撃が減り、安定感が増している。
10インチになったタイヤや強化されたサスペンション、そして重量が大幅に増えた効果もあるだろう。実は、事前にスペックを見たとき、あまりにも重量が増えていたため、電動キックスクーターの軽快さが失われているのではないかと心配していた。ところが実際に乗ってみると、重くなったマイナス面はまったく感じられなかった。押し歩きのときも、先代モデルとの大きな違いは感じられない。バッテリーがステップボード下にあるため重心が低いためかもしれない。充電のため自宅内に運び入れるような状況では重さを感じるかもしれないが、バッテリーが取り外し式になったため、そんな機会もあまりないだろう。

左右それぞれの手で握り込む「自転車タイプ」になったブレーキも、改良点の一つ。先代モデルは、フロントブレーキが左手のレバー、リヤブレーキはタイヤカバーを足で踏む方式だった。しばらく乗っていれば慣れるものの、体勢が崩れたりして急いでブレーキをかけたいときに、とっさに操作するのは難しい。やはり慣れ親しんだ自転車タイプのブレーキのほうが安心感がある。

タイヤサイズは10インチに拡大。サスペンションも強化され乗り心地がアップした
自転車と同じように、左右ハンドルにブレーキレバーがある

走っていくとゆるい上り坂に差し掛かった。先代モデルであれば、だらだらとスピードを落としていきそうな場面だが、WIND 3.0の速度計はピクリとも動かない。まったく速度を落とさず登り切ることができ、パワーの向上を実感できた。

公道を走る上では、最高速もさることながら、加速が大事だ。WIND 2.0では、長い坂を上る途中に例えば信号などで停止してしまうと、そこからなかなか再加速できずに怖い思いをしたことがあった。だがパワーが増したWIND 3.0は、最高速は同じでも使い勝手は良くなったといえる。
サブスクリプションで感じたハードウエア的な不満の多くが改善されており、「うちにもこっちがほしい」といいたくなるほどの進化を感じた。

正直なところ、電動キックスクーターはまだ万人にオススメできる乗りものではない。近所を乗り回すなら電動アシスト自転車の方が、一方通行、免許、ヘルメットといった制約に縛られず自由に走り回れる。
同じ電動モビリティで比べても、例えば以前紹介したglafitバイクならもっとスピードが出るし、バッテリー切れでも自走できる。折りたたんでクルマに積めるのもよい。

ただし電動キックスクーターという形には、自転車にはない手軽さがあるのも事実だ。
「立って乗る」という姿勢が、歩行の延長線上にあるためかもしれないが、自転車にまたがるよりも手軽な感覚があるのだ。

【試乗レポ】の記事で、電動キックスクーターの普及のためには「ハードウェア面」と「ルール面」の双方に課題があると述べた。
「ハードウェア面」については、今後より改良されていくだろう。WIND 3.0の進化を見ても、それは明らかだ。「ルール面」は、Wind Mobilityをはじめとする電動キックスクーター各社や国の取り組みに期待するしかないが、及川氏の話を聞く限り、国の関係省庁も関心を持って検討しているようだ。

近い将来、近所のコンビニに出かけるときに、さっと飛び乗って移動できるような、身近なモビリティになってほしいと願っている。

(了)

筆者追記:インタビュー後の2020年4月、新型コロナウイルス感染拡大により、Wind Mobility Japanは千葉市および浦和美園でのシェアリングサービスの提供を2020年4月30日で終了すると発表した。米国や欧州各国では厳しい外出禁止令が出されており、多くの電動キックスクーターのシェアリングサービスがサービス提供の一時停止を余儀なくされるなど、苦境に立たされている。
例えば以前ベルリンでの試乗レポートをお届けしたLimeは2020年4月、韓国を除く25カ国以上でのシェアリングサービスをすべて休止。Wind Mobilityも同様にサービス提供を停止・縮小しており、同社の実証実験もその影響を受けた格好だ。

この記事を読んだ方にオススメ