国内自動車メーカーのデザイナーが一緒にモノづくり!?
トヨタ、日産、ホンダ、三菱、ダイハツ、スバル、スズキ、マツダ……。国内自動車メーカーといえば、ガチンコのライバル関係。
うっかり日産のデザイナーの前で「新しいスープラってかっこいいですよね!」などと褒めようものなら、二度と口をきいてもらえない……。勝手にそう思い込んでいた。
ところが実際はまったく違うらしい。各社のデザイナー同士、交流の機会もある。そしてときには一緒になってモノづくりまでしているのだ。
「1kg展」は、冒頭で挙げた国内自動車メーカー8社のカーインテリアデザイナー、CMFデザイナーの有志団体、JAID(Japan Automotive Interior Designers)による初の展覧会だ。
JAIDは企業の枠を超えて楽しみながらユニークなオープンクリエイションを行う集団として様々な活動をしており、「オールジャパン」から生まれる新しい「日本の内装」を探求している。
「どんな1kgの価値を創造できるか?」をテーマとし、3Dプリンターを用いてデザイナーたちが制作した作品を見ることができる。
会場は東京・有楽町のGOOD DESIGN Marunouchiと池尻大橋のDiGITAL ARTISANS GYMの2カ所。有楽町会場には作品を展示し、池尻大橋会場では作品のほかに3Dプリンターによる制作過程も展示している。
「1kgで何ができるか」をいろいろな角度から追求
自動車のインテリアに使われる素材には「kg単価」という言葉が用いられるそうだ。
この1kg展では、各社のデザイナーたちが「重量1kg」という枠の中で、実に柔軟な発想で価値を提案している。
すべての作品が3Dプリンターで作られているのだが、ここまで幅広いモノが作れるのかと驚いた。
実物大のトルソーのような大きな作品、たんぽぽの綿毛を再現した繊細な作品、さらに食品用3Dプリンターを用いてチョコレートで出力した「食べられる作品」もある。
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これは1kgの巨大なタンポポの綿毛を再現した「∞ Fluff」。繊細な綿毛は、触れてみると柔らかい。これを3Dプリンターで作れるというのは驚きだ。
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「4D flower」は3Dプリントに「時間軸」を加えたという4Dプリントの作品。形状記憶フィラメントを使って制作されており、熱を与えると徐々につぼみが開いていく。美しく、儚い作品だ。
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こちらは「世界中の生き物がすべて1kgだったら?」という仮定から作られた人体。なんとトヨタと日産のデザイナーによるコラボ作品だ。さらに備え付けのタブレットでこの作品を映すと、ARでその世界をのぞくことができる。
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「クルマも魚も中身が旨い」というキャッチコピーがつけられた「クルマのひらき」。確かに、クルマの外観はミニカーで楽しめるが、インテリアはなかなかそうもいかない。こんなミニカーがあれば、ほしいかも。まるで魚屋さんの店頭のような遊び心あふれる展示も楽しい。
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「Gromp ME -R2- ぎゅ~っと抱きしめてリカ弐号機」と名付けられた作品は、「月に移住した彼氏のもとに自分を転送して抱きしめてもらう」ための装置。このトルソーはデザイナー本人を3Dスキャンして制作したもので、実際に作品を抱きしめると、デザイナー本人の手に装着したセンサーから読み取った心臓の鼓動を感じられる。
本人を目の前にしてその心拍を感じると、ゾクッとした。
そうそう、どう見ても1kgよりも重そうだと思ったら「月の重力は地球の6分の1だから、月では1kg」とのこと。そういうことか!
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「ライフバランス」は、デザイナー自身のライフバランスを表現した作品。自分を中心に、趣味(野球やゴジラ)、仕事(上司や製品)、家族を配置。バランスが崩れると台座が傾いてしまう。そんなときは、ビールでバランスをとれば、うまくいく!?
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「食べられるファックス」は、スマホに届いたメッセージを食品用3Dプリンターでチョコとして出力して相手に届けるというアイデア。
従来のチョコレートではエッフェル塔を作るのに強度が足りなかったため、世界的パティシエに協力を仰いでこの作品のために新たなチョコレートを開発したという。
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「クレヨン制作キット」は、材料となる砂を現地調達して、教育に必要な読み書きのツールとなるクレヨンを作ろうというプロジェクトだ。
1kgの樹脂で「モノ」を作るのではなく、「価値を生み出すツール」を作った点がユニーク。
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第2会場では試行錯誤の痕跡を見てみよう
そしてこちらは第2会場のDiGITAL ARTISANS GYM。昨年12月末にオープンしたこの場所は、大型3Dプリンターを中心とした新しい造形加工機の展示や開発、次世代のモノづくり人材を育成するためのプロジェクトを進める拠点となる。
第2会場でしか見ることができない「制作過程」も興味深いので要チェックだ。
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お地蔵様を出力している、この大型3Dプリンターは今回の展覧会をサポートしたDiGITAL ARTISANが開発中のもの。心拍を感じられるトルソー「Gromp ME -R2-」の出力にも使われた。一般的な3Dプリンターのような専用フィラメントの代わりに、樹脂ペレットを使って成形できる。
「1kg展」の発案者のひとりであるDiGITAL ARTISANの原雄司代表によると、樹脂ペレットは圧倒的に価格が安いだけでなく、種類が豊富な点も魅力だという。
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それにしても、これだけ豊富な種類の3Dプリンターを自由に使える場所は他にないだろう。これらは全て、原氏が国内の有名3Dプリンターメーカー数社に声をかけて協力を取りつけたものだという。「もしすべての作品を自費で出力したら数千万円になるかも」と教えてくれた。
1kg展は、国内自動車メーカーの現役デザイナーによる競作という珍しい展覧会である上、国内の3Dプリンター技術の最前線にも触れられる。
ここには紹介しきれなかった作品もたくさんあるので、ぜひ実際に足を運んで体験してみてほしい。会期は1月25日(金)までだ。
「1kg展」
会期:2019年1月12日(土)- 1月25日(金)
会場1:GOOD DESIGN Marunouchi (千代田区丸の内3-4-1)
会場2:DiGITAL ARTISANS GYM(目黒区大橋2-22-42)
開館時間:11:00 – 20:00 ※最終日は17:00終了
料金:無料