領域や職種を超えて、価値観の近い人が集まる場所を「Millennial Designers Cocktail 2020」レポート

Feb 17,2020report

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Feb17,2020

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領域や職種を超えて、価値観の近い人が集まる場所を 「Millennial Designers Cocktail 2020」レポート

文:
TD編集部 藤生 新

2020年1月、東京・六本木で開催された「Millennial Designers Cocktail(ミレニアル・デザイナーズカクテル) 2020」をレポート。モビリティ業界を中心に活躍するミレニアル世代のデザイナーたちが緩やかに繋がり合った。

ミレニアル・デザイナーズカクテル2020が開催

2020年1月17日(金)、モビリティ業界を中心に活躍するミレニアル世代のデザイナーたちが緩やかに繋がり合うイベント「Millennial Designers Cocktail(ミレニアル・デザイナーズカクテル) 2020」が開催された。
今回の交流会のタイトルとして冠されたのは、お酒・果汁・薬味などを混ぜ合わせて作る「カクテル」。フラットでカジュアルな雰囲気の中、新しいカクテルレシピを作るように、デザイナーたちが業界の垣根を超えて混ざり合った。

しかし、なぜいま「ミレニアル世代」なのか? また、いま改めて世代を区切ることによって見えてくるものとは何か? 
本稿ではイベント全体の模様をお伝えするとともに、実際にイベントに参加したデザイナーや主催者たちの声をお届けしていきたい。

若手デザイナーの身近な「画材」、Adobeのデザインソフト

東京都心を一望する六本木ヒルズ49階のライブラリーカフェ。平日夕方の開催にもかかわらず、会場には100名以上の若手デザイナーが集まった。20~30代の彼・彼女らは、いわゆる「デジタル・ネイティブ」と呼ばれる世代でもある。物心ついたころからパソコンやデバイスに親しみ、早くからデジタルツールを用いてきた人も多いだろう。

そんな世代にとって最も親しみあるデジタルツールが、Adobe社が提供する各種のデザインソフトである。かくいう筆者もまさにミレニアル世代のど真ん中であり、小学生のころはWindowsのペイントツールを使い、中高生になるとAdobe PhotoshopやIllustratorを身近な画材として使用してきた。

二部制から成るイベントの前半部ではアドビシステムズ株式会社による製品デモンストレーションが行われ、後半部ではまさに「カクテル」といえるデザイナー同士の交流会が行われた。

最新のAdobe社の技術にどよめきが絶えなかった

まずは前半、アドビシステムズ株式会社・デジタルメディア事業統括本部より、古田正剛氏、ヤーッコ・サーリ氏、永田敦子氏の3名が登壇。Adobe SubstanceAdobe DimensionAdobe Aeroの3製品が紹介された。

まず古田氏からは、Adobeが近年重視している3つのポイントが挙げられた。
1つ目は「読み込みや処理の高速化」、2つ目は「クラウドを用いた同期システム」など、いかにも便利でかゆいところに手が届くアップデート情報。中でも3つ目の「Adobe Sensei」(AIとマシンラーニングから成るテクノロジーの総称)には、会場からどよめきに近い反応が巻き起こった。

たとえば、Adobe Senseiを使うことによって、動画の中に映り込んだ不要なオブジェクト(道路を走る車など)を自動で認識しすばやく背景に溶け込ませることができる。またオブジェクトの動きを損なうことなく、デバイスの形状に合わせて動画をトリミングすることも可能だ。
言葉で説明すると何てことはない技術のように聞こえてしまうが、実際にデモンストレーションを見てみると、その処理速度や確実性に思わず声が上がってしまったのだった。

続いて、3Dテクスチャ作成ソフトのAdobe Substanceが紹介された。主に3Dデータにテクスチャを付ける目的で用いられるSubstanceは、ゲーム、映画・アニメ、建築、工業デザインなどの現場で幅広く活躍している。
とくにそのフォトリアルなグラフィックは驚くべきで、オブジェクトにマテリアルを適用することによって、風合いや痛みなどもリアルに3Dで再現することができる。さらにSubstanceでつくったデータをAdobe Aeroと連携させることによって、スマホやタブレットなどのデバイスを用いて、3Dをいとも簡単にARコンテンツ化することもできるそうだ。

このテクノロジーが普及すれば、たとえば会議の席などでひとつの3Dを全員が共有しながらオブジェクトを検証することが可能になるだろう。また発表の手段として見ても、さまざまな拡がりを感じさせる。このように、アドビシステムズ株式会社のデモンストレーションは、日常的に仕事でAdobe製品を使用しているデザイナーたちをもってしても、やはり新鮮な驚きを与えるものだった。

