【試乗レポ】バイクでもキックスクーターでもない。 glafitの新立ち乗りモビリティ、LOMに期待すること

Jul 17,2020report

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Jul17,2020

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【試乗レポ】バイクでもキックスクーターでもない。 glafitの新立ち乗りモビリティ、LOMに期待すること

文:
TD編集部 出雲井 亨

2020年5月28日、glafitが同社2つ目の製品となる「X-SCOOTER LOM」を発表、Makuake(マクアケ)でクラウドファンディングを開始した。電動キックスクーターのようだが、よく見るとこれまでにないユニークな形をしているLOM。一体どんな乗りものなのか。プロトタイプに試乗した。

「なんか、ヘンテコな乗りものが出てきたぞ」

「ヘンテコな乗りもの」。これが、2020年のCES(世界最大級のデジタル技術見本市)で発表されたglafitの新製品「X-SCOOTER LOM(以下LOM)」をはじめて見たときの正直な感想だった。ベルリンでLimeの電動キックスクーターを体験し、東京モーターショーでトリタウンの楽しさに驚き、その勢いでWINDのサブスクにも申し込んでいた僕は、すっかり電動キックスクーターにハマっていた。そんな中、僕の目に飛び込んできたLOMは、かなり違和感のある形をしていた。

glafitの電動立ち乗りスクーター、XSCOOTER LOM

何しろ、まず前後のタイヤサイズが違う。まるで昔の自転車のように前輪が大きく、後輪は控えめだ。前後タイヤの間隔は短く、自転車のようなフレームでつながれている。平らなステップ部を持つ、従来の電動キックスクーターのイメージとはまったく違うのだ。LOMはCESで発表された後、2020年2月に米クラウドファンディングサイトのKickstarterで資金調達を開始。「一体、このユニークな乗りものは受け入れられるのだろうか」と期待と不安が入り交じった気持ちで見守っていた。
ところが新型コロナウイルスの世界的な流行により、状況は一変。製造に必要な部材の調達や物流の見通しが立たなくなり、2020年3月にglafitはクラウドファンディングの中止を余儀なくされた。 

それから2カ月余りが過ぎた5月28日。glafitは日本国内向けにクラウドファンディングサイトのMakuakeでプロジェクトを立ち上げた。Makuakeといえば、glafitが2017年に最初の製品としてハイブリッドバイクの「GFR-01」を発表し、1億2000万円以上を集める大ヒットとなった、同社にとってなじみ深い場所だ。

LOMのプロジェクトは、開始1週間で6千万円を突破。7月にはプロジェクト終了まで約50日を残して1億円の大台を突破する快挙を成し遂げた。
GFR-01の実績があるとはいえ、電動立ち乗りモビリティという、ほとんどの人にとって未体験の乗りものにここまでの反響があるとは、glafit自身も予想しなかったのではないか。近場を自由に移動できるマイクロモビリティに対する人々の期待の大きさを実感するできごとだ。

2020年7月17日時点。再出発となったMakuakeで、再び1億円以上の調達に成功

さて、クラウドファンディング開始翌日の5月29日、そんなLOMのプロトタイプに都内で試乗し、以前にもインタビューしたglafit社の鳴海禎造社長に話を聞く機会を得た。LOMとは一体どんな乗りものなのかをレポートする。

頑丈なフレームと大きなタイヤの安心感

写真では何度も見ていたLOMだが、実物を目の前で見てみると思ったよりコンパクトだった。写真を見たときの違和感は、実物を見るとまったく感じることはなく、むしろ頑丈そうなフレームや、前12インチ、後ろ10インチというタイヤサイズに頼もしさを覚えた。自分の命を預けて走る乗りものだけに、がっちりした骨格が見えるデザインは安心感がある。

フレームをまたいで乗るスタイルが新鮮

LOMは日本の道路交通法上、50cc以下のスクーターと同じ「第一種原動機付自転車」となる。乗車時は運転免許とヘルメットが必要だ。歩道はもちろん、自転車レーンも走行できない。

ヘルメットをかぶり、バッテリーとフレームをまたいで片足をステップに乗せてみる。足を置くスペースは広くはないが、スケートボード用のデッキテープが貼られていて滑りにくく、足を踏み外すことはないだろう。デッキテープはカラフルなものやイラスト入りなど、さまざまなタイプが市販されているので、カスタマイズも楽しめそうだ。 

