子ども・子育て向けデザインを業界横断で考えるキッズデザイン協議会
キッズデザイン協議会という団体を聞いたことがあるだろうか。筆者は以前にもこの記事で同協議会を取り上げた。
子ども・子育て向け製品の開発や分析、研究などを企業・団体・自治体が横断でサポートするNPO法人であり、2006年に任意団体として発足してから活動の幅を広げている。
同協議会の主な取り組みのひとつが、子どもや子育て関連の製品、建築・空間、サービス、活動、研究などを対象にデザインを評価する「キッズデザイン賞」だ。
毎年実施され、今年で14回目を迎える。2020年9月30日(水)、2020年の受賞作品の発表と優秀作品への授賞式が、六本木ヒルズの「アカデミーヒルズ49」(東京・港区)にて行われた。
今回は、5歳児を育てる筆者が今年の受賞作品のなかから「⼦どもたちの創造性と未来を拓くデザイン」のカテゴリに焦点を当て、いち消費者の視点から考えていく。
3つのカテゴリーで優秀作品が選ばれるキッズデザイン賞
キッズデザイン協議会の発表によると、今年の応募数は390点で、うち237点がキッズデザイン賞を受賞した。カテゴリーは3つで、「⼦どもたちの安全・安⼼に貢献するデザイン」(受賞数55点)、「⼦どもたちの創造性と未来を拓くデザイン」(受賞数99点)、そして「⼦どもたちを産み育てやすいデザイン」(受賞数83点)。
協議会広報の濱田あかねさんによると、今年の傾向としては「『⼦どもたちを産み育てやすいデザイン』の応募が昨年までと比較して多かった」とのこと。このカテゴリーでは⼦どもや⼦育てに関わる⼈々にメリットをもたらす製品や空間、サービスなどが受賞する。また、募集期間がちょうど3月中旬から5月中旬と、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う緊急事態宣言の時期に重なり、室内空間での利用を意識したプレゼンテーションもみられたという。
(撮影:木田勝久)
「コト」デザインの多さが印象的だった
筆者は、3つのカテゴリーの中でも特に「⼦どもたちの創造性と未来を拓くデザイン」に注目した。このカテゴリーでは、⼦どもの創造性や感性に寄与する製品、建築・空間、サービス、活動、研究などが取り上げられるという。審査の基準は、⼦どもの創造性・感性の育成、多様な知識の習得や運動能⼒の向上に役⽴つものであるかどうか。そこに新たな発想、⼯夫、⼿法があるかどうかも評価対象だ。
他の2つのカテゴリー(「安全・安心に貢献するデザイン」と「産み育てやすいデザイン」)では、保育士や保護者など、大人が直接的な利用者であることが多い。これらももちろん子どもを取り巻くデザインの力を評価する上では重要な視点だが、筆者はどちらかというとデザインによって子ども達の行動や考え方・学び方にどのような変化が起きるのかに興味があった。
適切にデザインされたプロダクトは、利用者の行動を変化させる。高揚感やモチベーションを与えたり、「もっとやってみたい」「やり続けたい」と思わせたり。大人もそうなのだから、子どもでも同じような(あるいはより大きな)影響を受けるはずだ。そんなデザインとの出会いがあるといいな、と思いながら、このカテゴリーの作品を眺めた。
「創造性と未来を拓くデザイン」の優秀作品を見てみると、まず印象的だったのが「コト」デザインの多さだった。
今年は優秀賞・奨励賞の11作品中8作品がワークショップなどを中心とした体験型コンテンツおよび空間デザインだった。「モノ」として出品された3作品も、福岡市科学館季刊誌の『マンモス展読み解きプログラムブック』、クックパッド社の『おりょうりえほん』と続き、意匠的な意味でのデザインだけではなく、企画のコンセプトや取り組みそのものが評価されたと受け取ることもできる。
どこまでをデザインの領域とするか線引きはかなり難しいが、ストレートに「モノで創造性や感性に寄与する」作品は『かなカナ』という知育玩具のみだった。同じように、特別賞以外の受賞作品を見るとコミュニケーションデザインやソーシャルデザインについて評価されたものが多い印象を受けた。
「モノからコトへ」の流れはここ数年顕著で、それ自体はキッズデザイン賞の意義や背景を考えても自然なことだ。もちろんコンセプトやアプローチに注目が寄せられることは意義深いが、筆者としてはこの結果には少々物足りなさを感じてしまった。
また、同カテゴリーの優秀作品のなかに、アプリやゲームなどのデジタルコンテンツがないことにも少し違和感があった(受賞作品の中にはいくつかある)。