「企業の境界線」「主催者/参加者という境界線」を超えて

続く第二部では、デザイナーたちが交流を深め合う場面が生まれた。会場で聞いた声をお届けしていきたい。

スズキ株式会社四輪デザイン部の石川猛氏は、今回のイベントについて次のように語った。

同じ業界でも接点がある社とない社ではっきり分かれてしまいがち。とくに同業他社さんとは接点があまりないので、こういう機会に意見交換できることはとても有意義ですね。プロのデザイナーさんばかりが参加されるのかと思っていたら、学生さんもたくさんいらっしゃっていたことが新鮮でした。
これからプロとしてやっていきたいという想いを聞かせていただき、自分自身も良い刺激をもらいました。(石川氏)

スズキ 四輪デザイン部 石川猛氏

好意的な意見も多く出ていた一方で、別の参加者からは「私は少し人見知りなので。ワークショップとかグループワークをして、グループの人とお話ししつつ名刺交換をするみたいなアシストがあった方が話しかけやすかったかな」といった意見も出ていた。

また別の角度からは、前半部のAdobeデモンストレーションに対する感想もお伝えしたい。以下はミドリオートレザー株式会社デザイン室の田中健介氏のコメントである。

Adobeのセミナーを聴いたことで、いつもCreative Cloudを使っているけれど全然使いこなせていないことがよく分かりました。
業務上はそこまで使う機会がないんですが、ソフトも進化していますし、できるだけ逐一アップデート内容をチェックした方がいいんだなと。すでに知っている機能しか使っていないので、新しい機能を知るところから新しいビジネスの可能性が広がっていくような気がしました。

ミドリオートレザー デザイン室 田中健介氏

このコメントを会場でAdobeサイドに伝えてみたところ、古田正剛氏からフィードバックがあった。

使い慣れた手法があると誰でも「これでいいや」と思ってしまいます。今回のイベントで新しい使い方を知っていただけたところから、皆さんのお仕事がより効率的に変化していくと嬉しいですね。
今日のイベントのテーマは「Creativity for all.」だったんですが、今までの領域だけでなく新しい領域にもチャレンジしていただきたいという思いを込めて付けたタイトルでした。(古田氏)

また、同じくAdobeの永田敦子氏は次のように語る。

当社では「こんなものがあったら面白いんじゃない?」という見切りでアイデアを出すときもあります。なので「こういう使い方ができそう」だったり「現場ではこういうことに悩んでいる」といったお気づきがあれば、ぜひお声をいただけれれば幸いです。
これまでにも、そういった声を拾ってアップデートに取り入れたアイデアもありました。(永田氏)

このように、デザイナーとソフトウェア会社が同じ場に居合わせることによって、クリエイションとソフトウェア開発の間に結ばれうる互恵関係を図らずも目撃することになった。

左から古田正剛氏、永田敦子氏、ヤーッコ・サーリ氏

最後に、主催者である株式会社トゥールズインターナショナルによるコメントを紹介することでこのレポートの締め括りとしたい。

私たちは、日本のカーデザイン黎明期からデザイナーの皆さまに「さまざまなツールをご提供する」ことと同じく「さまざまなかたちで繋がり互いにインスパイアされる機会をご提供する」ことを信念としてきました。
そこで2020年の始めに、モビリティ業界を中心に、次代を牽引するミレニアル世代の若手デザイナー(と、ちょっぴりお兄さんお姉さん世代)同士が、領域を越境して緩やかに繋がり、未来のデザインについて語り合う機会をご提供することとしました。

しかし担当者によると、「同世代で区切る」という設計には少なからず逡巡もあったそうだ。たしかに多様性の肯定が叫ばれている昨今、「世代」というラベルで人々を区別することは一定程度、暴力的かもしれない。
一方で、人は業界、職域、紹介者など、さまざまなバイアスの中で、あるイベントへの参加/不参加を判断している。そうだとすれば、「なんとなく自分と近い価値観の人たちが集まってくるかも」と各自が判断できるように機会を設計してあげる必要があるのではないか?──そうした考えのもと、開催されたのがこの日のイベントであった。

参加者である若手デザイナーと目線を揃えられるように、主催・運営スタッフもミレニアル世代自らが取り組むことになった、という裏話も聞かせてくれた。
言われてみれば、筆者はほとんど知り合いがいない状態で会場を訪れたが、リラックスして楽しむことができた。新たに知り合ったデザイナーだけでなく、イベントを主催したトゥールズインターナショナル社のスタッフたちとのコミュニケーションからも、同じデザイン業界に関わるひとりとして大きな刺激を受けた。

同社は今後についても「デザインからテクノロジー、経済、社会問題まで、幅広いテーマでそれぞれの価値観を共有できるイベントに育てていきたい」と語る。そしていずれは、イベントに関わる一人ひとりが主催者/参加者という枠にとらわれない「コントリビューター」として企画や運営に参加できるような関係性も模索中とのこと。確かに、こうした領域越境型のコミュニティでは、近い価値観を持つメンバー同士がフラットな関係性でゆるくつながり続け、イベントに対しても自分ごと化していくことでぐっと楽しさが増す印象がある。

こうした場から新たなクリエイション、関係性、そしてコミュニティが立ち上がってくるのかもしれない。2020年代の幕開けに相応しい、これからの未来を予見させるイベントだった。

 

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