プロダクトデザインの現場で使われる「クレイモデル」とは
「クレイモデル」ということばを聞いたことがありますか。クレイモデルとは、特定の温度に温めることで柔らかくなるインダストリアルクレイを使って作るモデルのこと。冷めると硬化して彫刻のように削ることができ、削りすぎたら再び加温したクレイを盛ることもできます。試行錯誤しながら精密な造形を作り上げられるため、自動車をはじめとして幅広い分野のプロダクトデザインの現場で利用されています。
そんなクレイモデル造形の技能を身につけられる技能講習会が2017年8月3日・4日に、日本産業モデル造形振興会とトゥールズインターナショナルの共催で開かれるということで、TD編集部がレポートに行ってまいりました。
講師を務めるのは、かつて自動車メーカー各社にて第一線で活躍しており、現役を退いたクレイモデラーが中心となっている団体「日本産業モデル造形振興会」のメンバーです。今回はトヨタ、日産、SUBARU、マツダのクレイモデラーOB計7名が講師として参加しました。
余談ですが、この方々は現役時代の20年前に JCMA(日本カーモデラー協会)を創設したメンバーでもあるとのこと。この協会はクレイモデラーとしての技術の研鑚や技能の伝承、クレイモデラーの社会認知と地位の向上、そしてモノづくりの素晴らしさや楽しさを伝えるために、日本国内の自動車メーカーを横断的に結成された知る人ぞ知る組織。現在の日本の自動車業界におけるクレイモデラーたちの活躍は、こうした方々が切り拓いてきたものなのですね。
豪華な講師陣の指導をハンズオン形式で受けられる貴重な機会ということで、デザイナーやモデラーを志す学生からメーカーでデザイナーとして働く社会人まで、今回は18名の受講者が集まりました。
全国各地から集まった受講生たち
クレイモデルを2日間も学びたい人ってどんな人たちなんだろう? と思い、聞いてみると……、プロダクトデザイン専攻の学生を中心に、関東近郊はもとより、遠くは秋田や富山、沖縄など全国各地から集まっているとのこと。夏休みを利用して地方から来るんですね。実際に過去のワークショップ受講生の中には自動車メーカーや自動車関連会社に就職した人も多いそうで、会場では参加者の本気度、そして熱量の高さをびしびし感じました。もちろんデザイナー志望の学生だけでなく、社会人の参加者も。この回ではおおよそ学生6割、社会人4割だったようです。海外からの留学生も2名、参加していました。
社会人の参加者はやはりデザインに携わる部署の方が多数を占めていましたが、主催者によると「業務でCADデザインに携わっている方々の参加が目立つようになってきた」とのこと。画面の中で緻密なデザインをこなすCADデザイナーの方々が、感覚や感性をより高めるために実際に手を動かすこのフィジカルワークショップを受講するケースが増えているようです。
二日間の講座で、参加者はクレイモデルの造形の基本工程をすべて学びます。まずは図面を読むところから、クレイの粗盛り・面の仕上げ・磨き作業・フィルムの貼り付けまで、プロの作業と同じように進めていきます。
クレイを粗盛りし、「テンプレート」と呼ばれる定規を使って、図面どおりに面を削り出していきます。
「面を仕上げていくことで稜線をつくっていく」という感覚は、点と点をつなげて稜線をつくって面を生み出していくCADでのデザインとはまったく逆のアプローチ。普段デジタルでデザインをしている参加者の方にとっては、新鮮な発見がたくさんあったようです。
完成したらフィルムを貼り付けます。光を当ててハイライトの状態などをチェックすると、ほんの少しの歪みまではっきりわかってしまいます。