今やApp Storeにはキッズ向けの教育・知育アプリが山ほど並んでいるし、タブレット教育が定着しつつあることを鑑みると、もっと様々な作品が選出されてもいいのに、と思う。
個人的には、優秀作品にノミネートされなかった受賞作品の方に親近感ととっつきやすさを覚えた。
例えば、コクヨ社の『しゅくだいやる気ペン』。「鉛筆に取り付け、専用のスマートフォンアプリと連動させることで、勉強への取り組みを分析し、日々の努力を“見える化”するIoT文具」だという。それから、フレーベル館のあそびが見つかるアプリ『ASOPPA!』。他にも『Wacom One 液晶ペンタブレット 13』やAmazonの『Kindle キッズモデル』など、子ども向けに配慮されたタブレット端末なども、より詳しく商品情報を見てみたいと感じた。
『Wacom One 液晶ペンタブレット 13』(左下)、『Kindle キッズモデル』(右下)
「モノ」は近くてわかりやすい
消費者視点で考えたとき、子どもを持つ親がキッズデザイン賞に期待するのは「(うちの子にも)試してみたい!」と思えるモノやコトとの出会いだ。考え抜かれた園舎の空間デザインや、子どもたちが楽しみながら学べるワークショップのコンセプトも素晴らしいが、気軽に試せるものではない。幼稚園を転園させるわけにはいかないし、ワークショップの参加にもいくつかの障壁がある。
一方、モノはわかりやすい。とりあえず販売サイトをみてみようかな、という気になり、キッズデザイン賞をより身近に感じられる。
一般消費者に認知され、信頼を獲得していくことで、より一層この賞の価値を高められるだろう。
テーマが子どもにかかわることなのだからなおさら、業界内でのみ話題になる賞に留めてしまってはもったいない。デザインのあれこれを語ることはできなくとも、子ども・子育て向け商品やサービスについて語りたいという人はたくさんいるはずだ。
「今年の流行語大賞、見た?」という話題と同じようなノリで「今年のキッズデザイン賞、見た?」という会話が家庭や公園で聞こえてくるようになることを期待したい。そこまでいけば、開発担当者も達成感を持てるはずだ。そしてキッズデザイン賞にはそれだけのポテンシャルがあると思う。
多くの親たちが通販サイトの「キッズ用品ランキング」を見つめるのと同じように、キッズデザイン賞のデータベースを参考に買い物をするような日がくれば、それこそキッズデザイン賞が社会に広がった証だ。
他薦枠、消費者リサーチ枠、海外製品枠も設けては
「そうはいっても、そんなに毎年優れたプロダクトが開発されるわけではない」。
そんな声が聞こえてきそうだ。
この問題の解決策として、2つ提案したい。
一つは他薦枠や消費者リサーチによるノミネート枠の新設だ。応募数の維持につながり、賞自体にもさらに広がりが生まれると思う。
現在のキッズデザイン賞は自薦式で、企業側がエントリーしなければ作品がノミネートされることはない。また、審査料がかかるため、それがネックとなって応募しない企業も多いだろう(注・「調査・研究」カテゴリでのノミネートの場合、審査料は免除される。条件に該当する企業は東京都から助成金を受けられるが、その労力をかけてまで応募するメリットをいまいち訴求しきれていない)。
親や保育関係者の声を反映することで、賞自体の納得感や話題性はもっと増していくだろう。新作だけではなく、古くから使い続けられてきた「老舗プロダクト」が改めて脚光を浴びることもあるかもしれない。
キッズデザイン協議会では、昨今TwitterやYoutubeをはじめとするSNSの運用にも力を入れ始めており、市場の声に対する公聴の姿勢も見せている。利用者と企業の橋渡し役としても機能するようになれば、同協議会の影響力は更に高まっていくだろう。
もう一つは、海外製品のエントリーの積極的な受け入れである。
以前の記事でも触れたが、社会的な視点で業界を横断してキッズデザインを検討する取り組みは諸外国を見てもあまり例がなく、日本が先行しているとのこと。「日本のものづくり」を海外に発信する上でも、海外に向けて本賞をアピールできればより一層、存在感が際立つはずだ。
キッズデザイン協議会が体系づけた「子ども・子育て向けプロダクトを評価する視点」はオリジナルで、価値がある。ちなみに今回は取り上げなかったが、「モノ」「コト」に並んで子ども向けの「空間デザイン」にもまだまだ広がりと可能性がありそうだ。だからこそ、マークを与えるだけの褒賞イベントで終わらせず、同協議会には市場の声を聞くオープンさと、よりアグレッシブな次の展開を期待したい。
参考:キッズデザインデザイン賞 受賞作品検索サイト