「僕もUI/UXデザイナーかもしれない」
マーサ:この企画、編集長の「UI/UXってぜんぜんわからない!」っていう発言から始まったんですが、編集長には見えてきました? 結局のところUI/UXって何か。
アリ編集長:うん、だいぶ。
マーサ:お、それはすごい。
アリ編集長:初回で医療スタートアップのUbieでデザイナーやってる畠山くんと話したじゃない? そのときに「ユーザーの声を聴きながら一緒に問題解決すること」みたいな話がでてきてさ。僕はこのTDの編集長だけじゃなくて、サラリーマンとして企業でも働いてるけど「それなら僕もUI/UXデザイナーかも」って思ったんだよね。で、それを話したら「そう言えると思う」って言われて。そこからこの企画をずっとみてきて「やっぱそうだったんだ」って。
マーサ:自分もUI/UXを考えてるな、って?
アリ編集長:そうそう。専門用語とかは知らなくても、長く会社員やっててずっとお客さんとしゃべってきて、行動観察とかカスタマージャーニーとか自然と考えてるなって。あとはもう、それぞれの回で言語化されていったことに対して、うんうんそうだよねって思ったり。
仕事を通じて、なんとなく経験とか先輩から聞いたこととかから体感的に吸収していたものが、この連載を通じて体系立てられて整理された感覚があったよ。
マーサ:途中、スピンアウト的に日産にいったじゃないですか。クルマのインテリアデザイナーの櫻井さん。あのときはモイモイに担当してもらったんですけど。
モイモイ:うん。
マーサ:質問はほぼ共通なのに全然違う世界が広がってて面白いなぁと思ったんです。アプリとかウェブサイトのデザイナーさんが続いていたから、物理的に触れる・乗れる・操縦できるものってまた全然ちがうんだなって。
モイモイ:サービスかプロダクトか、という違いもあるかもしれないね。
他のいろんなネタを取材する中でも、モビリティ分野でのUXというとかなり領域が広がっている印象を受ける。
マーサ:ほうほう。
モイモイ:例えばクルマに関するUXというと、乗車時の体験だけではなくなっている。旅行とかもそうだけど。朝起きて寝るまでに体験する一連の流れ、そこで生まれる記憶や思い出。それらをまとめてUXと呼ぶようになってきているんだよね。
例えば日産だったら、ショールームでクルマを初めて見るところから、あるいはその前にカタログを見るところから始まってる、とかね。
マーサ:オンラインの世界とはまた少し、違うアプローチだ。
モイモイ:余談だけど日産のショールームでは同じ香りを使ってるんだよ。香りって記憶にリンクするから。それをどこかで嗅ぐとまた日産を思い出すとか。そんなことからデザインしてる。
アリ編集長:マツダもつくってたよ、マツダの香り。Audiも。zozoの大久保さんが言ってたマックのポテトだね。
モイモイ:クルマだと、そういう、車に乗ってない時の体験と、車に乗り込んだ時の体験、それぞれを考えてる人たちがいるんだよね。
マーサ:今思い出したけど、マツダの初代ユーノス・ロードスターのデザインを手掛けたトム俣野さんは、ロードスターのデザインをするときに「街でロードスターを見かけてから、納車されるまで」の物語を書いていた。そのあたりの話は、qubibiの勅使河原さんが話していた、UXを考えることは「ユーザーの時間を考えること」とか、Fantasiaの毛利さんが話していた「願いを考えること」みたいな話につながってくるのかも。
UXを考えること=ビジネスを考えること?
