美大の卒業制作、見に行った?
マーサ:もう時期が過ぎてしまったけど、先月はあちこちで各美大の卒業制作展、卒展が行われていましたね。去年は私たちもTDを通じてたくさんの美大生とご縁がありました。みんなは、どこか行った?
おふね:私は、多摩美のグラフィックデザイン学科(通称多摩グラ)と桑沢デザイン研究所の卒展に行ってきました。多摩グラの卒展では、去年12月に国分寺にあるワークスペース、PARTNER LOUNGEで出会った赤くんこと、赤松健太さんに頼んで案内してもらっちゃいました。
公式Instagramでは開催までのカウントダウンが行われました。
向こう側が透けるほど薄い紙に出力されていて、作者のこだわりが感じられました。
おふね:やはり解説付きで見ると理解が深まりますね。
少し驚いたのは、今回の作品は彼の今までの作風と全然違うタッチだったこと。本人に聞いてみたら、はじめは今までのタッチで進めていたけれど、コンセプトとちょっと違うと違和感を覚え始めたんだとか。これまでのスケッチを見返し試行錯誤して、こういったシンプルな表現にたどり着いたみたいです。
マーサ:面白いねぇ。私も別の日に行ったんだけど、広告系のコースの展示が結構気になったよ。
漫画の販促キャンペーンとか豆腐屋のプロモーションのデザインとか。ポスターだけじゃなくて、色々な販促企画や展開も考えられていてよくここまでやったな、と。
キャラクターグッズや書店での展開イメージの写真など、細部まで作り込まれていました。
写真中央の平行四辺形の豆腐は「時代の先を行く」コンセプトを示しているそうです。
エリー:桑沢デザイン研究所の卒展はどうだった?
おふね:面白かったですよ。ファッションショーがあると聞いて、珍しいなと思って、特に知り合いはいなかったんですが立ち寄ってみたんです。
ファッションショーは、音楽も照明も本格的で、ファッションに詳しくない私でも楽しめました。
結構広い会場でしたがすぐに満員になって、立ち見の方も大勢いて……。
ただ、衣装の展示などがなくて、パネルのみだったのが少し残念でした。作品はどれも素材や縫い方に相当凝っていそうだったので、ショー後にじっくり見たいなと思っていたのですが。
毎年開催されるファッションショーは高い注目度を誇ります。
繰り返し作品に向き合うことで鍛えられるチカラ
マーサ:私とアリ編集長は、AXIS Galleryで行われていた武蔵野美術大学の工芸工業デザイン学科・インダストリアルデザインコースの卒業制作展「TOUCH!」にも足を運んできました。
マーサ:以前取材したイベント“カーデザイングランプリ”や“Clay modeling workshop for student”に参加してくれた学生さんの作品を見るのがメインの目的でした。ちょうど彼らも在廊していて、本人たちから作品についての話が聞くことができて。
アリ編集長はどう思いました?
ビッグデータ活用により「場」に適したフォーメーションに変化したり、デジタルサイネージとしても活用できる次世代のモビリティアイディアを提案。
城祐貴さんの作品『AI×HUMANITY』。
自動運転の先を行く、スポーツカーとしての楽しさを引き出したアイディアです。
アリ編集長:彼らの作品は飛び抜けて完成度が高い印象を受けたね。
マーサ:ですよね、どうしてだろう。例えば佐藤さんはカーデザイングランプリのアジア大会で3位を受賞したときのコンセプトを引き継ぐ形で、卒業制作として作り上げています。一度外部の大会で揉まれてフィードバックを受けて、そこからまた作り込んでいるから、より高いレベルに達した、とも考えられますね。
おふね:作品に向き合って、とことんやれるところまで「やりきった」学生さんって、表情を見ただけでそれが伝わってくるんですよね。
そういう意味では、桑沢デザインのプロダクト学科のブースで見かけた「LE POSTE(ル・ポスト)」という作品が印象に残っています。
「パルクール」というニッチなスポーツ専用のスポーツバックを作った学生さんがいたんですけど、それを使ったサービスのウェブサイトやプロモーションビデオまで作り込んでいて。
作者の斉藤さんが在廊していたので直接解説してもらったのですが、彼の熱量には結構圧倒されました。
作品のアイディアはもちろんのこと、斉藤さんが生き生きと語る様子が印象的でした。
誰のための卒業制作?
