アメリカ文化に浸り、ひたすらデザインに向き合う1ヶ月。
10年前に始まった若手カーデザイナーのための体験型ワークショップ・プログラム
デザイナーにとって、異文化への理解を深め徹底的にインプットとアウトプットを行う体験は大きな財産となる。ましてやそれが、世界のユーザーを相手に自動車をデザインする自動車メーカーのデザイナーであれば「必須課題」とも言える。
巨大な自動車マーケットの一つであるアメリカ。アメリカの自動車ユーザーの感覚を肌で感じ、同世代のデザイナー達とともにデザインアウトプットも行う自動車企業向け研修プログラムがある。
それが、「Cultural Immersion Workshop(CIW、文化体験型ワークショップ)」だ。以前TDでも報告会のレポートをお届けした。このワークショップが米・デトロイトのデザイン学校「The College for Creative Studies(CCS)」によって初めて開催されてから、今年で10周年となった。その節目を記念して、5月19日、虎ノ門のThe Gallery Tooで「CIW 10周年記念講演&パーティー」が、CCSおよび株式会社トゥールズインターナショナルの共催により実施された。
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雑誌『CAR STYLING』初代編集長・藤本彰氏が見たCIWの魅力
今回、イベントの様子をオブザーバーの一人である藤本彰氏がレポートしてくれたので、同氏の寄稿を引用しながらお伝えしたい。
ブライアン教授「アメリカン・トラックの歴史と文化」を語る
当日はCCS・トランスポーテーションデザイン学科教授のブライアン・ベイカー氏、同じくCCS教授でありワークショップのリーダーを務めてきた伊藤邦久氏がパネラーとして登壇。そして、このワークショップを体験した31名のデザイナーたちの中から数名が感想を述べた。またオブザーバーとしてJIDA副理事長の御園秀一氏ら業界関係者複数名が参加した。
伊藤教授によれば「2008年からスタートしたこのプログラムは直後にリーマンショックの影響で3年間中止し、2012年から再開したので実質7年間の活動になる。これまで参加者はおよそ100名。日本からの参加者が多いが、昨今は中国企業からの参加も増えており、現在30%を占める」という。
過去7回のワークショップの内容が伊藤教授から紹介されると、次は参加者による振り返り。最後にブライアン・ベイカー教授による「アメリカン・トラックの歴史と文化」と題する講演があった。ピックアップトラックの発達史とこれを愛するアメリカ人の生活文化の一端が豊富な映像と共に熱く語られ、聴衆を魅了した。彼も講師としてワークショップに参加し、参加者からは「ブライアン、ブライアン」と親しまれていたようである。
短期集中研修で効果絶大
CCSとともにこのイベントを主催したトゥールズインターナショナルの下倉健太郎社長によれば「CCSのプロジェクトは私共が掲げている人材育成プログラムの理念とも合致するので、カーデザイン業界に貢献できればと考え、今回の記念イベントをオファーした」という。
若いカーデザイナーたちを対象としたこのプログラムは、伊藤教授が中心になって2008年から続けてきた。CCSで数十年間にわたって優れた人材を輩出してきた教育方法の一端とアメリカ自動車文化を次世代に体感してもらうことが狙いだ。
このプログラムは4週間の短期集中プログラムで、屋外でのリサーチ研修とスタジオ内のデザイン制作活動で構成されている。ほぼ2000kmにおよぶバス旅行はこのワークショップの特徴でインディアナポリス500マイルレースをはじめ各地の様々なイヴェントに参加し、自動車や航空機の博物館を見学できるのも魅力の一つだ。授業料、教材費、滞在費を含めると一人当たり125万円(往復の航空券は別)ほどかかるが、1年間の派遣留学費に比べるとはるかに効率がよく企業からも歓迎されている。参加者にとっては、初めての体験学習であり、強烈な印象を持ち帰り、英会話にも慣れるという利点もある。
2018年ワークショップは7月に予定されており、申し込みは6月末まで。 (藤本彰)
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熱気に包まれた祝賀パーティー
講演会終了後は虎ノ門ヒルズのレストランで祝賀パーティーが開催された。
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また、この日はゲストとして日本への一時帰国中だった児玉英雄(こだま・ひでお)氏、服部幹(はっとり・みき)氏も会場を訪れ、若手カーデザイナーたちにエールを送った。
児玉氏は大学卒業後に単身でドイツに渡り、オペル社で約40年間カーデザインを手がけ、数々の名車を手がけた伝説的な人物。
服部氏はアートセンター卒業後にオペルで7年間を過ごし、トリノのカロッツェリア、スティーレ・ベルトーネに移籍。現在は日本でデザイナーとして活動しつつ、武蔵野美術大学でも講師として次世代の育成に取り組んでいる。
なんと児玉氏と服部氏、そしてブライアン教授はかつて、オペルでデザイナーとして一緒に働いていたそう。そのことから今回のサプライズ参加が実現した。
日暮れ前に始まった宴だったが、夜が更けても会場は熱気に包まれていた。解散の挨拶の後も参加者が一人ひとり、充実した顔で会場を後にしていたのが印象的だった。
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就職活動中に生まれる「同期の絆」についてはよく語られるが、就職後に同世代のデザイナーと企業を越えて繋がることは思いのほか難しいものだ。かつてワークショップをともにした同期や担当教官。その面々が一堂に会したことで、お互いの刺激になっただけでなく、ここからまた新しい何かが生まれるような、そんな期待すら感じる夜であった。
2018年度のワークショップは7月19日〜8月19日に予定されている。申し込みは6月末までなので、気になる人は今すぐCCSのウェブサイトをチェックすべし。
<写真>古庄速人・トゥールズインターナショナル