学生が作り上げる学校案内
「日本一捨てられない学校案内」と呼ばれる、学校紹介パンフレットがあるのをご存知ですか?
以前、TDで取材した京都造形芸術大学の吉岡華子さん(記事はこちら)。取材当時、彼女が制作に取り組んでいたのが、そのパンフレット「student today」です。これは大学側も公式資料として活用する「学生がつくるパンフレット」 。毎年4万5000人の高校生に配られており、今年で制作11年目とのこと。
TD編集部は昨年度版のパンフレットを手にした時、340ページに及ぶ完成度の高さと厚み(内容も背幅も)に驚きを隠せませんでした。2018年度版の「student today」が完成したとの知らせを聞き、早速吉岡さんに「是非! 送ってください!」とおねだりしました。
340ページに詰まった京都造形芸術大学の「空気」
今回のパンフレットも昨年と同じく340ページ。今年のパンフレットは「白靴下」というテーマで全体が構成されています。掲載されている様々なコンテンツを横串に刺すのは「my my my」というキーワード。
コンセプトカラーはオレンジと青。授業案内のようなコンテンツは無く、日々学校に流れる「空気」や「日常」が伝わってくるような、雑誌のような構成。
読み進めていくうちになんだかすごく作り手の話が聞きたくなってしまい急遽、電話取材を敢行することになりました。
突然の連絡に対応してくれた吉岡さん、本当に優しい……。ありがとう。
吉岡さんに電話してみた
吉岡さん:ありがとうございます!
企画からページデザインまで、すべて学生がやりました。まずは前年度のパンフレットを見ながら、今年踏襲するコンテンツと新しく追加するコンテンツを決めていきました。コンテンツがある程度固まったところでみんなでページ割を決めて、そこから4色ページと2色ページを割り振って。入稿データはAdobe Illustrator(イラレ)で作りました。でも後からページ割が変わって、色数も変更になったりとか(笑)、結構色々ありました。
学科によってはイラレの使い方の講義があったりもするんですが私は完全にゼロからの挑戦で……見よう見まねで作り切りました。
制作期間はおよそ10ヶ月。5月にプロジェクトが始動して、12月頃にイラレデータを納品しました。実は私たちが手がけたのは、このイラレの制作までなんです。
入稿データは協力してくださった編集プロダクションに作成してもらったので、最後の微調整までは対応していません。色校正などもお願いしました。
周囲への協力をお願いするところですかね。物を集めたり、撮影に集まってもらったり。
自分たちだけでは無理なので、友達伝いに協力をお願いして。この工程が一番大変でした。
そうですね。実は当初、今年のテーマカラーは「紺」と「緑」でいく予定だったんです。でもそれだとフレッシュさを感じられず、シックなイメージになってしまって。結果的に2つ目の候補だったオレンジをメインに、補色のブルーと共に使うことに決まりました。
段ボールいっぱいの白靴下
いや、もう「????」でした(笑)。ハテナマークが頭の中を。
本当に全ページ、白靴下というテーマを通せるのか不安でした。
はい。自分たちで企画書を作成し、片っ端から企業に送って協賛依頼をしたんです。
「白い靴下が欲しいんです」って(笑)。
hacu.様、レッグニット中村様が協賛してくださいました。学校に大きいダンボールが3〜4箱届いて、その中に白い靴下がめちゃくちゃたくさん入っていて。圧巻の光景でした(笑)。
はい。空間演出デザイン学科の酒井洋輔先生です。
大学側とは、入稿前に2回簡単な打ち合わせがあっただけですね。
コンテンツの意味合いとかを聞かれたかな。「このページ、なんであるの?」「なんで銭湯で写真撮ったの?」とか(笑)。高校生から大学に質問があった時に答えられるようにしたい、という主旨の打ち合わせで、特に「ここをこうして欲しい」とか、そういう指示はなかったですね。
「マイノリティ」という企画です。インタビューして、原稿を書きました。
それ以外にも手帳やTwitterのページなどは「全員、毎週10案アイディアを持ち寄ろう!」と決めて。複数同時に進めていましたね。
まずはやっぱり、私が担当した「マイノリティ」のページですね(笑)!
写真などのビジュアルが目を引くページが多い中、このページは文章がメインなので1回目にパンフレットを開いたときには読み飛ばされちゃうと思うんです。でも2回目以降、開いてもらえることがあるとしたらその時にぜひ読んで欲しい。
それから、足を上げてみんなで屋上で撮影したページです。これ撮影したの、12月だったんですけど、めちゃくちゃ寒かったんで……でもお気に入りのページです。
今年の制作チームももう動き出してるよ!
そうですね。実はこの時期に歴代のパンフレット制作を手がけたOB・OGが集まって交流会をやるんですよ。屋上で「ダルマさんが転んだ」をしたり、たこ焼きパーティをしたり(笑)。
新しい制作チームの皆さんも今までのパンフレットを参考にして企画を考えると思うんですが、それに縛られすぎることなく、今年のメンバーの発想を大切に作り上げていってほしいです。
「京造は、とにかく自由で、生きやすい場所」
2回生になってからはプロジェクトには入っていなくて。専攻である、ファッション制作に集中しようと思っていて、今年は課題の他に自主制作にも積極的に取り組んでいこうと考えています。
とにかく自由で、生きやすい場所です。
いろんな人がいるんですが一人ひとりを「これがその人」として見ているし、自分自身も素のままでいれるというか。とにかく居心地がいい場所ですね。
熱量は伝わる
吉岡さんへの電話取材を通じて伝わってきたのは、作った学生さんたちの「等身大」の姿。エディトリアルデザインの専攻でもなく、編集ソフトも使ったことがない。でもそんな彼ら・彼女らだからこそ、常識にとらわれずに企画し、「京造の空気」を感じることのできるパンフレットを作り上げることができたんだよな、と。
作り手の熱量は、読み手に伝わります。
この学生がつくるパンフレットは京都造形芸術大学の資料請求をす
京都造形芸術大学。今回のパンフレットだけが面白いのかと思いきや、オウンドメディアの瓜生通信や『京都東山職人手帖』なる書籍も、学生と大学の共同制作でかなり作り込まれており、抜かりありません。大学の情報発信とブランディング、そして学びとフィールドワークが見事なまでに調和していると思うのは私だけでしょうか。
大学広報さんにいつかお話を聞いてみたいので、この記事を読んだ学校関係者の方、是非ご連絡ください!