【試乗レポ】世界で急速に普及する電動キックスクーター、Limeを独・ベルリンで体験!

Nov 12,2019report

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Nov12,2019

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【試乗レポ】世界で急速に普及する電動キックスクーター、 Limeを独・ベルリンで体験!

文:
TD編集部 出雲井 亨

米国・ヨーロッパなどで急速に普及する電動キックスクーター。先日ドイツのベルリンを訪れたら、街のいたるところに置いてあった。ラストワンマイルのモビリティを取材している者として、これは試さないわけにはいかない。1週間たっぷりと使ったので、その体験レポートをお届けする。

電動キックスクーターでベルリンの街を駆け抜ける!

世界中で急速に普及している電動キックスクーター。ドイツ・ベルリンの街にもいたるところに置いてあった。ただ実際に乗っている人はちらほら見かける程度で、「意外に少ないな」という印象だ。調べてみると、ドイツで電動キックスクーターが合法化されたのは2019年5月のこと。当地でもまだまだ目新しい存在のようだ。そうと分かると新しいもの好きの血が騒ぐ。
僕がベルリンを訪れたのは2019年9月、以前の記事で紹介したIFA 2019のためだ。10日の滞在中、通勤や食事、買いものなど、街中を移動するときに電動キックスクーターのシェアリングサービスを思い切り使い倒してみた。そこで便利さや課題などが見えてきたので、レポートをお届けする。

自転車やバイクと同じように歩道にとめられている電動キックスクーター

行動範囲を大きく広げてくれる

さて、まずベルリン市内の交通事情だが、電車(Sバーン)、地下鉄(Uバーン)、バス、トラム(路面電車)といった公共交通機関が発達しているため、日本の都市と同様にどこへいくにも公共交通機関と徒歩でこと足りる。電車やバスはすべて同じチケットで乗ることができ、チケットはスマホで買えるのでかなり手軽に利用できる。

そんな交通事情で、電動キックスクーターはどんなときに役立ったかというと、まずホテルから駅までの移動だ。僕が泊まったホテルから最寄り駅までは1km弱、徒歩10分程度。朝は気持ちよく歩けるのだが、取材で疲れた帰り道はついラクをしたくなる。そんなとき電動キックスクーターを使えば楽しく3分走るだけでホテルの目の前に着く。ということで、ほぼ毎日使ってしまった。

さらに便利さを実感したのがショッピングのとき。「中国発の日本ブランド?」と話題のメイソウのショップをみたい、ついでにデカトロンもいきたい、ベルリン名物アンペルマンのショップも行きたい、などと欲張ってみたら、電車で2駅分くらいの広い範囲を移動する羽目に。歩いたら1時間くらいかかるコースだ。しかもドイツには「閉店法」という法律があり、多くの店が午後8時には店じまいするから、のんびりしていられない。限られた時間の中で行きたい場所を効率的に巡るときに、電動キックスクーターは本当に便利だった。お目当ての店の前に乗り捨てて、しばらくショッピングを楽しんだ後、また近くの電動キックスクーターを見つけて次の場所へ。
アンロック(解錠)するたびに1ユーロかかるため、何度も乗り降りしていると結構いいお値段になってしまう。だが限られた時間を有効に活用したい旅行者にとっては、許容範囲だと思う。

ベルリンの壁の前にずらりと並ぶLimeの電動キックスクーター

僕がもっぱら利用したのは米サンフランシスコに本拠を置くLimeだ。単に街中で一番目についたという理由だ。乗りたいときに乗れるのが重要で、空いている電動キックスクーターを探して何分も歩くのでは意味が無い。だから台数が重要なのだ。

街を走るのが楽しい!

利用方法はシンプルで分かりやすい。その流れを紹介しよう。
事前準備として、まずスマホアプリをダウンロードしてクレジットカードを登録する。料金はすべてアプリ経由で請求される。登録が終わったら準備完了だ。
乗りたいときは街中に置いてあるLimeスクーター(以下スクーター)を探す。アプリを開けば、地図上に近くのスクーターの位置が表示される。スクーターを見つけたら、近づいてバッテリー残量をチェック。残量はハンドル中央の画面上に表示されている。たまに40%を切るものも見かけたが、大抵70%以上残っていた。5分から10分程度なら、50%も残っていればOKだろう。

ディスプレイの左にあるQRコードをスマホで読み取って解錠する

乗るスクーターを決めたら、アプリを起動してハンドルについているQRコードをスマホのカメラでスキャンする。5秒くらい待つと、Limeスクーターがアンロック(解錠)されてポーンと音が鳴り、画面が速度表示に切り替わる。
こうなったら、あとは走るだけ。ハンドルの右側に付いている黒いレバーがアクセルレバー、左側はブレーキだ。乗り方にはちょっとコツがある。アクセルレバーをぐいっと押し込んでも走り出さない。はじめは自分の足で一蹴りが必要なのだ。スクーターが動き始めてからレバーを押し込めば、ぐんとモーターの力で前に押し出される。

