子どもたちが好むデザインとソーシャルデザインは融合するか2017年度の受賞作品から見えたこと

Aug 28,2017report

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Aug28,2017

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子どもたちが好むデザインとソーシャルデザインは融合するか 2017年度の受賞作品から見えたこと

文:
TD編集部

キッズデザイン賞の今年度受賞作品が先日発表され、主催のキッズデザイン協議会に取材に行ってまいりました。お話を聞かせてくださったのは、キッズデザイン協議会の専務理事・福田求道さん、事務局の蔦谷邦夫さん、広報の濱田あかねさん。編集部が感じたことをレポートします。

キッズデザイン賞、今年度受賞作品は298点。
IT系プロダクトが増加傾向、母親以外の保育者向けプロダクトも

「グッドデザイン賞はよく聞くけど、キッズデザイン賞ってなんだ?」という素朴なギモンから始まったキッズデザイン賞レポート。前回の記事ではキッズデザイン協議会の成り立ちと取り組みについてご紹介しました。

同賞の募集は今年で11回目。8月21日(月)に応募作品の中から298点が選ばれたということで早速事務局に伺ってお話を聞いてきました。

今回の受賞作品について、一番のポイントはアプリ・IT・テクノロジー系の分野の応募が増加傾向にあった点
また、孫育て世代や保育従事者向けのプロダクトが増えたのも特徴です。父親や祖父母など、母親以外の保育従事者が使用することを前提に作られている商品など「子育てに社会全体で取り組む」という社会的な意識が応募作品にも現れているのでしょうか。その他、子育て層の孤立化を防ぐサービスや、親子のコミュニケーションを促すアプリとその周辺ツール、保育従事者と親のコミュニケーションツールなど、子ども向けのコト、モノにとどまらず多様化が進んでいます。

毎年、受賞作品は「KIDS DESIGN CONCEPT BOOK」にまとめられる(写真中央)

今回の応募総数は462点。プロダクト部門では応募数増加、建築空間・コミュニケーション・調査研究・復興支援の各部門では減少し、過去最多となった昨年度の応募数(503点)を下回りました。

事務局の蔦谷邦夫(つたたに・くにお)さんによると「今回、応募時に必要な情報を昨年度よりも多く設定し、審査委員に対してよりアピールポイントが明確に伝わるようにした」とのこと。もしかすると昨年度までの応募者の中には少しハードルが上がったように感じた方もいたかもしれません。

「より多くの人にキッズデザイン賞を知ってもらうだけでなく、メリットを感じてもらう仕組みづくりが今後の課題」と語るのは同協議会専務理事の福田求道(ふくだ・きゅうどう)さん。メーカーや流通など、業界を横断して多くの企業が集まるキッズデザイン協議会特有のネットワークを使い、受賞作品を世の中に広めていくための取り組みに力を入れていくことも考えているそう。「企業の皆さんが苦労して作り上げた商品やサービスが世の中に正しく伝わっていくよう、お手伝いができれば」とお話しくださいました。

昨年度までの受賞作品を手に取りながら、取り組みを振り返る福田さん

ただ、蓋を開けてみれば受賞数は前年度とほぼ変わらず(参考:前年度の受賞数は297点)。
審査するポイントが明確になり、かつ受賞数は減らなかったということから、応募作品のレベルが全体的に上がったという見方もできそうです。

応募企業に目を向けると、「今までは比較的大手のメーカーさんからの応募が多かったのが、中小企業や個人のデザイナーさんからの応募もあり、着実にキッズデザインの裾野が広がっていることを感じる」(蔦谷さん)とのこと。
また、子育て関連の事業を本業としていない企業からの応募も増加。ソフトウェア関連企業が子育て分野に注目して新サービスの開発をしているという例も増えているそうです。

協議会発足時から根付く、ソーシャルデザインの視点

キッズデザイン協議会は今年、キッズデザイン宣言を決定しました。ここに書いてある10項目はどれも「デザイン」という枠組みを超えて、子育てを取り巻く社会的な課題の解決を掲げている、というのは前回の記事でお伝えしたこと。

