スタイリッシュな電動バイク、その実用性は?
「電動バイク」というと、現状は実用性を重視したスクーター型が目立つ。そんな中、オーストラリアの電動バイク専門ブランド「SuperSoco(スーパーソコ)」が、スタイリッシュな電動バイクを次々と送り出している。環境に優しく、先進的。さらにスタイルも魅力的となれば、気になる方も多いのではないだろうか。
果たして電動バイクは実用に足る乗りものなのか。そしてバイク好きを満足させる楽しみがあるのか。国内販売を手がけるMSソリューションズに125ccクラス相当の「SUPER SOCO TC」を借りて試してみることにした。なお、同社は「XEAM(ジーム)」の名前で海外の電動バイクを幅広く輸入販売している。
さて、SUPER SOCO TCと対面した第一印象は、月並みだが「かっこいい」だった。税込32万7800円からと125ccクラスのバイクとしては決して高価な方ではないが、メーターやパーツからは上質感が伝わってくる。
デザインには、レトロ感と未来感が同居している。ボディは英国車を思わせるシブいグリーンに塗られ、クラシックなタックロールシートを備える。ぱっと見は古風なカフェレーサーの雰囲気だ。だがよく見ると、重量が中心にギュッと凝縮されたような塊感はイマドキのバイク風。エンジンがあるべき場所はつるりとしたパネルでカバーされ、マフラーも見当たらない。レトロな丸形ヘッドランプはLED内蔵だ。
従来のバイクの文法と電動バイクの先進感をうまくバランスさせた、秀逸なデザインだと思う。「電動バイクだから」ではなく、「かっこいいから」という理由で選びたくなるだけのモノとしての魅力がある。
人気高まる原付二種
SUPER SOCO TCは、AT小型限定免許(AT小型限定普通二輪免許)が必要な「原付二種」というカテゴリーのバイクだ。エンジンの排気量が51cc以上125cc未満と定められており、SUPER SOCO TCの出力もほぼ同等である。
この原付二種は、ここ最近、急速に人気が高まっている。人気の理由は、そのハードルの低さと実用性にある。まず免許。前述の通りAT小型限定免許が必要だが、実はこの免許、2018年の道交法改正により、教習所に行けば最短2日間で取れるようになった。
維持費が安いのも原付二種のメリット。自賠責保険が2年で約9000円(離島・沖縄を除く)。もし自動車を保有していれば、任意保険は自動車保険のオプション「ファミリーバイク特約」が利用でき、割安になる。
そして街を走る上で面倒なルールに縛られることもない。50cc以下の原付一種だと、最高速度は時速30kmに制限され、大きな交差点では二段階右折が必要となる。だが原付二種は最高時速60kmで、二段階右折も不要。高速道路は走れないが、街乗りならまず不自由しない。そんなわけで、コロナ禍で公共交通機関が敬遠されていることもあり、原付二種は販売台数、免許取得者ともに増加中だという。
シンプルな操作と心地よい走り
SUPER SOCO TCは原付二種サイズクラスということで、ボディはコンパクト。重量は72kg(1バッテリーの場合)とかなり軽量で、足つきも良好だから扱いやすい。電動バイクはギヤチェンジがいらないので、操作はシンプル。右手のスロットルをひねればヒューンとかすかにモーター音を響かせながら加速していく。止まるときは左右ハンドルのブレーキレバーを握ればよい。スクーター感覚だから、すぐ慣れるだろう。
しばらく走ってみると「エンジン音がしないことが、こんなにも心地よいことなのか」と心底驚く。聞こえるのは風の音とタイヤからのロードノイズだけ。すいた道をのんびり走ると、平和そのもの。人が行きかう狭い路地を走るときも、エンジン音で人を驚かせたり威圧してしまう心配がない。「エンジン付きのバイクに戻りたくない」と思ってしまうほどだった。
