【design surf 2017】欧文書体のスペシャリストが語るフォントが持つチカラ

Dec 06,2017report

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【design surf 2017】欧文書体のスペシャリストが語る フォントが持つチカラ

文:
TD編集部

皆さんは、公共の場で使われているフォントに注目したことはありますか? 2017年10月13日(金)に、クリエイティブ市場の総合商社・株式会社Tooの主催で開催されたセミナーイベント「design surf seminar 2017 −デザインの向こう側にあるもの− 」。
今回はこのセミナーから「公共サインのフォント、世界の潮流とこれからの日本の課題」のレポートをお届けします。登壇したのは世界的に有名なフォントメーカー「Monotype」のフォントデザイナー、小林章氏。欧文フォントのデザイナーとして数々のプロジェクトに携わる同氏には、日本の公共サインはどのように見えているのでしょうか。

29歳まで日本から出たことがなかった、欧文書体のスペシャリスト。

今回のセミナー登壇者、小林章氏は、世界有数のフォントメーカー、Monotype(モノタイプ)の書体デザイナー。2001年からドイツで仕事しており、欧文書体を中心に制作やディレクションなどを手がけています。世界的な書体デザイナー、ヘルマン・ツァップ氏やアドリアン・フルティガー氏とも共同で書体を開発している小林氏ですが、「そもそも、書体デザイナーってなに? どんなことしているの?」という質問をフォントやデザインについての知識をあまり持っていない家族・親戚から受けるといいます。

そんな背景があるからか、小林氏はセミナーの最初に「ただ単に欧文書体のデザインをしているという説明では、私が何をしているのか伝わらないと思うので、まずはタイプデザイナーの私がどんなことをしているのか、事例をお見せしながら説明しましょう」と自身が手がけてきた書体について説明しました。

まずはパナソニックから注文を受けて作成したPanasonic Wonders! キャンペーン用書体。
「当初はもともとあるモデルの手直しで進めていましたが、途中から共同でつくる方針に変更しました」(小林氏)
続いて出てきたのはソニーのSSTという書体。こちらは、小林氏とソニーのアートディレクターが一緒に制作し、現在も多くの製品に使用されているとのこと。またフォント自体も発売されているので購入して使用することも可能なのだとか。

「SST は1つのファミリーで17書体のバリエーションを作りました。ファミリーとは、線の細いものから太いものまで、ウェイトを揃えたものになります。また、ソニーのような世界的な企業だと、アラビア語やタイ語、ギリシャ語などはどうする? ということになりますよね。ラテン・アルファベットでない文字は、その言語の文字のスペシャリストたちと一緒に制作します。その際、自分はディレクション役として最終的な取りまとめを行います」(小林氏)

次のスライドでは、ドイツのスーパーマーケット「Penny(ペニー)」の広告チラシが表示されました。赤の下地に白地の文字がくっきりとデザインされています。ロゴマークで使用している書体は別の人が作成したものですが、それ以外はすべて小林氏が手がけた書体が使われているそうです。

「Pennyの場合はイチからオリジナルで作る方法ではなく、自分が作ったAkkoをモディファイして作成しました。企業によっては、このように既存フォントをモディファイし、個性を表現するということも多いです」(小林氏)

ちなみにこの日、小林さんが着ているTシャツにもAkkoが使用されていました。

小さいスペースの中で使われても読みやすいように設計したというこのフォント。Pennyの店頭に並ぶ缶などのパッケージ上の成分表示部分にも使用され、人々に読みやすさを提供し続けています。
小林氏が手がけた書体はスーパーや本屋以外にも、国内外の看板や駅の標識に使用されているので「知らず知らずのうちに、今まで目にしてきた人は多いかもしれない」と笑いながら語りました。

このように数多くの欧文書体をデザインしている小林氏ですが「たまたま欧文書体のスペシャリストになっただけ。バイリンガルでもないし、実は29歳まで日本から出たこともなかった」と言います。

「よく周りから、日本人なのになぜ欧文書体のプロになれたの? と聞かれるのですが、別に国籍は関係ないと思うんです。日本人だから無理だと諦めるのではなく、私は、そんなことない、なんとなくできるんじゃないかとずっと思ってやってきました。そうしたら、こつこつとデザインしていた本文用書体Cliffordが本文用部門でグランプリを受賞したんです。これが欧文書体の道に進むきっかけでした。日本人だからって悩む必要はないし、そんなことは関係ないんです」(小林氏)

世界中のサインで使われる、読みやすい書体とは?

続けて「読みやすさ・可読性とはなんだろうか?」と会場に投げかけ、公共サインのフォントについての解説がスタートしました。
まず例として挙げられたのは、Monotypeで扱っている書体の中でも有名なHelveticaFrutigerという書体。

「この2つを比べてみましょう。大きな違いはありませんね。どっちも同じじゃん、と思うかもしれませんが、これらがサインに使われて、条件が悪い時……例えば、天気が悪い・薄暮れどき・見る人の視力が良くない・急いで走りながら見る時はどうでしょうか? では、この2つの書体をぼかして見てみましょう」(小林氏)

スライドに映っていた2つの書体がぼかされると、Helveticaの方は読めなくなりましたが、Frutigerはまだ読めるくらいの印象になりました。

サインで使うフォントは、悪条件下での見え方に差が出てきます。正面からはっきりと見えている時はどちらも同じに見えるかもしれませんが、条件の悪い中で見るとHelveticaよりFrutigerの方が読みやすい。
例えば数字の3。Frutigerは巻き込みの部分が少なく、口が開いている。小文字eも顎が閉じそうにならず開いている。こういった設計がサインでの読みやすさに繋がります。Frutigerはヨーロッパを中心として広く使われ始めています。スイスやオランダ、アメリカでも使われていますよ」(小林氏)

欧米以外でも、上海空港や羽田空港、日本の駅・新幹線のプラットホームの番線の表示にもFrutigerが使用されているとのこと。ちなみに小林氏は2003年から製作者のアドリアン・フルティガー氏と共同でFrutigerのリニューアルプロジェクトを手がけ、2009年にNeue Frutigerをリリースしています。Neue Frutigerは、成田空港第3ターミナルで全面的に使われています。
「旧タイプのFrutigerもきれいですが、Neue Frutigerはさらに、曲線がとてもきれいです。実はこの頃、フルティガーさんは老人ホームに入られていたのですが、それでもこの仕事をやりたいとおっしゃってくれて。老人ホームのカフェで打ち合わせなどを行い、作り上げました」(小林氏)

海外の人にとって読みにくい、日本にあるサインの問題とは?

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