マーサ:先日、編集部で、第一回UX検定を受けたじゃないですか。私はいろいろあって次回の受験にチャレンジする予定だけど、二人は合格。どうだった? テキストをちらっとみたけど、個人的には正直「デザインの話ではないのかも」という印象を持った。
モイモイ:どちらかというとビジネスの話なのだよね、UXは特に。「人間中心設計」っていうキーワードが検定の中でもでてきたけど、既存のサービスの中で何を提供したいかではなく、「ユーザーが何をしたいか」を中心に考えていく。例えばぼく、先日ジャカルタに出張に行ってきたんだけど、レポートもしたバイクタクシーの「Grab」は、人だけじゃなくていろんなものを運んでる。マッサージ師を運べば出張マッサージサービスだし、お掃除の人を運べばハウスクリーニングサービスだし、食べ物を運べばフードデリバリーだし。「タクシーサービス」という既存の枠組みに捉われずに、ユーザーが何をしたいのかを徹底的に考える、という視点が、UXを考えることなのかもしれないとも思う。
マーサ:ユーザー体験の設計であるとともに、ビジネスモデルの設計でもあるし、新規事業の立ち上げにもつながってますね。
モイモイ:そうなんだよね。
アリ編集長:自社だけでやれる範囲で何かをするのではなく、ユーザーの行動を起点にビジネスを描いていく、という視点だね。
モイモイ:ビジネスがデジタルの世界に移行してくると、全部がデータでつながるようになるから。
マーサ:そう考えるとデザイナーの領域はますます広がっていきますよね。今までは自社のサービスやプロダクトのことだけを考えていればよかったのが、UXだ、人間中心設計だ、って話になると一気に……。デザイナーの仕事って何をすることなんだろうか、ってちょっとそわそわしちゃいます。
アリ編集長:デザインと呼ばれる領域が広範囲になってくると、専門性だけだと厳しいのかもしれないよね。グラフィックデザイン、プロダクトデザインみたいに専門領域で区分するのは、現実がアナログだったときにはきっと一番効率が良かったんだけど、今は全部つなげて考えていく時代になったから。デザイナーだけじゃなく、ビジネス側の人たちもめちゃくちゃUXについては考えてるから。
マーサ:そういう意味では、UX検定はビジネス側の人たちへのものなのかなぁ。デザイナーの人たちはUX検定の内容をみてどう思うんだろう。だって、この企画でUI/UXの勉強法を聞いたけどみんな口を揃えて「学校で勉強しても身につかない」って言ってたじゃないですか。
アリ編集長:デザインについてなじみのない人や、初めてUXを考える人にとっては今回の試験で出たような用語や内容を体系的に理解しておくことは有意義だと思うよ。チーム内の認識を合わせながらプロジェクトを進めることができるようになるから。ビジネスの現場だと、何をやるにしても説得材料が必要になる。リサーチ結果とかユーザーインタビューとか、それらの使い方をちゃんと知っておくことは大事なんじゃないかな。
モイモイ:最近はどこもしっかり、ユーザーリサーチをやりますからね。でもそこにも方法論がある。例えば有名な話だけど「どんな機能が欲しいですか?」とユーザーに聞いても絶対に答えは出てこない。どんなことに困っていそうか、をひたすら観察することが重要、みたいなこと。
アリ編集長:そうそう。そういうことは体験的に知ってはいても、改めて解説付きで学ぶことで腹落ちするからね。そうした知識をチームメンバー全員がある程度共有して平準化していけば意思決定のスピードも質も上がると思う。だから「ただ試験用に専門用語を覚えるだけ」と斜に構えるんじゃなくて、素直に「学ぶところがあるかも」って思って取り組んでみるといいんじゃないかな。
石川くん、連絡ください
マーサ:次、どうしようかなぁ。
アリ編集長:僕がUI/UXについて迷いの森に入ったきっかけって、なんだったかな……あ! 石川くんだよ、石川くん。
マーサ:ん? なんでしたっけ?
アリ編集長:このサイトを作ってたとき途中で「UI/UX診断」があったんだよ。で「UXって具体的にはなに?」と彼に聞いたんだけど、そのとき色々話したら余計わけわかんなくなっちゃったの。だから石川くんとまた話すのはどうかな。今なら彼の話を理解できるのかな。
モイモイ:(笑)
アリ編集長:ということで、石川くん、この記事読んだら連絡ください。
マーサ:私、空間とか手掛けてる人にも聞いてみたいんだよなぁ。あと、UXにしぼるならファッションとか、音楽もいいかも。
モイモイ:いいね。それぞれの領域で絶対いるよね。UX考えてる人。
アリ編集長:空間といえば、まごころ学園とか、いま改めて考えるとUXの話だったよなぁ。
マーサ:本当にそう! 施設の中に円環構造をつくることで多動性のある子たちがずっと「動き続けられる」とか。デザインって、作り手側の意図する動きに使用者を誘導していくものだという先入観があったから、そこからすごく自由になったかんじがしてびっくりしたんですよね。もしかすると、アナログな世界の中での話として深くなっていって、全然別の山に登ることになるのかもしれないんだけど。
アリ編集長:でも、この連載でいろんな人たちと話したことで、この連載以外の記事で取材した人たちの話も全部新しい見方で捉えられるような、いいきっかけにもなったかな。
マーサ:すごい、きれいにまとまった!
さて、次はどこにいこう?
約1年間追いかけてきたUI/UX。この連載を通じて、特にUXはデザインとビジネスの両面から見つめる必要があるものなのだと実感している。いや、これはすでにたくさんの人によって語られてきたことなのだけど……ぐるりと回ってスタートラインに戻ってきたような感覚にも近い。
デザインの現場で奮闘する人たちと一緒に考えてきたUXについて、ビジネスやアカデミックの現場に場所を変え、もう一周してみたら次は何が見えてくるかな。
とりあえず石川くん。可及的速やかに編集部まで連絡を!