オートカラーアウォードから見つめるCMFデザインvol.1 感情に影響を与え、生活を変化させるもの

Nov 01,2019report

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Nov01,2019

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オートカラーアウォードから見つめるCMFデザイン vol.1 感情に影響を与え、生活を変化させるもの

文:
TD編集部 すぎもとたかよし

「色」「素材」「仕上げ」をどのように設計するかによって、そのプロダクトのイメージは驚くほど変わる。この三要素(Color/Material/Finish)を体系的に理解し、デザインするのがCMFデザイナーだ。TDでは「CMFデザイン」について連載で考えていく。第一回は、JAFCAの大澤かほる氏をインタビューした。

文=すぎもと たかよし
聞き手、構成=青柳 真紗美

C=カラー、M=マテリアル、F=フィニッシュ

CMFデザインという言葉をご存知だろうか。プロダクトデザインにおける「外形のデザイン」に対し、CMFは基本的にその「表面に施されるデザイン」を意味する。すなわち、C=カラー(色)、M=マテリアル(素材)、F=フィニッシュ(仕上げ)と、造形される製品等の表層を示し、この3要素に関するクリエイターを「CMFデザイナー」という。

CMFデザインの重要性について、欧米では1980年代から注目されてきたが、日本において体系的な理解が広まったのはここ数年だとされている。
視覚にダイレクトに訴えかける「色」。機能面などに影響を及ぼす「素材」。ザラザラした加工やマットな質感、エナメルのような光沢など、表面に施す「仕上げ」。この3つをどう選ぶかで、そのプロダクトのイメージは驚くほど変わる。

このCMFの重要性をいち早く見出し、デザイン業界内の認知普及に向けた活動を進めてきた団体がある。一般社団法人 日本流行色協会(以下:JAFCA)だ。JAFCAは1953年の創立以来、最新のカラートレンド情報の提供を中心に、幅広いデザイン業界向けのセミナーや講座、トレンドカラーの受託事業などを手がけてきた。中でもカラーデザインの重要性をアピールする顕彰事業「オートカラーアウォード」は今年、22回目の開催を迎える。今年度は2019年12月18日(水)(公開プレゼンテーション・一般参加者投票)・19日(木)(実車審査・グランプリ発表・表彰式)の二日間に渡り開催され、ノミネートされたカラーデザインは1219台/複数でのノミネートもあり)。
車両のカラーデザインの企画力や、形との調和を含む内外装すべてのカラーデザインの美しさを評価するというコンセプトで、各社のCMFデザイナーの「色」へのこだわりと想いに触れることができる、他にはない個性的なアウォードとなっている。

 昨年度のオートカラーアウォード 審査および表彰式の様子。

ややもすると裏方的な存在になりがちな「CMFデザイン」。TDでは、この新しいデザイン分野について考察、レポートすることを目的に、2019年度の「オートカラーアウォード」と、CMFデザイナーたちの声を追いかける。

第1回目はJAFCAのクリエイティブデレクター、大澤かほる氏に、CMFデザインの定義と現況についてインタビューした。

私たちはCMFデザインの重要性を肌でわかっている

まず、日本における「CMF」の定義について、大澤さんはどのように捉えているかを教えてください。

大澤:教科書的な解釈を脇において素直に表現するならば、CMFデザインは人間の感情に影響を与え、ひいては生活を変える力を持っているものだと考えています。
まず、「色」は視覚に直接働きかけますから、わかりやすいですよね。新しい色や、お気に入りの色を身につけたことによって感情が変化した経験は、皆さん多少なりともお持ちなのではないかと思います。
色だけでなく「素材」や「表面の仕上げ」が加わることで、触感なども変化し、CMFは人間の五感にダイレクトに訴えかけます。
例えば、カーテンを新調するとまるで引っ越したような新鮮さを感じたり、特別な色のドレスを着ると気持ちが自然と高揚したり……。色や素材がおよぼす影響力は従来から言われていたものですが、あくまでも感覚的なもので、理論的・体系的なものではないという認識が強かったんです。ファッションの分野では当たり前のように行われていることでしたが、プロダクトデザインの分野ではこの認識が弱かったと言えます。

五感から伝えられる感情への効果をシステマチックにとらえ、表現の一部としてデザインに組み込む。つまり、デザインにおける「感情効果」をどう設計するかを考える人がCMFデザイナーなのだと言えます。それは単純に、仕上げの加工だけにとどまりません。そのプロダクトを使うことでなんらかの感情の変化が起こり、その人の生活スタイルまで変えていくような、無限の可能性を秘めているんです。

