従来のデザイナーの領域を超えた仕事。2人の共通点と「これからのデザインの役割」を考える
マーサ:先週で完結しましたね、グッドパッチCEO、土屋さんのインタビュー。NOSIGNER(ノザイナー)の太刀川さんから続けて新世代のデザイナーたちにインタビューできたかなという印象です。皆さんどうでした?
モイモイ:お二人とも単にモノの形をかっこよく作るタイプのデザイナーじゃないですよね。モノを体験として、関わる空間や時間も含めて総合的に捉えようとしているなというのが印象的でしたね。
アリ編集長:僕は、二人とも「頭がいいんだな」っていう印象を受けたな(笑)。これまでだったら「そこはマーケティングだろ」と言われるような領域も含めて、自分たちで調べて考えて、それがデザインの骨になっている。例えば太刀川さんだったら、会社の歴史や強み、カルチャーまで全部飲み込んで、消化した上で吐き出すんだなー、と。本人たちにとっては当たり前のことなのかもしれないけど、よくやるなぁと思いました。今回は聞けなかったけど、山本山みたいな老舗中の老舗が、どうやって太刀川さんと出会ったんだろう、どうして頼もうと思ったんだろうというのにも興味がありますね。
それから二人とも「チームでやっている」という点も新鮮だったな。デザインの仕事ってもう少しこじんまりやっているイメージがあったけど、特にグッドパッチなんか、一つのプロジェクトに人がうじゃうじゃ集まって議論して。太刀川さんもソーシャルイノベーションの領域において「他力をうまく使う」という話をされていて、結構固定概念が覆された。
モイモイ:実際にオフィスに伺えたのも面白かったですよね。それぞれ特徴が出ていて。グッドパッチでは最新のマシンを必ず全員分揃える、とか。
太刀川さんのオフィスからは野球場が見えて、ちょっと歩けば中華街。実際に横浜の地域活性化のプロジェクトにもいくつか取り組んでいらっしゃいますけど、横浜愛を感じましたね。(笑)環境って大事だなぁと。
エリー:そういう意味では地方のデザイナーさんたちも取材してみたいですね。私は太刀川さんと土屋さんの取材には同行しなかったので記事を読んでの印象ですが、デザイナーがコンサルタントみたいな役割になってきているなと感じました。根本のところから製品に向き合うという点で。昔からそうだったのか、最近そういう流れになっているのかは興味があります。
モイモイ:最近ちょうど、そんな内容の本を読みました。シリコンバレーのデザインの歴史を振り返った本(『世界を変える「デザイン」の誕生 シリコンバレーと工業デザインの歴史』バリー・M・カッツ、CCCメディアハウス)。この本によると、シリコンバレーでも昔はエンジニアが圧倒的に強く、デザイナーの地位は低かった。せいぜい、できあがった基板をどうカバーするかを考える程度だったそうです。それがヒューレット・パッカードにデザイン部ができたり、少しずつ成功事例を積み重ねることで工業デザインの重要性が認められていったと。
アップルはスティーブジョブズの深い理解もあり、デザイナーが大きな力を持っていました。それが、ここまで成長した大きな原動力にもなった。そして今では多くのシリコンバレーの企業がデザインを重視していて、土屋さんもおっしゃっていましたが、CDO(Chief Design Officer=デザイン経営責任者)みたいなポジションも出てきている。歴史的な経緯を見ても、デザイナーの役割、デザインというものの領域は広がってきてるんだと思います。
マーサ:デザインと直接関係ないんだけど、私は『ここらで広告コピーの本当の話をします』(小霜和也、宣伝会議)という本を読んでいるんですが、この本では「広告クリエイティブの役割は、モノと人の関係を改善すること」と言っています。キャッチコピーやクリエイティブによって、そのモノ自体の新しい価値を提案することができるかどうかが大事、と。しっかり本質を掘り下げるという部分で、デザインも同じような側面があるのかな、と思いました。
一方でお二人とも「売れなきゃしょうがない」ともいっていましたね。どんなにかっこいいモノを作ったとしてもユーザーに受け入れられるモノじゃないといけない。その両方の視点のバランスが大事なんですね。いかに本質を掘り下げながら売れる領域に持っていくか。職人技のような領域なのかなと思いました。