一般的な(人力の)キックスクーターと比べて、明らかに車体は頑丈でタイヤも大きいので、安定感がある。とはいえ自転車ほどの安定感はなく、片手を離すとふらついてしまうので、常に両手でハンドルを握っている必要はある。

赤いところが自転車専用レーン。うっかりここを歩いていると盛大にベルを鳴らされる
最高時速は約20kmで、実際は18-19km/hあたりをウロウロしていることが多かった。気持ちよく流す自転車くらいの速度感で、遅くはないが恐怖を感じるほど速くもない。ベルリンは自転車専用レーンが整備されている場所が多く、自転車にまじって気持ちよく走れる。専用レーンがないときは車道を走るのだが、基本的に道幅が広く交通量が少ないため、快適に走れる。ただ一度だけ大通りを走ったときは隣をビュンビュンとクルマが走り抜けていき、ちょっと緊張した。
前後にライトがついているので、夜道でもOKだ。とはいえ、あまり明るいライトではないので、交通量が多い道路は避けた方が無難だろう。また夜は路面が見にくい。一度、かなり粗い石畳に迷い込んでしまい、そのときは頭痛がするほどの振動に見舞われ閉口した。
目的地に着いたら、歩道のはじにスクーターをとめてアプリの「Lock」ボタンを押せば乗車完了。遠隔操作でスクーターが施錠され、料金が精算される。通行の邪魔にならない場所ならどこに置いてもOKなので、ホテルや店舗、レストランの目の前まで乗っていける。道も歩道も広いベルリンだからこそできることだ。
前後にライトがついているので夜も走れるが、安全には注意
こんな感じで駐車してアプリでロックすれば完了

充電や整備は夜間に行われているようで、夜ホテル前に乗り捨てたスクーターが、朝になるとフル充電されて駅前にきちんと整列されていた。低速とはいえ、命を預ける乗りものだけに、きちんとメンテナンスされている様子が見えるのは安心だ。

旅先にあれば、積極的に使いたい

Limeの利用料は、アンロック(解錠)をするたびに1ユーロ。さらに利用時間に応じて料金がかかる。5分の移動(走行距離は0.9km)で2ユーロ(237円)、10分の移動(走行距離は1.3km)で3ユーロ(353円)だった。日本円は実際に僕のカードにチャージされた額。価格には19%(!)の消費税が含まれている。

アプリに走ったルートと距離、時間、料金が表示される(1枚目・2枚目)。Limeアプリを見れば、近くのスクーターの場所とバッテリー残量もわかる(3枚目)。

どうだろう。高いと思うだろうか。僕は十分納得できる金額だと感じた。徒歩の半分の時間で、汗ひとつかかずに目的地に到着できる。移動範囲が大きく広がり、徒歩では諦めてしまう距離でも気軽に足を伸ばせることを考えれば、このくらいの金額は惜しくない。もし旅先の街にこれがあれば、今後も積極的に使いたいと思った。
では、もし東京にあったらどうだろうか。都心部なら、ぜひ使いたい。都内だと、電車に乗るより歩いてしまった方が早いかも、というような微妙なケースが結構ある。例えば六本木ヒルズから表参道駅まで、電車で行くと青山一丁目経由で約15分かかり、歩くと20分程度だ。こんなとき電動キックスクーターなら10分で到着できる。

これだけの台数を置ける歩道は、東京にはなかなかなさそう

ただ現実問題として、東京では歩道も車道も狭く、街中に気軽に置いておけるようなスペースが少ないため、とてもベルリンと同じような運用はできないだろう。1週間使ってみて思ったが、電動キックスクーターは使いたいときにすぐそばにあってこそ、その機動力が発揮される。なにしろ1回の移動時間が数分、距離が1-2kmなのだ。乗るために5分も10分も歩くくらいなら、目的地まで歩いた方が早いじゃん、となってしまう。
一方、国内でも郊外や地方都市など、スペースに余裕があるエリアに目を向ければ、とても快適で便利な存在になるだろう。実際、さまざまな企業が地方自治体と組んで実証試験をスタートしている。
Limeと同じく米大手のByrdは2019年8月、9月に福岡で実証実験を実施。ドイツ・ベルリンを拠点とするWind Mobility Japanは浦和美園駅周辺や海浜幕張駅周辺、千葉市動物公園内などで実証実験を開始している。多摩市や浜松市など複数の自治体との連携を発表した国産ベンチャー・Luupの今後も興味深い。同社は電動キックスクーターのほかに、高齢者の利用を想定した三輪、四輪のモデルも用意しているのが特徴だ。

またドイツでは、AudiBMWフォルクスワーゲンといった自動車メーカーも、それぞれ電動キックスクーターを発表している。こちらはクルマに積んだり、電車やバスなどの公共交通機関と組み合わせて、駐車場や駅・バス停から目的地までのラストワンマイルに使う想定のようだ。

海外で急速に普及している電動キックスクーターは、1週間乗り倒してみた結果、やっぱりすごく便利だった。安全面や法規制などまだまだ課題もあるが、自転車よりも手軽に乗れ、近距離を移動する手段としてはとても優秀だ。日本でもどんどん普及してほしい。

 

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