エンジン音がしないと周りから気付かれず危ないのではないかと心配もしたが、「自分は音がしない乗りものに乗っている」「気付かれなくて当然」と意識して乗っていたため、自然と慎重な運転となり、3日間の試乗中に危ない場面に遭遇することはなかった。
SUPER SOCO TCは、後輪に出力1000Wの独ボッシュ製インホイールモーターを搭載する。最高速度はカタログ値で時速75kmで、実際、原付二種の制限速度の時速60kmまでは余裕を持って加速できる。低回転からいきなり最大トルクを発生するモーター駆動らしく、加速はパワフル。信号待ちからの加速では、クルマを軽々とリードできる。ストップ・アンド・ゴーが多い街乗りにぴったりの特性だ。
ただスロットルをオン・オフするときに微妙なショックがあり、一定の速度を維持したいときや、カーブの立ち上がりで徐々にスロットルを開けたいときに、その唐突なショックがちょっと気になった。エンジン付きバイクのようにクラッチもなくモーター直結だから、どうしてもそのあたりの繊細なコントロールは苦手なのだろう。この点もワインディングでの走りを楽しむ趣味のバイクではなく、街乗りでキビキビ走れればいいと割り切れば、そこまで気になることもない。
重いバッテリーの持ち運びと充電時間がネック
電動の乗り物となると、航続距離が気になるところ。SUPER SOCO TCは最大2個のバッテリーを積むことができる。バッテリー1個あたりの航続距離はカタログ値で60km。今回の試乗は1バッテリーだったので、40kmほど走ったところでバッテリー残量が10%を切った。通勤などでは片道20kmまでの移動に使うのが現実的だろう。
バッテリーはライダーの前、一般的なバイクでいうタンク部分に内蔵される。バッテリーを取り外して家庭用コンセントで充電できるほか、バイクに直接充電ケーブルをつなぐことも可能だ。重量は12.5kgで、ずっしりと重い。筆者はマンション住まいなので、充電のたびに駐輪場から自宅まで持ち帰る必要があった。取っ手があるので持ち運びに苦労するほどではないが、毎回充電が必要な距離を走るような使い方だと、負担に感じる人は少なくないだろう。充電にかかる時間は約8時間と、結構長い。通勤のように決まった時間に決まった距離を走るなら問題ないが、予定外の外出時などには、この充電時間がネックになるかもしれない。
SUPER SOCO TCはあり? なし?
さて日常の足として、SUPER SOCO TCという選択肢は「あり」なのだろうか。これは充電の環境と頻度による、というのが今の筆者の結論だ。
まず充電環境について。一戸建てに住んでいてバイクを駐輪場に置いたまま充電できる方なら、SUPER SOCO TCはオススメできる。帰宅時に充電コードをつないでおけば、次に乗るときには満タンになっている。わざわざ給油に行く必要がないからエンジン付きのバイクより便利かもしれない。一方、筆者のようにマンション住まいで、充電のために12.5kgのバッテリーを持ち帰るようなケースだと、充電が面倒になってくる。
それでも、一度に走る距離が短かければSUPER SOCO TCは十分選択肢に入る。筆者は以前、片道5kmの距離をスーパーカブで通勤していたが、この程度の距離なら充電は3-4日に1回のペースだろう。わざわざガソリンスタンドに行く手間を考えれば、電動バイクを選んでもいいかな、と思う。結局、充電の手間をどう考えるか次第なのだ。
そして多少充電に手間がかかっても、それを上回るほどの魅力がSUPER SOCO TCにはある。デザインはスタイリッシュで所有する満足感は高いし、無音で走る快感は忘れがたい。先進的な乗りものに乗っているという優越感もある。普段キャブ車を乗り回しているほどエンジン好きの筆者でさえ「次に原付二種を買うなら電動バイクにしたい」と思うほど、モーターの走りは楽しい体験だった。まだまだ未来の乗りものというイメージが強い電動バイクだが、乗ってみると十分実用的で楽しい。興味がある方はぜひ選択肢に入れてみてほしい。