今のお話を聞いていて、パソコンに施したカバーについて思い出しました。私、MacBookを合皮の素材のステッカーでカバーリングしたんです。自宅で作業しているときに、ここだけ「冷たい」かんじがして。仕事で使うモノだけど、子どもがいるリビングでも使うから、どこか温かさを感じるようにしたかったんです。

それはすごくいい視点ですね。CMFデザイナーに聞かせたい話だなぁ。
でも実際、リラックスして仕事できる環境を目指すことがオフィスインテリアの最近の流れだったりもします。なぜなら、そうして得られるクリエイティブなアイデアが、今のビジネス環境においては非常に重要なものだから。淡々と同じことをし続けるだけならAIが代替してくれるようになりますからね。オフィス家具なども従来の無機質なものから、まさに五感に訴えるようなデザインに変化を遂げています。木製の家具や自然を感じさせる素材などが多く用いられるようになってきました。

そう考えると、消費者はCMFデザインの可能性や必要性を本能的に知っているのかもしれないと考えさせられますね。単に色を選ぶのではなく、それが感情に及ぼす影響は大きいんだと。

極論ですが、今はある意味で「みんながデザイナーになっていく時代」なのかもしれません。例えば携帯電話でも、一時期シンプルなデザインのものを買ってラインストーンなどで「デコる」という文化が生まれましたよね。クルマも、カスタムパーツなどの展示会は本家のモーターショーより活気があると言われるほどです。
ただ、日本人はファッションでもプロダクトでもモノトーンを好む傾向が強いですし、色彩に関する学校教育があまり進んでいないので、本当の意味でのCMFの効果を理解している消費者は一部にすぎないのかもしれません。ですから、多くの人がなんとなく感じつつも言語化できなかった部分を構造的に理解し、プロダクトデザインに反映させるのがCMFデザイナーの役割の一つだと感じています。

最近はミニマルな生活がもてはやされる傾向も一部にありますが、色彩感覚は、感情表現につながる重要な要素です。
日本にはもともと多くの色を使った鮮やかな色彩文化があり、四季折々の自然の中の色が私たちの心を豊かに育んできてくれました。昔ながらの木造家屋に入ると、畳があり、土間があり……布を織ったり草木染をしたりと、さまざまな色や素材に自然と触れ合う環境があったのです。

そう言われると、自然素材はCMFの極みですね。木の家では深呼吸したくなるし、畳の上では寝転びたくなる。日本で生まれ育つと、特にそう思うのかもしれませんね。

日本におけるCMFデザイン

ここまでの話で、CMFデザインは意外と身近なものだという気がしてきました。あらためて、この概念が生まれた経緯を教えてください。

「CMFをデザインの一部として体系的にとらえる」という概念そのものは、80年代にイタリアのプロダクトデザイナーであるクリノ・カステリ氏が提唱したとされています。色(カラー)はそれ単体としてあるのではなく、素材や最終的な仕上げと一体であるとし、これらをシステマチックに提示したのです。カステリ氏はインテリアやオフィスデザインなどの分野で日本企業とも仕事をしていますが、CMFの概念自体は欧米での認知がかなり先行していたようですね。

日本において本格的に認知されるようになったのは2000年を過ぎてからで、玉井美由紀氏の活動が契機だと思います。玉井氏は美大を卒業後、自動車メーカーの内装デザイナーを経て2007年にCMFデザインを専門とする会社を設立、この新しい概念を急速に広めた立役者です。
この頃から、自動車をはじめ、携帯電話などの家電製品、オフィスファニチャー、インテリアなど国内の多くの業種でCMFへの取り組みが始まっています。当協会でもCMFに関するコンサルティング業務が随分と増えました。

そうしたCMFデザインの普及活動を通じて、呼称は複数あるものの、いわゆる「CMFデザイナー」も急速に増えましたね。専門の部署やチームを立ち上げるメーカーも増えました。
面白かったのは、一部のテキスタイルデザイナーさんを除いてファッション業界では見向きもされなかったこと。先ほども少し触れましたが、ファッションデザインの世界ではCMFの概念そのものが当たり前すぎて、改めて訴求する必要もなかったんですね。
プロダクトデザインのCMFは「色や質感を作り出していくために、顔料や原材料を知り尽くし、入念に検討する」という「バケ学(化学)」的な側面がより強いものです。計画的に設計しなければ、狙った色の塗料を開発したり、デザイナーの求めに応じた風合いを出すこともできません。以前はそうした情報も多くなかったので、その分ニーズも大きかったのかもしれませんね。結果的に、CMFデザインの概念は家具・家電、モビリティ業界を中心に広がりを見せています。

CMFデザインがメーカーに普及したことによって、消費者に対してはどのような影響があったと思われますか?

