カーデザイナーの卵がスケッチで激しいバトル3名の大学生がアジア大会の出場権を獲得

Aug 11,2017report

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Aug11,2017

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カーデザイナーの卵がスケッチで激しいバトル 3名の大学生がアジア大会の出場権を獲得

文:
古庄 速人

カーデザイナーを目指す大学生たちが即興スケッチで競い、トップを目指す「東京カーデザイングランプリ」が7月下旬に開催されました。会場には全国の8校からおよそ30名が馳せ参じ、熱い戦いを展開。その様子をレポートします。

そもそも「カーデザイングランプリ」って?

「カーデザイングランプリ」とは、カーデザイナーやプロダクトデザイナーを目指す学生が、即興でスケッチを描いて競うイベントです。2017年からKADA(カダ:韓国オートモーティブデザイン協会)の主催でスタートし、東京大会はソウル、上海に続いての開催。各地の上位入賞者は、8月後半にソウルで開催される「カーデザイングランプリ・アジア大会」に出場することになっています。つまり東京大会は、アジア大会の予選ラウンドでもあるわけですね。

実は同様のイベントは世界各地で開催されていて、日本では「カーデザインバトル」というイベントが開催されたことを覚えている人もいるかもしれません。しかしいくつかの国で予選ラウンドをおこなうというのは、今回のカーデザイングランプリが初めてなのではないでしょうか。

会場となったのは渋谷道玄坂にある「ものづくりカフェ」、FabCafe Tokyo。熱気が充満する空間!

参加者は武蔵野美術大学、多摩美術大学、サレジオ工業高等専門学校、首都大学東京、金沢美術工芸大学、静岡文化芸術大学、大阪芸術大学、HAL東京という8校から、およそ30人。すでに就職の決まっている大学4年生から高専の4年生(大学では1年生に相当)まで、いろいろな学年から参加しています。

8つの学校から集まった、およそ30名の参加者たち

コンセプトの明快なものが受賞!

参加者は「2025年のスポーツカー」、「2050年の自動運転車」というテーマで制限時間内にアイデアスケッチを描き、それぞれの得票数を合計して順位が決定されました。その結果、1位となったのは佐藤太亮さん(武蔵野美術大学4年)。

左から1位(佐藤さん)、2位(遠藤さん)、3位(竹内さん)のスケッチ。いずれも上が「2025年のスポーツカー」、下が「2050年の自動運転車」

佐藤さんはバックパックやテントをはじめとしたアウトドア用品を思わせるスポーツカーと、機械らしさがなく、歩く人の休息場所にもなる自動運転車を提案。どちらもユニークなアイデアだけでなく、それを的確に表現したスケッチになっていたことで、多くの審査員が目を止め、手に取ってチェックしていました。

国際色豊かな審査員たち。短時間で提案の価値を見抜かなければならないため、真剣にチェックしている様子が印象的だった

「一般的なスポーツカーを考えるのではなく、アウトドアスポーツの要素をクルマに盛り込んでみようとアイデア展開しました」と佐藤さん。聞けば「クルマは好きだけれど、クルマだけが好きなわけじゃない」ということで、ふだんの興味の幅広さがユニークな発想に結びついたようです。自動運転車も「人が乗って移動できる」というだけでなく「人のいるところに自動で移動する」という、既存の乗用車からは大きく飛躍したコンセプトが光っています。

なお2位は遠藤直哉さん(武蔵野美術大学4年)、3位は竹内佑喜人さん(静岡文化芸術大学2年)が獲得。いずれも色鉛筆とコピックマーカーだけでシンプルに描かれていますが、スケッチを見ただけでデザインの意図が明確に伝わるもので、受賞も納得です。この上位3名は、8月のアジア大会に出場することになっています。ここでは日中韓の3ヶ国の学生がアイデアを競います。健闘を期待したいですね。

審査員はKADA会長のリチャード・チャン氏をはじめ、日本で働く現役デザイナーおよそ20人。ただし出身国は多岐にわたり、日本人でも海外で働いた経験を持つ人が多いという、国際色豊かな顔ぶれ。審査は非常に短い時間でスケッチの提案内容を見抜き、評価を決めなければならないという、評価する側にも相当のデザインセンスが求められるものでした。

KADAの会長はアメリカの自動車用座席メーカー、アディエント社のイノベーション担当副社長、リチャード・チャン氏が務めている

現役デザイナーとの交流に興奮

また4~6位の学生には、ゲストとして訪れた児玉英雄氏のスケッチを収録した書籍を贈呈することが、急遽決定しました。4位は山北拓史さん(多摩美術大学4年)、5位は二木優さん(静岡文化芸術大学2年)、6位は春江紗綾さん(サレジオ工業高等専門学校4年)となっています。

競技の合間には、児玉英雄さんのスピーチをはじめサンティッロ・フランチェスコさん、山本卓身さんといった現役デザイナーたちのプレゼンテーションがおこなわれ、学生たちは熱心に聞き入っていました。その後の懇親会でも、デザイナーたちと直接話せるとあって大盛況。

「デザインが持つ力」について語る山本卓身さん。学生たちは真剣な面持ちで現役デザイナーたちのプレゼンテーションに耳を傾ける

学生にとっては、こうした先輩たちの「生の声」が聞けたことや、他校の生徒たちと交流できたことが大きな成果だったようです。残念ながら受賞できなかった学生たちも、こうした機会で得た縁は、大きな財産となることでしょう。

スケッチツールはボールペンや色鉛筆、コピックマーカー。どの学生も真剣な表情だ

それにしても、韓国のデザイン協会がわざわざアジア各国でこの予選を開催する理由は何なのでしょう。また、日本国内ではこういった取り組みがあまり話題になりませんが、欧米では公式スポンサーがついたものからアンダーグラウンドなものまで、「スケッチバトル」は学生や若手デザイナー達の間で頻繁に行われている印象です。実は日本でもやっているよ、という情報をお持ちの方、是非お寄せください。 TDでは「カーデザイングランプリ」の本選の様子も取材予定(現在鋭意調整中)。このイベントも追いながら、学生や若手カーデザイナーの興味や動向を深掘りしていけたらいいなと思っています。乞うご期待!

<取材・撮影/古庄 速人>

 

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