クリエイティブスタジオWhateverが自社プロジェクトにこだわるのはなぜか

Feb 02,2024report

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Feb02,2024

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クリエイティブスタジオWhateverが 自社プロジェクトにこだわるのはなぜか

文:
TD編集部 出雲井 亨

2023年11月10日に東京・虎ノ門で「design surf seminar 2023 – デザインの向こう側にあるもの – 」が開催された。この中から、幅広い分野で作品を生み出し続けるクリエイティブスタジオ・Whatever(ワットエバー)の川村真司氏のセッション「見たことないアイデアを実現するためのプロセスとカルチャー」をレポート。後日実施したインタビューや、編集長が訪れた「老いパーク(日本科学未来館)」の様子も交えてお届けする。

インタビュー:究極の理想は「放っておいても何か面白いものを生み出せる会社」

川村さんは、学生時代から「アイデアを形にする」という実行力が優れていたと思いますが、自分ではどう思いますか。

川村:「つくってみないと分からない」と思っているのは、当時から変わらないかもしれません。学生の頃はヒマだったというのもありますが(笑)。「紙に描いてあるだけのアイデアにはまったく価値がない」と有名な誰かが言っていましたが、僕もその通りだと思います。単純に、自分も周りの人も、実際に形になったものを見るまでは気づけない良さも悪さもありますよね。「本当にこのアイデアは面白いのか」を判断するためには、やっぱり目に見えたり触れたりするようなプロトタイプが必要です。

実際に形にしてみると、自分なりに「これ面白いじゃん」とか「なかったことにしよう」とか判断できるだけでなく、それを見て周りに「面白い」と手伝ってくれる人も現れます。アイデアを語ってるだけだとどこまで本気か分からないけど、「こんなヘンテコなものを2カ月もかけてつくった」となれば、それ自体が面白いし、手伝ってやろうかという仲間も増えます。

実際、今絶賛製作進行中のコマ撮り時代劇「HIDARI」もそんな感覚で進めています。あれは(コマ撮りアニメーション・スタジオの)ドワーフさんからお誘いいただいたという経緯はありますが、企画書2枚とかで「木彫りの人形がアクション満載のチャンバラを繰り広げて〜」とか説明するだけだったら、仲間はそんなにたくさん集まらなかっただろうと思うんです。でも敢えていきなり5分のパイロット・フィルムをつくったからこそ、世界で「すげえ」と思ってくれる人がいたり、ハリウッドの関係者が注目してくれるようになりました。「形にすること」は、僕が根っこの部分で大切にしていることかもしれません。

木彫り人形を使ったストップモーション映像の「HIDARI」。クラウドファンディングで5分のパイロット・フィルムを制作。今後長編映画化を目指す。
川村さんの根っこにある「アイデアを形にすること」へのこだわりが、今回のセッションのテーマでもあるWhateverの「自社プロジェクト」へのこだわりと重なるように思います。

川村とても近いところはありますね。僕の究極の理想は、ほおっておいても新しいもの、面白いものをどんどん増やせる社会にしたい、ということ。シンプルに「世の中に面白いものが増えてほしい」と思っているんです。だから別に自分がつくらなくてもよくて、勝手に面白いものをつくるひとが育ってくれたらうれしいと思ってWhateverというチームを育てているつもりです。

僕自身は、思いついたらつくらずにいられない性格なので、会社にとめられるまでずっとつくり続けてしまいますが、なかなかそこまでの変人はいません(笑)。だから自分が率先して実行しつつ、他のメンバーがアイデアを出しやすい環境や、いいアイデアを引っ張り上げるしくみをつくることを意識しています。リモートワーク用部屋着の「WFH (Work From Home) Jammies」はうちのデザイナーのアイデアだし、「らくがきAR」も別のCDのアイデアです。こういうプロジェクトもっと増やしたいですよね。

自社プロジェクトを通して、普通のクライアントワークではつくれないような変なものを自分の作品としてつくれたり、プロジェクトの生み出し方を体験を通じて学んだりできるので、会社としても非常に価値ある活動かなと思っています。

逆に、アイデアはあるけど自分で動くのは苦手、というタイプの人もいるので「アイデアだけでも参加OK」といってます。周りが「面白い」と思うアイデアであれば、本人がつくれなくても周りの人が手伝ってつくればいい。だからWhateverでは、アイデアを出しただけでも、「idea:●●●」とクレジットに載せることにしています。この文化は、どんどん世の中に広まってほしいですね。

TD編集長が体験! Whateverの最新作「老いパーク」

2023年11月22日、東京都江東区の日本科学未来館に新たな常設展示「老いパーク」がオープンした。これは老化による目・耳・運動器・脳の変化を疑似体験することをテーマにした展示で、そうした老化現象が起こるメカニズムや対処法、将来身近になるかもしれないサポート技術などを知りながら、鑑賞者自身の老い方を考えていくというもの。

Whateverはその展示企画・設計・制作を担当。ということで、老いに片足を突っ込んだ58歳のTD編集長、有泉がさっそく体験してきた。

リーフレット。老眼疑似体験でボケボケなのが面白い!編集長曰く「 確かに老眼とはそういうものです。わかるわかる。」とのこと (「ぼやけていないパークガイド」もwebサイトから読める
プリクラブース「笑って怒ってハイチーズ!」。脳の老化による表情の読み取り方の変化を体験できる

「老いパーク」、楽しかったー! 全体的にゲームセンターみたいにポップでカラフル。老いがポジティブに表現されているのがいい。特に印象的だったのは、高齢者へのインタビュー動画が見られる「自分らしい老いって?」のコーナー。人生の先輩たちが笑顔で「老いは自由だ」「老いは解放よ」とかワクワクした顔で言ってて、すごいパワーもらった。僕はいま58歳で、この先身体は衰えてゆくんだけど、トータルで見たらそんなに悪くないんじゃないかって思えた。(有泉編集長)


「老いパーク」

日本科学未来館
東京都江東区青海2-3-6
Tel: 03-3570-9151(代表)
展示エリア:3階常設展示ゾーン「未来をつくる」
休館日:火曜日、年末年始(12月28日~1月1日)
開館時間:10時~17時(入館券の購入および受付は16:30まで)
入館料:大人630円、18歳以下210円

 

川村真司(かわむら・まさし)

Whateverのチーフクリエイティブオフィサー。180 Amsterdam、BBH New York、Wieden & Kennedy New Yorkといった世界各国のクリエイティブエージェンシーでクリエイティブディレクターを歴任。2011年東京でPARTYを設立し、PARTY New York及びPARTY Taipeiの代表を務めた後、2018年新たなクリエイティブスタジオWhateverをスタート。2023年よりOpen Medical LabのCCOにも就任。数々のグローバルブランドのキャンペーン企画を始め、プロダクトデザイン、テレビ番組開発、ミュージックビデオの演出など、その活動は多岐に渡る。カンヌ・ライオンズをはじめとした国際賞を100以上受賞し、Creativity「世界のクリエイター50人」、Fast Company「ビジネス界で最もクリエイティブな100人」、AERA「日本を突破する100人」などに選出されている。

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