マーサ: そういえば、アリ編集長は海外の大学にもよく足を運んでいますが、海外での卒業制作・卒展事情ってどうなんでしょう。
アリ編集長:海外だとスポンサー・プロジェクトのようなものが多いですね。産学協同の作品をブラッシュアップした作品を展示することも多いです。卒業制作のためにスポンサーを探したりする学生も多いようです。
エリー:テーマの設計や課題設定によって、完成作品のクオリティがある程度決まってしまう部分も否めないですよね。
そういう意味では、企業が入ることでより現実に即した課題設定ができるので、リアリティを持つ作品に仕上がる気がします。そういった点では個人的に企業スポンサーのついた卒業制作は良いなと感じますね。
アリ編集長:なるほど。テーマの設計や課題設定、つまり「問い」の精度を上げていくということはたしかに重要ですね。
日本でもそういった例はいくつか始まっていますが、今後増えていくかもしれないですね。最近だと名古屋の大同大学のプロダクトコースの展示を見る機会があったのですが、その中のいくつかの作品もスポンサー・プロジェクトでした。
しかし、企業が入ることで、学生にとってはお金の心配はなくなるけれど、権利とかはどうなるんだろう。
今回、意識的に卒展を眺めてみて、卒業制作、卒展は誰のためにやっているのか? と素朴な疑問を感じました。
個人的には、卒業制作っていうのは「在学中に吸収したことのすべてを注いで集大成を制作する」、というところからはじまっている気がするんですよ。だからスポンサーとかはつけないで、あくまでも「自分の表現を見つけること」にフォーカスするのが大事だと感じるんですけどね。スポンサーがついたら、彼らの意見も反映させたきゃいけなくなるし、教授や研究室からの意見をどのくらい作品に反映させるのか、落としどころが難しくなるんじゃないかな、と。
モイモイ:たしかに制約の少ない学生時代にこそ、思う存分に作ったり考えたりしてみて、自分を知ることがクリエイターとしては大切なのかも。
まぁでもこれは卒業制作だけじゃなく、他の課題にも言えることですね。ただ「こなす」んじゃなくて、とことんやり切るみたいな。
マーサ:そうですね、無理してとんがったり、人と比較する必要はなくて、好きなことや興味があることを素直にやり切ってほしいですね。
卒業制作も卒業するためのものじゃなくて、好きなことをとことんするための機会と捉えて臨んでほしい……。TDを読んでくださっている学生さんにも伝わるといいな。
もっと卒展を「開かれた場」に!
アリ編集長:卒展に関して言えば、卒展って開かれているようでまだまだ閉じている気がするんですよね。地理的な条件とか、期間が短いとか、様々な制約があって行けない場合があるから、もっとオープンな感じで見られるようにならないかな?
マーサ:こないだ見つけた動画なんですが、これ! こんな感じのライブレポートとかあったら良いなと思ったんです。カリフォルニアのパサデナにあるアートセンターがFacebookページで配信していたライブ映像なんですが、内容は学生が教授とおしゃべりしながら学校内の展示を巡る様子なんです。
校舎内の雰囲気も分かるし、ライブ中は質問も受け付けていて、なんかすごくオープンじゃないですか?
昔は入りたい学校があっても、パンフレットの写真を見つめるか、ものすごく限られた公開講座に行くかぐらいしか中の様子を知ることはできなかったじゃないですか。それを考えると今は恵まれているなと思いますね。
モイモイ:いいですね! 楽しそう!
アリ編集長:良いね。来年はもっと気軽に色々な作品を見られたらいいな。
マーサ:あの……実は今回の企画にあたって、これまでにTDに登場してくださったデザイナーの方々に「卒業制作、見せてください」ってお願いしてみたんです。
いくつか、秘蔵写真をいただいちゃったんですが、今出してもいいですか? 多分これ世の中に出てないやつのような……。
アリ編集長:え。最初に言えよ(笑)。ちょっとこれ、カロリー高すぎ! 豪華すぎ! これは後編で、もう一本記事にして。
マーサ:はっ、はい。じゃ続きは後編で!
……
ということで、前編はここまで。後編では「あの人の卒業制作が見たい!」と題して、過去にTDがインタビューしたデザイナーの方々の卒業制作をお届けします。