全体的に、ユーザーに対する幅広いコーディネイトの提案が進んだと思います。
例えば、一時期、日産自動車はカラーや素材の展開が非常に印象的でした。他にもマツダは独自の色展開そのものを差別化に活用するなど、CMFが五感に訴えかけるものだからこそ、各社がブランディングの一環として取り組んでいることを実感しますね。

これからのモビリティを考える上でCMFは必須になります。例えば先進国を中心に「モビリティサービス」が広がっていますが、レンタカーやシェアカーには「用途に合わせてCMFを最適化させる」ことも求められるようになるでしょう。なぜなら、人々が使うシーンに合わせて乗り物を変えるようになることが予想されるからです。コンセプトを徹底的に尖らせることが付加価値につながり、ユーザーに選ばれるための条件になります。
今、レンタカーやカーシェアリングのウェブサイトを見ても、同じようなクルマが並んでいるだけで悲しい感じですよね……(笑)。でも、キャンプにいく時とお葬式にいく時のクルマに求められることは当たり前だけど、異なります。高級外車に乗って1時間だけカッコつけたいときだってあるでしょう(笑)。それぞれにフィットする色や質感ももちろん違うわけですから、それに応える個性的なクルマがどんどん出てきたら、暮らしはもっと豊かなものになりますよね。

そうした環境の中で、今後CMFデザイナーができること、期待されることは何でしょうか?

デザイナーとしての自信をもっと持って欲しいです。大手メーカーなど、大規模な会社・企業に入ってしまうと組織の中での既成概念に囚われてしまう傾向があります。とくに化学と切り離せないCMFでは、開発の視点がどうしても細部に向かってしまい、いつの間にかユーザーを置き去りにしてしまう。
色を開発するにはお金がかかるのでコスト管理は必須ですが、若い人がそればかり口にするような状況はちょっと残念です。また、あまりにマーケティングばかりに振り回されるのも疑問です。現在と過去の分析も必要ですが、1種類でもいいから未来に向けた新しい色をつくろうという気概を持ってもらえたら嬉しいですね。

そんなCMFデザイナー達の活動に光を当て、後押しをするのが「オートカラーアウォード」。この連載でも追いかけて行きたいと思います。

はい、ありがとうございます。オートカラーアウォードは、今年で22回目を迎えます。もともと、協会内に各メーカーのカラーデザイナーによる組織があり、そこで生まれた、「優れたカラーデザインに賞を与えよう」というアイデアを基に始まりました。当初はデザイナーたちがお互いの仕事をリスペクトする意味合いが強かったのですが、次第にカラーデザインの地位向上を目指すイベントとして規模を拡大し、現在に至ります。
もし興味を持っていただけたら、モビリティ業界の方はもちろん、異業種の方にもぜひ見にきてほしいです。CMFが人の感情を左右するものだからこそ、ターゲットに合わせて設計すると驚くような効果を見せることがあります。

ありがとうございました。

(了)

 
 

CMFデザインの概要を聞く今回のインタビュー。その新しいデザイン概念の定義や意義の一端を垣間見ることができたであろうか? 次回は、同協会が主催した、自動車メーカーのCMFデザイナーによるセミナーの様子をレポートしたい。

※2019年度 オートカラーアウォードについての詳細はこちら

 

 

大澤かほる(おおさわ・かほる)

一般社団法人日本流行色協会 カラークリエイティブディレクター 長野県諏訪市生まれ。東京造形大学彫刻科卒業。就職情報誌営業、市場調査会社を経て現職。市場のカラー戦略、商品のカラーコンセプト作成、先行市場のディレクションカラー選定等のコンサルティングを主に「色ごとすべてお任せ」をモットーに、色彩教育、トレンドセミナー、執筆活動と幅広く活動中。 インターカラー日本代表。

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