足元のバッテリーは、防水機能が付与される予定。ステップにはスケートボードのデッキテープが貼られている
 
黒いレバーがスロットル。右手親指で押し込むと走り出す

足を地面から離し、同時に右手親指部分にあるレバーを押し込むと、するするとLOMは走り出した。

一般的な電動キックスクーターと違ってまっすぐ正面を向いた姿勢で乗るので、左右のバランスは取りやすい。自転車に乗れる人なら、少し練習すれば問題なく乗れるだろう。

一方、加速や減速といった前後方向の加速度に対しては、少し慣れが必要だ。正面を向いて乗るスタイルは、電車の進行方向を向いて立つようなもので、発進や停止のときは何かにつかまっていないとよろけてしまう。そこでハンドルを握って体を支えることになるのだが、LOMはホイールベースが短く、ハンドルも体の近くにある。このため不用意にハンドルに体重を預けてしまうと、加速時はウイリーしそうな、減速時は前につんのめりそうな感覚があるのだ。
プロトタイプには、最高時速の違いによりECO、MID、HIGHの3つのモードが用意されていたが、特に最も強力なHIGHモードで乗るときは、強力な加速に対応するため、スキーのように軽く膝を曲げて乗ったほうが良さそうだ。

体重移動を使ってスポーティに乗れる

もっとも、これは必ずしもネガティブな点というわけではない。体重移動を使いながらスポーティなライディングが楽しめるというポジティブな要素でもある。鳴海社長は「3つのモードを(最高速の違いではなく)加速の強さの違いにするというアイデアも検討している」と教えてくれた。

確かに、乗りやすさを求めるときは穏やかな出力特性の「ノーマルモード」、走りを楽しみたいときはより強力な「スポーツモード」などと使い分けられればLOMの魅力をより引き出せるだろう。最近の大型バイクは、エンジンの出力特性を変更できるようにして扱いやすさと運動性能を両立しているものが多いが、それと同じイメージだ。ライディングポジションについても「小柄な人から大柄な人まで、どんな体格の人が乗っても重心位置が大きく変わらないよう現在微調整している」(鳴海氏)という。

乗り心地は、大柄な電動バイク用タイヤのおかげで滑らかだ。以前10インチタイヤにサスペンションを搭載したWind 3.0に試乗したが、LOMの安定感と滑らかさはそれ以上に感じた。公道では、道路の左端をクルマと並んで走行する機会も多い。そんなとき、12インチの前輪はちょっとした段差やわだちに強く、安心感がある。電動キックスクーターの中にはブレーキが弱いものもあるが、LOMは前後ともディスクブレーキを採用しており、よく効くのでこちらも安心だ。

前後ともディスクブレーキを採用し、制動力に不安はない

現実的な利用シーンが考えられている

以前WINDの電動キックスクーターをサブスクで利用したとき、特に改善してほしいと思った課題が3つあった。ひとつはパワー不足。特に上り坂では速度が低下してしまう、発進時になかなか加速しないといった不満を感じることが多かった。2つ目はバッテリーの着脱。WINDはバッテリーの取り外しができず、大柄な機体をマンションの部屋に持ち込んで充電せざるを得なかった。そして3つ目は折り畳みだ。電動キックスクーターはクルマに載せて出かけ、「ラストワンマイル」の移動に使うのにぴったりだ。だがWINDはもともとシェアリング前提で設計されたためだろう、折り畳み機構は備えておらず、クルマに積むのは難しかった。

glafitのLOMは、この3つの点にしっかり対応している。まず、パワーに関しては、HIGHモードではウイリーしそうなほどの力強さがある。試乗ではゆるい上り坂しか試せなかったが、特に苦にせず上ることができた。

鳴海氏によると、LOMはハイブリッドバイクGFR-01と違ってペダルがないため、より高電圧のバッテリーと強力なモーターを搭載しているという(出力はGFR-01の250Wに対してLOMは350W)。もっとも登坂性能はライダーの体重に影響されるため、「十分なパワー」と言い切ることはできない。体重を絞れば絞るほど軽快な走りが手に入る、と思えばダイエットのモチベーションになるかもしれない。

