老舗の超小型モビリティ、コムス
トヨタ車体のコムスは、日本の超小型EVの中では歴史が古く、知名度も高いほうだろう。初代コムス(エブリデー・コムス)が発売されたのは2000年。
2012年に2代目に生まれ変わり、現在の姿となった。ちなみに前回お届けしたFOMMの鶴巻社長も初代の開発メンバーのひとりだった。
2018年10月には一部改良が実施され、ペダルを踏み間違えた際の注意喚起や坂道での発進可能角度が増えるなど機能がアップしている。
幅約1.1メートルの1人乗りで、最高速度は時速60km。ミニカーとして扱われるため普通自動車免許で乗ることができ、ヘルメットも、車検や車庫証明も必要ない。バッテリーは家庭用コンセントで充電でき、満充電までは約6時間。航続距離は市街地走行で50km程度となっている。
今回は愛知県刈谷市にあるトヨタ車体で開発・営業チームのメンバーに話を伺うとともに、周辺の道路を試乗した。まずは「実際に乗ってみてどうだったか」からお伝えしよう。
クルマと同じ乗車姿勢にびっくり
目の前に用意されたコムスは、セブンイレブンの配達車と同じライムグリーン。だが、断然スタイリッシュに見える。気持ちよく晴れた日に木漏れ日の下で見たため、というのもあるが、それだけではない。配達用車両に付いているボテッとしたボックスがなく、軽やかで開放感があるのだ。
正直、セブンイレブンの配達車両に自分が乗る姿を想像できなかったが、このコムスは「これならアリかも」と思えるデザインだ。
ちなみに今回乗った車両は個人ユースを想定したP・COMというモデル(PはPersonalの略)。セブンイレブンでも使われるビジネスユースを想定した車両はB・COM(BはBusinessの略)と呼ばれ、ボックス仕様のほかデッキタイプなどもある。
自然な姿勢で座れる、ゆとりあるシート
さっそく乗り込んでみて、びっくり。とにかく姿勢が自然でラクなのだ。
以前試乗したBIROやFOMMは、背もたれが立っていて足もとにもあまり余裕がない。だから小さいクルマってそんなもんだろう、と思っていた。
短い移動が中心ならそれでオッケーだし、小型自動車と同列に比べるものではない、と。
だから今回も無意識のうちに覚悟して乗り込んだのだが、コムスは驚くほど自然なポジションがとれる。
足はしっかり前に出せるし、背もたれにも適度に傾斜がついている。
この違いに驚いていたら、開発者の方がコムスのドライビングポジションはヴィッツに準じていると教えてくれた。
どおりで小型車のようなポジションになっているわけだ。
そして気がついた。
これはコムスが1人乗り用に設計されているからこそのメリットだ。
BIROやFOMMは2人乗り。横に2人並んで運転する。車体を小型にするためには、できるだけ前に詰めて座らせる必要がある。すると、乗員の足元はどうしても左右の前輪と重なってしまう。
前輪は曲がるために左右に回転するから、必要なスペースも大きい。ということで、どうしても足元は狭くなり、直立気味の姿勢になる。
コンパクトカーでさえ運転席の足元空間が足りずペダルが左に寄っているクルマがあるくらいだ。幅1メートルちょっとの超小型EVが2人分の足元空間を確保するのは不可能に近い。
ところがコムスはセンターに1人乗ればいいから、運転する人の足はちょうど左右前輪の間に収められる。おかげで快適な運転姿勢を保つことができるのだ。
慣れた姿勢で運転できるだけではない。ペダルの形やウインカーといった操作系も一般的なコンパクトカーに近く、初めて乗るにも関わらず、変に緊張することなく安心して運転できた。
このあたりは乗用車を生産しているトヨタグループの強みなのかもしれない。
肝心の走行性能は?
パーキングブレーキを解除してフットブレーキを離すと、そろそろとクルマが動き出す。
走り出してもやはり違和感は感じない。
敷地から公道に出てみる。アクセルペダルを踏み込むと、ぐんっと背中が押されるように加速する。流れている道路に合流するときも不安はなかった。思った以上に安心して街中を走ることができる。
また、滑らかな乗り心地にも驚かされた。
路面の凹凸を通過してもガタガタと振動が伝わってくることがなく、普通の乗用車のようだ。
当日は気持ちの良い秋晴れ。オプションで設定されている左右の幌タイプのドアを取り外していたこともあり、爽快感は抜群だ。気持ちよく風が吹き抜ける。海沿いの道や見晴らしの良い山道など、景色が良いところを走ったら楽しいだろうと思う。
ただ遠出するには50kmという航続距離が若干、心もとないのだが…。
バイクの爽快感とクルマの安心感
コムスに乗ってみた感想、それは「楽しい!」ということ。
「超小型モビリティ」とひとくくりに捉えていたが、前席に2人が並ぶBIROやFOMMとはまったく違った感覚だった。
正直コムスに乗ってみるまでは、法律さえクリアできるなら2人乗りのほうがいいに決まってる、と漠然と思っていた。その方が利便性も高いし、利用用途も広がるだろう、と。
だがコムスに乗ってみて「頭で考えて思いつく超小型モビリティを使う理由」を超越した「楽しさ」を感じたことに自分でも驚いた。
センター1人乗りの運転席では自分の手足のように車体を動かす感覚を味わえる。サイズが小さいからすべてが自分の手の内にあり「自分だけの乗り物」という感覚も満喫できる。実用性が高いのはもちろんだが、もっと趣味的な乗り物としても楽しめるんじゃないかと感じた。
開発者の方々は「バイクの爽快感とクルマの安心感を目指した」と語っていた(詳しくは後編で!)。その表現通りの楽しさがあった。
後編では開発メンバーの方々へのインタビューをお届けする。コムスの開発エピソードやデザインの秘密など、「濃い」話をたっぷり聞くことができたので、お楽しみに!
(後編)超小型EVコムスはデザイン・設計・営業が一体で生み出した「新しい乗り物」だった!