このことに対して、蔦谷さんは「キッズデザイン協議会の成り立ちそのものが『デザインによって社会的課題を解決する』という視点に基づいたものだと理解しています」と語ってくださいました。

キッズデザイン協議会事務局の蔦谷さん(左)、濱田さん(右)

キッズデザイン協議会では、創設時から「色・かたちなどの表面的なデザインにとどまらず、子どもの安全・安心を担保すること」をキッズデザインの大前提においているとのこと。
子育てを取り巻く環境や社会的課題は一企業、一業種だけで取り組んでいくには限界があります。国や自治体まで巻き込んで様々な課題に中長期的に取り組んでいくという意思をあらわしたのがキッズデザイン宣言である、ということですね。

広報の濱田さんは「審査の中で印象的だったのは、ゴールを押し付けない、ユーザーの発想を促す商品やサービスが高評価を得ていたこと」と語ります。ユーザーが楽しみながら使い方を考えていく「余地のあるデザインの面白さを感じた」とのこと。これに対し蔦谷さんは「買ってもらって終わりではなく、お客様と共創していくという考え方が現代のモノづくりの中で一つの流れを作っているように思う」とも述べてくださいました。

世界的にも珍しい、業界横断の取り組み。より普及させるためには?

海外事例などがあるのか聞いてみると、社会的な視点から業界を横断してキッズデザインを検討する取り組みは海外にもあまり例はなく日本が先行しているそうです。
業界団体ごとに「玩具の安全基準」などがある国はありますが、業界横断型という点を見ると日本独自の取り組みだといえるでしょう。
ただ、福田さんのコメントにもある通り、実際の子育て世代への浸透率や認知度の向上という点で発展の余地はかなりありそう。個人的には、審査にあたってはプロの目から見て基準を満たしているかという点だけでなく実際のユーザーの声なども拾うことができると、応募者側にも新たな気づきを提供できる可能性があると感じました。

もう少しだけ言うならば、これだけ多くの企業が賛同・参画している取り組みなので、もう少しマーケティングに踏み込んで「子どもが好むデザイン」についても是非、キッズデザイン協議会から発信してもらえたらうれしいです。もっと言えば子どもが好むデザインについて、何がそうさせているのかを考えていけたら、面白そうだなと。

皆さんも記憶にありませんか? 幼いころ親戚にもらったおもちゃや海外からのおみやげを開けたときの「コレジャナイ感」。おそらく大人の目から見ればどれもおしゃれでかわいい商品だったと思うのですが、子どもはそういった「おしゃれさ」よりパッと見たときの第一印象で好きかどうかを決めます。その「コレジャナイ感」が何によるものだったのか言語化し、子ども達が好む、飛びつくデザインの共通項を定期的にアップデートすることができれば、良いコンセプトの商品を、より売れる商品に育てていくヒントになるのではないでしょうか。

キッズデザイン賞のような取り組みが、様々な業界に対する啓蒙活動につながるという意義はもちろん理解したうえで「それでもやっぱり、せっかくなら子どもが喜んで使うものを買いたい!」というのも親を含む保育者の本音の一つです。
いくら安全・安心なおもちゃを用意しても、テレビアニメのキャラクターや収集心をくすぐるミニカーやカード、お友達が遊んでいるゲームに夢中になってしまうのが子どもというもの。子どものことや環境のことに配慮された「社会性の高いデザイン」と、キャラクターやラメ、グリッターなどで彩られた「子どもが好むデザイン」が分断されてしまってはもったいない。この二つがもっと融合してくると子育てをとりまくデザインはもっともっと楽しく、一般の人たちにとっても「自分ゴト」になりやすくなるのではないでしょうか。

キッズデザイン賞はこのあと、9月25日に最優秀賞「内閣総理大臣賞」1点、優秀賞「経済産業大臣賞」4点、 「消費者担当大臣賞」1点、 「少子化対策担当大臣賞」2点、「男女共同参画担当大臣賞」1点、特別賞「東京都知事賞」1点などを発表、 表彰式を行うとのこと。TDでは引き続き、この賞の動向をウォッチしていきます。

 

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