2つ目のバッテリーの着脱に関しても申し分ない。両足の間に位置するバッテリーは容易に着脱可能。バッテリーの重量は2.5kgだから、一般的な電動アシスト自転車と同様の手軽さで持ち運んで充電できる。
体重55kgのライダーが乗る場合の走行距離(理論値)は約40km。残量が低下するとパワーも落ちることを考えると、実用的には往復20kmくらいまでだろうか。近くのコンビニやスーパー、最寄り駅といった近距離の移動に向くモビリティだといえる。より行動範囲を広げたい人向けには、容量が1.5倍ある大容量バッテリーも6万4000円で販売している。しかもLOMのバッテリーはパナソニックと共同実証によって誕生したバッテリー管理システムを搭載。使えば使うほど学習を重ねて、航続距離や残量表示が正確になるという。

バッテリーの着脱に関しては、利便性だけでなく、鳴海氏の「長く使ってほしい」という想いも込められている。海外のシェアリングサービスで使われている電動キックスクーターの多くはバッテリー内蔵式で、寿命がきたら機体ごと廃棄されてしまう。せっかくエコなはずの電動モビリティだが、実際には100日程度で廃棄されるケースが多いのだという。そこでglafitは耐久性を重視して頑丈な機体を設計。合わせてバッテリーを着脱式にすることで「愛着を持って長く使える製品を目指した」(鳴海氏)。

バッテリーの取り外しは簡単。カギでロックできるので安心だ

そして3つ目の折り畳みに関しても、もちろん考えられている。「今回も(GFR-01と同様に)クルマのトランクに積むことを考えたのですか」と鳴海氏に聞いてみたところ、「クルマのトランクなんてもう当たり前。今回はコインロッカーに入るサイズを目指しています」と自信満々の答え。

もともと本体がかなりコンパクトだから、左右のハンドルと、ハンドルポストの付け根を畳むだけでかなり小さくなる。既に「特大」サイズのコインロッカーには余裕で入るのだが、現在は「大」サイズを目指して機構を工夫しているという。折り畳み時のサイズは、全長は1050mm、高さ600mm、幅は350mm。重量はバッテリー込みで16.5kg、輪行バッグに入れて電車に持ち込むこともできそうだ。

折りたためばかなりコンパクト。重さは標準バッテリーを含め16.5kgほど
クルマに積み込んで出先で利用することもできそうだ
折りたたみ状態のときキャリーバッグのように転がして持ち運ぶためのキャリーハンドルもオプションで用意

GFR-01のときもそうだったが、glafitの製品は日本の現実的な利用シーンをきちんと考えて設計しているな、というのが伝わってくる。ちなみにLOMは和歌山に組み立てラインを設置し、「Made in Japan」「Made in 和歌山」を実現している。

LOMは組み立て工程を和歌山で行う「Made in 和歌山」製品

ルールも含めた新たなパーソナルモビリティの実現に期待

さて、このX-SCOOTER LOM、どんなユーザー層をターゲットにしているのだろうか。GFR-01の主な購入者は、40-50代で、9割近くが男性だったという。だがLOMは、もっと若い層や、女性をターゲットにしていると鳴海氏。
オーソドックスな自転車に近い形だったGFR-01と違い、まったく新しいLOMのデザインは、確かに若い層から注目されやすいかもしれない。またセンターフレームが低く、ロングスカートでも乗りやすいデザインは女性にも受け入れられやすいだろう。実際、Makuakeのページを見ると、若者らしきアイコンのユーザーや女性からの応援コメントも目立つ。

LOMは「ラストワンマイル」の略。だが日本のラストワンマイルにはまだまだ課題がある。原付扱いのため、たとえ広い歩道に自転車レーンがある幹線道路でも、クルマが時速60〜70kmで行きかう車道を走らざるを得ない。どんなに回り道になろうと、自転車には許される一方通行を逆走することはできない。だがLOMのような乗りものが出てくることで、「どんなルールにすればいいのか」を具体的に考えられるようになる。
現在glafit社は和歌山市内で、GFR-01の車道以外での走行を視野に入れた実証実験を行っている。鳴海氏は、LOMに関しても同様の実証実験を実施することを考えているようだ。

コロナ禍により、他の人と距離を取って移動できるパーソナルモビリティへの関心は高まっている。すでに1億900万円あまり、1200人以上がサポートしているLOMが新たなモビリティを切り開くきっかけになれるのか、楽しみだ。

Makuakeでのクラウドファンディングは20年8月25日まで。現在の価格は12万2000円(市販予定価格は14万9600円)で、今注文すると、21年4月末までに手に入る。

 

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