モイモイ:2人とも、仕事を受けるときの判断基準として、自分たちが価値があると思えるモノをやる、といった内容のことをいっていましたね。「その価値をいかに伝えるか」がデザインの役割なのかな。僕はコピーライターの仕事もしてるんですけど、ちょっと似ていますね。自分がいいと思えないモノをいくらほめても、それはだまして買わせることになっちゃう。まあ「いいところを見つける」というのはできるかもしれないけど。
アリ編集長:それにしても、あそこまで企業のことを調べているというのは驚いたね。太刀川さんなんか、山本山のプロジェクトを始めるにあたっていろいろな分野の調査をして、草書体まで自分で書けるようになっちゃったとか(笑)。ちょっとオタク的なところもあって、個人的には好感が持てました。
あとは二人の共通点として、クライアントの経営のことまで考えるっていうのもあったよね。でもそれってデザイナーとしては明らかに新しいよね。いわゆる“デザイン”が好きでデザイナーになっただけじゃ続かないよねぇ。
モイモイ:太刀川さんも土屋さんも、小さいころから絵を描いたり何かを作ったりするのが好きで美大に行って、というコースじゃない。そういう人たちがデザインの流れをリードしているというのが興味深いですね。
マーサ:私は素朴に、デザインって大変だな、と思った。そんなに考えなきゃいけないんだ、って(笑)。そういう風に思ってデザイナーになった人って、少ないんじゃないかと思うんですけど。どうなんでしょうね。
アリ編集長:以前だったら、絵やモノづくりが好きで、いっぱい練習して、美大に入って、デザイナーになった、というのが当たり前だったよね。でもいまデザイナーの領域は、プレゼンしたり、ブランド価値の定義したり、モックを作ったりとすごく領域が広くなってるな、と思う。経営のことまで考える、というのも拡張した先のひとつで。このまま広がり続けるのか、また細分化されるのか、どっちになるんだろうね。
モイモイ:デザインって価値を数値化しにくいがゆえに、なかなか価値が認められてこなかったというのはありますよね。でも、これからは経営者がもっとデザインを分からないといけないし、経営者と対等にやり合うためにもデザイナーは経営の知識が必要、ということは、どちらのインタビューでも感じましたね。
僕は大学で工業デザインのゼミにいたんですけど、そこの教授は美大出身の元デザイナーでした。でも「経営層でデザインが分からない人が多すぎるから、あえて美大じゃなくて総合大学で教えるんだ」といってました。そういう問題意識は以前からあったんですね。
マーサ:そういう教育がだんだん浸透してきて、現場でも活かされてきたのかな。
アリ編集長:今はまだ経営とマーケティングが近くてデザイナーの地位があまり高くない会社が多いから、デザイナーが一生懸命製品をデザインしても、最終的に「売れそうな」色にされちゃったりとか、よくある話だよね。苦労して陰影がきれいに出る造形を作っても「コーラルピンクかシャンパンゴールドで!」みたいな(笑)。
エリー:そうですね。そういう企業が多い中、デザインの重要性を理解している人がトップに立った企業がうまくいっている例が増えてきている。だからこそ余計に目立つのかもしれませんね。
マーサ:インタビュー企画は既に何本か走っていますが、「こんな人に取材したい」みたいなの、あります?
エリー:領域横断系のデザイナーさんが続いたので、「このプロダクトだけ作り続けてる!」みたいな職人系の方にもお話を聞いてみたいですね。
マーサ:いいですね。私は、IoTの進化によって拡張するデザイン領域にも興味があります。グッドパッチさんのお仕事なんかはまさしく、その部分を補う役割だなぁと。
アリ編集長:いいね。いろんなタイプがいていいと思うんだけど、若い世代の憧れの対象となる人たちをたくさん取り上げていきたいね。「こういう仕事の仕方って面白いよね」「こういう仕事をする人になってみたい」と思えるような。
マーサ:素敵。あ、関係ないけど、私、太刀川さんの取材のあとに反省会した中華街のお店が美味しすぎて忘れられない。
アリ編集長:山東(サントン)ね。(笑)
マーサ:取材後に、インタビューさせてもらったゲストに近くのおすすめのお店聞くとか(笑)
アリ編集長:迷惑な話だな(笑)
……
このあとも雑談は尽きなかったのですが、記事はこのあたりでおしまい。こんなかんじで編集会議をしていますので、「こんな面白い人がいるよ」「こんなイベントがあるよ」「TDに参加したいよ」などなど、情報がありましたら編集部あてにお寄せください。今後もTDを応援してもらえたら嬉しいです。